星の歯車

jloo(ジロー)

対する希望(脚本)

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〇地下室
  地下を走る、三つの足音。それは暗闇の中に響き渡り、冷たい空気を震わせる。
  肺から出る空気の音が、やけに大きく聞こえた。
  とにかく、この地下牢から抜け出さなくてはならない。そのためには、ひたすら足を動かすしかない。
テイラー・マナ「見えた、出口だ」
  最下層から見える螺旋階段の先から、光が漏れ出ているのが分かる。
  だがそれと同時に、こちらの存在を感知した刈り人が大声を上げる。
「貴女達・・・・・・どうして、牢から抜け出して居るの・・・・・・」
「彼女たちを、ここから逃がしては駄目! エリス様に、殺されてしまうわ」
「でも、それならどうすれば良いんですか」
「少しは、自分で考えなさい。魔獣を、解放するのよ」
「そんなこと・・・・・・もし、魔獣が地下牢の外にでも逃げ出したら・・・・・・」
「良いから、やりなさい! どの道、彼女たちを逃がしたら私たちは殺されてしまうのよ」
「は、はい。分かりました」
ルーシア・エンチャント「まずいわね・・・・・・」
  ルーシアが、不安そうな表情を浮かべる。
  それも当然だろう。檻の中には、軽く数えただけでも数十体もの魔獣が居座っているのだ。
  いくらテイラーやルーシアが強力な魔術師とは言え、この状況で魔獣と戦うことは難しい。
テイラー・マナ「まともに戦っても、勝てるわけが無いよね」
リリス・ミスティック「なら、どうするのよ。逃げるしか無いのかな」
ルーシア・エンチャント「逃げると言っても、魔獣を学園まで引き連れていくことになってしまいますけどね」
テイラー・マナ「今は、とにかく逃げることだけを考えるんだ。後のことは、命が助かってから考えよう」
「あ、貴女達・・・・・・ちょっと、待ちなさい」
  刈り人の静止の声を無視して、ひたすらに螺旋階段を駆け上がる。
  後ろを振り返ると、魔獣たちは私たちを追いかけてきているようだ。
  このままだと、追いつかれてしまう。
テイラー・マナ「ルーシアさん、お願いします」
ルーシア・エンチャント「分かったわ。後輩に頼ってばかりじゃ、監視者の代表の名折れだもの。良いとこ見せてあげる」
リリス・ミスティック「えっと・・・・・・何をするつもりですか」
ルーシア・エンチャント「簡単な、魔術よ。『氷結』」
リリス・ミスティック「うわっ!」
  突如、階下の地面が凍りつく。魔獣たちは、足を滑らせて最下層まで落ちていった。
リリス・ミスティック「凄いです、ルーシアさん」
ルーシア・エンチャント「でも、これも時間稼ぎにしかならないわ。早く、上を目指しましょう」
テイラー・マナ「ええ、それが良い」
  光の差す先へ、更に加速する。そして遂に、私たちは地上へと辿り着いた。
テイラー・マナ「外だ」

〇綺麗な図書館
リリス・ミスティック「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」
  外に出ると、周囲を囲むように立ち並ぶいくつもの人影があった。
  その余りにも異様な光景に、思わず背筋が凍る。
  だがその中に見慣れた姿を見つけ、安堵の溜息が出る。
リリス・ミスティック「キース先生」
  隣には、メイさんも居る。
  どうやら、異変を聞きつけた教員達が大図書館に集合してきたらしい。
キース・マクゼス「リリス君、後は私たちに任せて下がりなさい」
  それだけ言うと、キース先生達は地下牢の扉に魔術を行使する。
テイラー・マナ「封印術だ。それも、かなり強力な」
リリス・ミスティック「でも確かまだ中には、刈り人の生徒たちが・・・・・・」
  テイラーと、ルーシアは俯いてしまう。
  やがて扉を叩き叫びを上げる生徒たちの声が、大図書館に鳴り響いた。
「開けて! 開けてください・・・・・・! 魔獣が、すぐそこまで迫って・・・・・・」
  そのすぐ後に響く、甲高い悲鳴。私は耐えられず、耳を塞ぐ。
リリス・ミスティック「そんな、どうして・・・・・・どうしてこんなことに」
キース・マクゼス「リリス君。後で、この前の部屋まで来てくれるかな」
  キース先生は動じる様子も無く、私に声を掛ける。
  背後で響き続ける悲鳴は、やがて扉を掻くきりきりという音と共に深淵の底へと沈んでいった。

