星の歯車

jloo(ジロー)

混沌の学園(脚本)

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〇広い屋上
  扉を開けると、冷たい風が私の頬を撫でていく。
  まだ夜ではないから星は見えないけど、広がる青空はこの世界では新鮮で。
リリス・ミスティック「綺麗・・・・・・」
  思わず、呟いてしまっていた。その時、背後で誰かが動く気配を感じる。
  振り返るとそこには、一人の少女が立っていた。
  彼女は、驚いたような表情を浮かべている。
リリス・ミスティック「テイラー・・・・・・!!」
  その顔には、見覚えがあった。
  船で会った新入生、その透き通るような髪の蒼が空に溶けるように風に揺られている。
テイラー・マナ「跡でも、つけてきたの?」
リリス・ミスティック「いいえ、偶然よ。この天体望遠鏡を見て、気になってここまで来てみたのよ」
テイラー・マナ「そうなんだ、僕は昼寝でもしようと思ってね」
リリス・ミスティック「まだ、寝るの? 船でも寝ていたんでしょう」
テイラー・マナ「あまりに退屈で、眠くもなるさ。リリスは入学式典は、終わったのかい」
リリス・ミスティック「ええ、終わったわ。テイラーのところは」
テイラー・マナ「終わったけど、散々だったよ。運悪く派閥の代表が行方不明になっているらしくてさ」
テイラー・マナ「会場は大荒れ。指導役が不在なんだから、当然だけどね」
リリス・ミスティック「代表が不在って、どういうこと?」
テイラー・マナ「僕にも、分からないよ。唯、今の学園は表面から見える以上に不穏な空気が流れているのは確かだね」
テイラー・マナ「代表不在により、僕たちの所属する監視者は統率が取れていない。それを好機と見た刈り人が、監視者に対して攻撃を仕掛けている」
リリス・ミスティック「攻撃って・・・・・・派閥同士で争って、一体刈り人に何のメリットがあるって言うの」
テイラー・マナ「恐らく、魔術連盟への加入枠の確保が目的だろう」
リリス・ミスティック「どういうこと?」
テイラー・マナ「この学園では在籍中に優れた成績を残した生徒の中から毎年一人だけ、魔術連盟に加入することが出来るんだ」
テイラー・マナ「・・・・・・つまり、派閥の代表だ」
テイラー・マナ「これまでは純粋に成績で争って、各代表の内から一人が選ばれていたようだけど今年は違う」
テイラー・マナ「刈り人の代表であるエリスは、他者を蹴落としてでも魔術連盟への加盟を果たそうと躍起になっている」
テイラー・マナ「そのせいで、今や学園は無法地帯だよ。皆、自分の身を守ることに必死だ」
テイラー・マナ「あくまでも、噂だけどね」
テイラー・マナ「刈り人は、いわゆる不良の集まりのようなもので、表向きは良い顔していても裏では何をしているか分からない」
リリス・ミスティック「そんな・・・・・・教員や星詠みは、そんな事態に何もしないの?」
テイラー・マナ「教員は、学園の規則通りに動いているだけだ。それに、星詠みは派閥同士の干渉を殊更嫌う。この問題に興味すら向けていないようだ」
リリス・ミスティック「そんなことって・・・・・・」
テイラー・マナ「とにかく、僕たちも自分の身は自分で守らないといけないということさ。・・・・・・授業は、真面目に受けることだね」
  テイラーが話を終えて立ち去ろうとした時、おもむろに彼女は私の手を掴んだ。
リリス・ミスティック「え!?」
  ──刹那の轟音。
  突然の事に驚き、彼女の向けた視線の先に私も合わせる。
エリス・グリモア「新入生のくせに、やるじゃない。私の魔術を、事前に察知出来るなんて」
テイラー・マナ「そんな殺気剥き出しで来られたら、ネズミでも気づきますよ」
エリス・グリモア「あら、ネズミはああ見えて結構鋭いのよ」
リリス・ミスティック「貴女は・・・・・・突然攻撃してくるなんて、何者ですか?」
