星の歯車

jloo(ジロー)

船出の刻(脚本)

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〇中東の街
  かつて、この世界に存在した《魔術》という概念。
  人間の生活に欠かせない程に噛み合ったその歯車は、ある日を境にして忽然と失われてしまった。
  《巨影霧(グラウンドミスト)》──それは突如として起こった世界の大変革だった。
  空を覆い尽くす暗雲が、魔術の源泉である星の力を遮ったのだ。
メイ・アストラル「だが、ここ《プラネテューヌ学園》だけは違う。ぽっかりと空いた雲間から、星の力が降り注ぐ奇跡の場所だ」
ノア・オラクル「奇跡か・・・・・・これが偶然だとしたら、相当にたちが悪いな」
メイ・アストラル「必然だとしたら、筋書きを書いた脚本家はよほど性格が捻くれているに違いないね」
  二人は視線を合わせることもなく軽口を叩き合う。
  ここが俺たちの敵である《魔術連盟》の本拠地であること、その事実・・・・・・危機感がむしろ二人に冷静さを取り戻させていた。
「《杭(コルド)》の名にかけて」
  眼前に手を掲げ、誓いの言葉を交わす。
  二人の声が重なると同時に、手のひらの間に黒い光が収束していった。
  やがて現れたのは、二対の漆黒の槍。
  それはまるで、夜の闇に浮かぶ三日月のように鋭利で美しい。
  視線で合図をすると二人は同時に地を蹴り、施設の内部へと駆け出した。

〇古い施設の廊下
リリス・ミスティック「えーっと、ここがこうなっていて・・・・・・」
  崩れそうな書類の山を抱えて、私は船内を移動していた。
  この書類は全て、これから入学するプラネテューヌ学園の備品リスト。
  私は、備品のチェックのためにあちこちを駆けずり回っているのだ。
  新入生として歓迎されるべきところ、このような雑用に身を捧げているのは何故か。
  それは、私が無理を言って入学させて貰うからに他ならない。
リリス・ミスティック「うわぁっ、すみません!」
  突然目の前に現われた人影にぶつかりそうになり、慌てて身を下げる。
  そこに立っていたのは、教員の一人であるキース先生だ。
  彼は驚く私と反面、落ち着いた表情でこちらを見つめていた。
キース・マクゼス「リリス君、備品のチェックが終わったら私の部屋まで来てくれ」
  一言、それだけ呟くと廊下を歩いて行ってしまう。
リリス・ミスティック「はい!分かりました!」
  私は抱えた書類を持ち直しながら、去りゆく背中に大きな声で返事をした。
  その声は虚しく反響し、船内に響き渡る。
リリス・ミスティック「はあ。私、何しているんだろう・・・・・・」
  遠くからは、新入生達の賑やかな笑い声が聞こえてくる。
  船内では生徒同士の親交を深めるために、催し事が行われているらしい。
  私は、それに参加することは出来ない。
  あちら側に居るのは、身分という壁のそのまた向こう側に住む人達なのだから。
リリス・ミスティック「本来、私のような平民が入学できる学園じゃ無いのだもの。文句を言っていても、しょうがないわ」
  頬をパチンッと叩き、気持ちを切り替える。とにかく今は、与えられた仕事を全うしよう。
  それが終われば、多少の自由時間も与えて貰えるかもしれないのだから。

〇兵舎
リリス・ミスティック「失礼します」
  ノックをしてドアを開けると、そこは物置のような場所だった。
  閑散とした室内には、所狭しと木箱や段ボールが置かれている。
  その数に、絶望する。
  この量では、全て調べ終えるまでどれ程の時間がかかることか・・・・・・。
リリス・ミスティック「考えていても、仕方が無いわ。とにかく、身体を動かさなくちゃ」
  そう思って、木箱に手を掛けた時だった。
  ──ガタッ!!
  何かが倒れるような、大きな音が響く。
  吊られたような肩のまま音のした方を振り返ると、そこには一人の女性が倒れ伏していた。
リリス・ミスティック「大丈夫ですか!?」
  私は慌てて駆け寄り、抱き起こす。
テイラー・マナ「ふにゃぁ・・・・・・」
  眠そうな目を擦りながら、彼女は大きく欠伸をした。
  その姿がまるで猫のように可愛らしくて、思わず吹き出してしまう。
  寝ぼけている彼女を優しく床の上に座らせ、乱れた衣服を整える。
  少しだけ意識が覚醒してきたのか、彼女はキョトンとした顔で首を傾げた。
テイラー・マナ「君は?」
リリス・ミスティック「私は、新入生のリリスよ。貴女もその制服を着ているということは新入生よね? こんなところで、何をしているの」
テイラー・マナ「ああ、ちょっと退屈でね。昼寝でもしようと思って、人の居ないところまで抜け出して来たんだ」
リリス・ミスティック「そうなんだ。でも、ごめんね。これから備品のチェックをしないといけないから、少し部屋から出ていて貰いたいのだけれど」
テイラー・マナ「備品のチェック? 新入生が?? 一体、何の罰だい」
リリス・ミスティック「私、育ちが悪いから。知り合いの教員に無理を通して入学させて貰う代わりに、雑用を引き受けることになっているの」
テイラー・マナ「ふぅん、成る程。だからか」
リリス・ミスティック「何が? どうかしたの?」
テイラー・マナ「いや、僕が自然に話せる相手ってあまり居ないからさ」
テイラー・マナ「どいつもこいつも人の機嫌ばかり窺ってくる奴らばかりで、正直うんざりしてたんだ」
テイラー・マナ「これも、何かの縁だ。備品のチェックを手伝うことにするよ」
リリス・ミスティック「え、良いの?」
テイラー・マナ「そもそもこの部屋の備品チェックを終わらせないと、僕はこの部屋で寝ていられないんだろう? なら、やるしかないじゃないか」
リリス・ミスティック「ありがとう、助かるわ。えっと・・・・・・貴女のことは何て呼べばいいか」
テイラー・マナ「テイラー、僕のことはそう呼んでくれ。それで、君は?」
リリス・ミスティック「リリスよ。よろしくね、テイラー」
テイラー・マナ「それじゃあ、さっさと始めちゃいますか。久しぶりに身体を動かすから、上手く出来るかどうか分からないけど」
リリス・ミスティック「良いわよ、それでも助かるわ。重い荷物は、私が運ぶから安心して」
  備品のリストを確認しながら、二人で作業を進めていく。
  私達は雑談を交えながらも順調にチェックを進めていき、気が付けば全てのチェックが終わっていた。
リリス・ミスティック「終わったわね。これで、後はキース先生に報告すれば終わりだわ」
リリス・ミスティック「って・・・・・・、テイラー?」
テイラー・マナ「ぐーすか・・・・・・ぷぃー・・・・・・」
リリス・ミスティック「寝てる。さっきまで一緒に作業をしていたのに、いつの間に・・・・・・」
リリス・ミスティック「起こしてしまうのも、可愛そうよね。彼女が眠っている間に、キース先生に報告を済ませてしまいましょう」
リリス・ミスティック「こんなものしか無いけど、ごめんね」
  近くにあった布を手に取り彼女に掛けると、足音を忍ばせて私は部屋を出た。

次のエピソード:これからの学園生活

コメント

  • しっかりした世界観と設定を感じられて読み応え抜群でした!これからリリスとテイラーがどんな物語を紡いでいくのか楽しみです!

  • リリスはとても魅力的な女の子なのでしょうね。テイラーは彼女の何に惹かれたのか、又テイラー自身は何物なのかとても気になります!

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