〇豪華な社長室
キース・マクゼス「君の志望動機を、改めて聞かせて貰いたい」
　　キース先生の部屋に着いた途端無言で椅子に座らせられた私は、まるで面接のような質問をされている。
　　今この部屋は、入学を後押しして貰えるきっかけになったあの日と同じような空気感に満たされていた。
　　先生の瞳は、真剣そのもので。冗談を言えるような雰囲気では無い
リリス・ミスティック「私の、希望は変わりません。ノア兄さんの行方を探り、取り戻すため・・・・・・それだけです」
キース・マクゼス「ノア・・・・・・オラクル。聞くところによれば彼とは血が繋がっていないようだが、仲が良かったのかい」
リリス・ミスティック「はい。両親が早くに亡くなってから、私が頼れるのは兄だけでしたから」
キース・マクゼス「そうか。一応、確認を取っておきたかっただけだ」
キース・マクゼス「君の願いは、叶うだろう。余程の運と、努力を惜しまなければの話だが」
リリス・ミスティック「はい。魔術を究めることで、全ての願いを叶える力を手に入れることが出来ると聞きました」
キース・マクゼス「それは、真実だ。実際にこの学園でそれを成した者が一人だけ居る」
リリス・ミスティック「シャーロット・・・・・・アルケミスト」
キース・マクゼス「彼女が、この世界に与えた恵みは計り知れない。魔術無き世界で、これ程彼女が崇め続けられるのも必然と言えよう」
キース・マクゼス「強大な魔力を持つということは、それ相応の責任が伴うものだ。君に、その覚悟はあるかい」
リリス・ミスティック「はい。ノア兄さんを、取り戻すことが出来るのならば」
キース・マクゼス「良いだろう。事前に説明した通り、学園では私の雑用を引き受けて貰うことになる。それにも、異論は無いかい」
リリス・ミスティック「はい、そういう約束ですから」
キース・マクゼス「君はこれから、他の生徒よりも多くの苦難を経験することだろう。だが、決して諦めてはいけないよ。ノア君のためにも」
リリス・ミスティック「どういうことですか？　やはり、私の生まれの影響でしょうか」
キース・マクゼス「それだけじゃない。まあ、いずれ分かるさ」
リリス・ミスティック「そうですか・・・・・・ありがとうございます。私、頑張ります」
　　キース先生は小さく頷くと、それ以上を語ることは無かった。
　　今日の仕事は、ここまでみたいだ。
　　しばらくの静寂の後、私は既にこちらから視線を逸らしている彼の背中に深々と礼をして部屋を後にした。

〇古い施設の廊下
　　話を終えた後、私は再びテイラーの元へと向かった。
　　だけど物置部屋に彼女の姿は無くて・・・・・・探している間に、気が付けば下船の時間になっていた。
リリス・ミスティック「テイラーちゃん、きっと先に船から降りちゃったんだね。私も、急いで行かないと」
　　慌ただしい船内の喧噪の中、私は人の流れに沿うように出口へと向かう。
　　そしてようやく甲板へと辿り着いた時、私は目の前に広がる光景に思わず愕然としてしまう。

〇ファンタジーの学園
リリス・ミスティック「ここが、プラネテューヌ学園」
　　巨影霧以後長らく日差しを浴びることが無い生活を送ってきたから、余計に太陽の光が目に沁みた。
　　目元に手を当てながら、周囲を見渡す。
　　巨大な校舎がいくつも並び立ち、まるで一つの街のようになっている。
　　学園の敷地内にある森には、綺麗な川が流れていて・・・・・・。そこには、魚が泳いでいるのが見えた。
リリス・ミスティック「凄い・・・・・・」
　　感動のあまり、言葉が出てこない。
　　私はしばらくの間、呆けた顔のままその場に立ち尽くしていた。
アンナ・スターブライト「貴女も、《星詠み》ね。こちらに、いらっしゃい」
リリス・ミスティック「え、私のことですか？」
　　突然、目の前に現われた一人の女性。
　　彼女は穏やかな笑顔をこちらに向けると、少しかがんで私に視線を合わせてくれた。
アンナ・スターブライト「初めまして、まずは自己紹介から始めましょうか。私はアンナ、この学園で生徒会長をやっています」
リリス・ミスティック「え、生徒会長さんだったんですか!?　私はリリス、新入生です。よろしくお願いします」
アンナ・スターブライト「リリスさんね、良い名前だわ。貴女のことを歓迎するわね、こちらにいらっしゃい」
リリス・ミスティック「は・・・・・・はいっ！」
　　彼女は、もう一度にっこりと微笑むと手招きしながら何処かに進んで行く。
　　気づけば、他の生徒は誰もいない。
　　緊張の中、私は学園の敷地内へと足を踏み入れた。