ミッションインクリスマス

ぼんやりRADIO

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〇教室
  カケルと親友のコウタは
  クラスの女子からクリスマス会に誘われた。
  だが惜しいことにカケルは彼の人生におけるそのクリスマス会の本当の価値を全く理解できていない。
  カケルはクリスマス会に誘われて確かに喜んでいたが、それはクリスマス会の会場がトシエの家だったからだ。
  トシエの家は郵便局をやっていた。
  だからカケルは
  「郵便局の内部を探検出来る」
  という一点で喜んでいたのだった。
  それは電車を見て喜んでいる幼児と
  同じレベルの歓びであって、
  女子に2対2のデートに誘われた
  という歓びではなかった。
  彼の人生において、
  後にも先にもそんな状況は
  訪れはしないのに・・・。

〇広い和室
  クリスマス会の当日。
カケル「郵便局の2階ってこうなってるんだ・・・」
コウタ「広いな・・・大人が大勢いても大丈夫だな・・・」
  クリスマスツリー、そしてクリスマス会用の長四角のテーブルが置いてあった。
  手持無沙汰でいると檻の中にいる動物になった気分になったカケルとコウタ。
  その檻の中でCDプレイヤーという
  オモチャを見つけたカケルとコウタ。
  CDプレイヤーの傍に昔のアニメの主題歌らしきCDがあったのでプレイヤーにセットしてスイッチを入れた。
  曲がかかった。
  カケルとコウタは一瞬絶句した。
  そしてすぐに二人とも爆笑した。
  声もメロディも歌詞も全てが
  可笑しかったからだ。
  しばらく何度も同じCDを聴きながら二人でお腹を抱えて笑っていたら、
  トシエとユキコが果物をいっぱい持って現れた。

〇広い和室
  トシエの母親も手伝って、
  トシエとユキコは材料やら器やらを
  どんどん置いていった。
  それから、女子二人が真面目に果物を剥いたり切ったりした。
  カケルとコウタも手伝った。
  なんか家庭科の授業みたいだったけど楽しかった。

〇まっすぐの廊下
  数日前、カケルとコウタは教室でこの女子二人から「あんたたちはフルーツポンチが好きか」と質問されて「好きだ」と答えた。
ユキコ「苺好き?」
カケル「大好き!」
  そんなやりとりもあった。

〇広い和室
  フルーツポンチが出来上がると、クリスマス会が始まった。
  ケーキや紅茶もあった。
  カケルは出された物が美味しくて、郵便局探検の事など忘れて、飲み食いに集中した。
  特にフルーツポンチが美味しくてお代わりを何度もした。
  何回目かのお代わりの時に、急にユキコがカケルの器とスプーンを取り上げた。
  そしておもむろに、
  「あ~ん」と言ってフルーツポンチが乗ったスプーンを差し出したのである。
ユキコ「あ〜ん」
カケル(!?)
ユキコ「あ〜ん」
カケル(・・・馬鹿にしてるのか?)
ユキコ「あ〜ん」
カケル(なんなのだこれは。この仕打ちは。ユキコ、どうしてそんな事をする? これまで散々からかってきたからその仕返しなのか?)
カケル(この恥ずかしい状況をどうしにかしなければ・・・ユキコめ・・・なにゆえ・・・なにゆえに!)
  迷ったけれどカケルはとにかくスプーンを自分の口でキャッチした。
  負けた。屈した。プライドが傷ついた。
  そんなカケルの傷口に塩を塗るように、
  ユキコはまた「あ~ん」と笑顔でやってくる。
ユキコ「あ〜ん」
  カケルの全身が恐怖で満たされていく。
ユキコ「ほら早く食べなよ! カケルの好きな苺を いっぱい入れたんだよ!」
カケル(!?)
  カケルはあほみたいな顔で
  もう一度ユキコが差し出すスプーンを
  口でキャッチした。
  先ほどまでは侮辱されていたと思っていたが徐々に違う恥ずかしさが湧いてきた。
  そのピンチ(?)を救ったのは、
  親友のコウタだった。
  さっきのアニメの主題歌のレコードをかけて、歌って笑っている。
  カケルも一緒になって歌った。
  トシエとユキコはその様子を見ながら呆れた顔をしていた。

〇住宅街
  無事にクリスマス会がお開きとなって、
  カケルはユキコとコウタと三人で家に帰った。

〇桜並木
  年が明けて新学期が始まった。
  教室ではユキコと普通に話し、
  いつも通りからかった。
  そうしてすぐに卒業式も通り過ぎていった。

〇教室
  同じ中学に入学するとばかり思っていたユキコは、引っ越して別の中学校へ行ってしまった。その事が物凄くカケルを悲しくさせた。

〇学校の昇降口
  それ以来ユキコと会う事はなかった。
  そしてカケルは時が経つほどに自分がユキコを好きだった事に気付く。
  毎年クリスマスが近くなると様々なクリスマスソングが流れて気分を盛り上げてくれる。

〇クリスマス仕様の教室
  しかしカケルにとってのクリスマスソングは、コウタと二人で爆笑したあのへんてこなアニメの主題歌だった。
  同時にユキコの「あ〜ん」と言ってた時の顔も思い出しながら。
ユキコ「あ〜ん」

コメント

  • 小さな可愛い恋の物語ってこういうのをいうんでしょうね。子どもの頃ってなぜだか女の子のほうが少しませてて、精神的にはやく成長しますよね。それに対して男の子はなんというか無邪気な子が多いですね。そんな子ども時代の女の子と男の子とのアンバランスな可愛いやりとりがよく伝わってきました。

  • 子どもの頃って、だいたい女の子のほうが先に大人びちゃうんですよね。
    だからこそこの思い出が出来たわけですが。
    イチゴのような甘酸っぱい気分にさせてくれました。

  • 可愛らしいストーリーだなと思いました、子どもを題材にしたお話しってどこか童心にかえるというかなんというか、温まります。楽しく読ませて頂きました。

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