〇城の会議室
  夕刻、私は浮かない気分のまま部屋に訪れていた。
  そこには、キース先生とメイさん。そして、ルーシアとテイラーの姿もあった。
キース・マクゼス「来たか、リリス君。まあ、座りたまえ」
リリス・ミスティック「は、はい・・・・・・」
  言われるがままに椅子に腰かける。
  恐らく、既に大まかな事情をキース先生から聞いているのだろう。
  ルーシアさんとテイラーは緊張した面持ちのまま、私を見つめている。
  キース先生は一つ溜息をつくと、低い声色のままおもむろに話し始めた。
キース・マクゼス「エリスは、今回の件で自らの関与を否定している。部下が、勝手にやったことだと」
メイ・アストラル「やはり、そうですか。彼女が関わった証拠は、何処にも無かった」
メイ・アストラル「それに刈り人は粛正を恐れて、誰も話そうとはしないでしょうからね」
キース・マクゼス「まあ、そうだな。だが、エリスが魔術連盟と関わりを持っていることは間違いないだろう。問題は、その先だ」
リリス・ミスティック「問題というのは、魔術連盟が魔獣を生み出していることでしょうか」
キース・マクゼス「いや実のところ我々、杭(コルド)は魔術連盟の行っている非人道的な行為についてはある程度認知していた」
リリス・ミスティック「そ、それはどういうことなのですか」
キース・マクゼス「杭(コルド)の目的は、魔術連盟の行いを世間に暴くことでは無い。その存在を、この世界から抹消することだ」
キース・マクゼス「巨影霧については、知っているだろう」
リリス・ミスティック「ええ、原因は分かりませんが。霧が空を覆い、星の光を遮ってしまうという現象ですね」
キース・マクゼス「あれの原因は魔術連盟の総帥、モラン・ハルバートによるものだと考えている」
リリス・ミスティック「理事長が・・・・・・どうして、そんなことを」
キース・マクゼス「恐らく、それはある予言に基づいた行動なのだろう」
キース・マクゼス「テイラー君の話した、星降りの予言。彼も、シャーロットと同じ未来を見た可能性がある」
キース・マクゼス「ここにいる皆も、星の伝説については聞いたことがあるだろう」
キース・マクゼス「星が我々を見ていて・・・・・・悪行を行うことで落ちてくるのだとしたら、モランは世界を霧で覆い隠せば良いと考えたのだろう」
キース・マクゼス「少しでも、星が落ちてくるのを遅らせるために」
テイラー・マナ「シャーロット様が、モランに予言について話したということですか」
キース・マクゼス「いや、その可能性は低いだろう。彼女が、彼を信用するとは思えない」
キース・マクゼス「それよりも考えられるのは、彼自身の才能によるものだろう」
キース・マクゼス「彼も、学園の理事長を務める男だ。それなりの実力を、持ち合わせている」
ルーシア・エンチャント「図らずも二人の天才が、同じ未来を見たということですね」
テイラー・マナ「でも、それと魔獣を作り出すことに一体何の関係があると言うんですか」
キース・マクゼス「彼の考えは、分からない。ただ、焦りを見せているのは確かだ。手遅れになる前に、何か対策を打たなければいけない」
キース・マクゼス「魔術連盟は、力を持ちすぎた。魔術を独占することによって、彼らは世界を牛耳ることが出来る程の権力を手に入れてしまったのだ」
キース・マクゼス「そして、その力が暴走を始めている。止めることが出来るのは、同じ土俵に立つ我々しかいない」
テイラー・マナ「僕は元より、シャーロット様の言いつけ通りに動くだけだけどね」
ルーシア・エンチャント「私は、監視者の代表として成すべきことをするだけです」
リリス・ミスティック「私は・・・・・・」
  兄のことを、思い浮かべる。
  こんなことになってしまって、私は本当に真相に辿り着けるのだろうか。兄を、取り戻せるのだろうか。
  泣きそうになる顔を、ぱんと叩く。
  その様子を見てキース先生も察してくれたのか、優しい表情を浮かべてこちらに語りかけてくれた。
キース・マクゼス「ノア君のことは、心配いらない。今は、自分のやるべきことを考えよう」
リリス・ミスティック「・・・・・・はい」

〇ファンタジーの学園
  部屋を出る頃にはすっかり日も落ちてしまい、辺りには夜の帳が下りていた。
  暗闇の中に浮かぶ学園の姿は昨日見たものとはすっかり異なり、どこか不気味さすら感じさせる。
  不安を振り払うように、私は寮に向かって走り出した。

次のエピソード:忘失と幻想

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