テイラー・マナ「あれが、さっき言っていた刈り人の代表エリスだ」
リリス・ミスティック「あれが・・・・・・」
  その小柄な体格の生徒は、一見した印象とは異なりとても危険な人物のように思えた。
  目つきは鋭く、獲物を狙う獣のように隙がない。
  彼女が手に握る杖の先端からは、煙が立ち上っている。
エリス・グリモア「あら。私のことを知って貰えているなんて、光栄ですわ」
テイラー・マナ「入学して早々、散々な仕打ちですね。何故、わざわざ新入生である僕のことを狙いに来たんですか」
エリス・グリモア「そう、本来であれば貴女のような新入生の相手をするほど私は暇じゃない」
エリス・グリモア「でも、私の目は誤魔化せないわよ。テイラー・・・・・・貴女のその気配、一体何者なのかしらね」
テイラー・マナ「刈り人の代表に褒められるなんて、思ってもいませんでしたよ。悪いですが、こちらも本気で行かせてもらいます」
エリス・グリモア「ふふふ、その意気よ。才能のある芽は、早めに摘んでおかなくちゃ」
  二人の生徒が、対峙する。私はその光景を、まるで別世界の出来事のように見つめていた。
  だけど、次の瞬間。突如として響き渡った爆音に現実に引き戻される。
アンナ・スターブライト「私の縄張りで、何をしているのかしら? エリス」
エリス・グリモア「く・・・・・・アンナ・・・・・・」
  その攻撃を仕掛けたのは、二人の内のどちらでもない。
  中心に立つのは、先ほど演説をしていた星詠みの代表であるアンナさんの姿であった。
アンナ・スターブライト「私の目の届かないところでやるなら構わないけど・・・・・・縄張りに入ってまで暴れるなら、私も容赦はしないわよ」
エリス・グリモア「っ・・・・・・」
  エリスが暗い影のようなものを身に纏うと、一瞬にしてその姿が消える。
  静寂の中、その場に残されたのは私とテイラー。そしてアンナさんの三人だけだった。
アンナ・スターブライト「大丈夫?」
リリス・ミスティック「あ、はい・・・・・・」
  真っ先に私の元へと駆け寄ってきたアンナさんは手を差し伸べると、横目でテイラーのことを確認した。
  その視線に私に向けるような優しさは無く、どこか冷たく感じてしまう。
アンナ・スターブライト「貴女は、監視者の生徒ね。どうして、星詠みの寮にいるの?」
テイラー・マナ「ここって、星詠みの寮だったんですか? 知りませんでした」
アンナ・スターブライト「確かに、新入生だから知らなかったってこともあるかもしれないわね」
  相変わらず、その視線は冷たいままだ。
  だけど私の不安そうな瞳を見て考えを改めたのか、すぐに表情を和らげる。
アンナ・スターブライト「・・・・・・まあ、良いわ。貴女がこの学園に害を為す存在だと言うのなら、エリスに狙われる謂われは無いもの」
テイラー・マナ「ありがとうございます」
アンナ・スターブライト「感謝される、覚えは無いわ。それよりも、早くこの場から去りなさい」
テイラー・マナ「分かりました。リリス、行こう」
リリス・ミスティック「えっと・・・・・・あの・・・・・・すいませんでした!」
  腕を引かれるまま、私たちは学園の敷地内を走り抜けていく。

〇ファンタジーの学園
  そうして辿り着いたのは、寮の出口だ。テイラーはそこで振り返り手を放すと、こちらを見据えて口を開く。
テイラー・マナ「僕は、もう行くよ。リリスも、この学園がどういう状況にあるかは分かっただろう。どうか、気をつけて」
リリス・ミスティック「テイラー・・・・・・」
  そう言って彼女は、何処かに立ち去って行ってしまう。
  寮に取り残された私は、これ以上動く気力も無く自室に向かって歩き出したのだった。

次のエピソード:私の影

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