クリスマスの恩返し(脚本)
〇大学の広場
クリスマス。それは恋人たちにとっての一大イベント
花澤 あやね「ごめんね。その日はちょっと先輩と・・・」
彼女は花澤さん。俺の彼女だ。
二ノ宮 伊知郎「そりゃそうだよね。いや、気にしなくていいよ。仕方ないって」
花澤 あやね「いつもごめんね伊知郎くん・・・」
二ノ宮 伊知郎「また電話するよ」
花澤 あやね「うん!待ってる♪」
先ほどの発言には誤解を招く恐れがありました。慎んでお詫び申し上げます。
花澤さんは俺の彼女だ。
だが、俺は花澤さんの彼氏ではない。
浮気相手だ。
〇シンプルなワンルーム
二ノ宮 伊知郎「はぁ〜。クリスマスまでには、先輩と別れて俺と付き合うって話じゃなかったのかよ・・・」
こっそりフォローしている花澤さんのインスタグラムをチェックするのが、俺の日課だ
二ノ宮 伊知郎「「クリスマスのデートは彼氏とイルミネーション見に行く。楽しみ♡」って・・・」
二ノ宮 伊知郎「畜生ーーーーー!!!!!!!!」
ダンダンダンダン!!!!!!
外から部屋のドアを強く叩く音が聞こえた。
二ノ宮 伊知郎「やべっ! 声でか過ぎたか・・・」
俺はおそるおそるドアを開けた。
二ノ宮 伊知郎「大声出して、すみませ──」
〇マンションの共用廊下
ドアを開けると、幼い少女が立っていた。
少女「メリークリスマスぞよ」
二ノ宮 伊知郎「え・・・?」
二ノ宮 伊知郎「えっと・・・お家のひとは?」
少女「ぬう? 何をわけのわからぬことを?」
少女「ああ! 我がこんな姿だからか!」
少女「我は地蔵だぞよ」
二ノ宮 伊知郎「ハロウィンならとっくに終わってるよ? そもそも地蔵ってのもムリあるけど・・・」
少女「信じられぬのか!?」
少女「わざわざオーシャン東九フェリーに乗って徳島から来てやったというのに」
二ノ宮 伊知郎「徳島・・・俺の地元!?」
二ノ宮 伊知郎「そりゃあ長旅お疲れさまだな・・・」
少女「船酔いしてるから、ちょっとお前さんの部屋で休んでいくぞよ」
地蔵を名乗る、どう見ても小学校低学年の少女は、ずけずけと俺の部屋に上がり込んできた。
〇シンプルなワンルーム
二ノ宮 伊知郎「じゃあ君が地蔵だと仮定して聞くね?」
二ノ宮 伊知郎「お地蔵様がお兄さんに何か用かな?」
少女「今日はクリスマスイブじゃろ? プレゼント持ってきたぞよ」
二ノ宮 伊知郎「宗教の境界線、大跳躍で超えてきたなっ!?」
少女「昨今、ダイバーシティじゃからな。ほれ受け取れ」
二ノ宮 伊知郎「なんだコレ」
二ノ宮 伊知郎(あれ? これどっかで・・・)
少女「まだ思い出さぬか。 では、地蔵シネマスコープ!」
地蔵(仮)の両目が映写機のごとく光り、壁に映像が映し出された
二ノ宮 伊知郎「何が始まるんだよぉーーーーーー!!」
〇田園風景
映像の中には、小学生の俺が映っていた
伊知郎(少年期)「お地蔵様、風邪ひかないでね。これどうぞ」
地蔵(仮)が持っていたのは、俺が昔、地蔵に被せった帽子だった。
〇シンプルなワンルーム
少女「あの時被せてくれた帽子、ずっと返そうと思って、お前さんを探しておったぞよ」
二ノ宮 伊知郎「・・・もしかしてマジで地蔵なの?」
少女「そうじゃ。地蔵は何でも知っておるぞよ」
少女「お前さんは見返りなんてなくても、地蔵にまで親切にできる、心優しい子じゃった」
少女「それが、今やサークルの姫の浮気相手ぞよ」
二ノ宮 伊知郎「そんな事まで知ってんの!?!?」
少女「我はな、こじらせ浮気相手から、もとの心優しいお前さんに戻って欲しいぞよ」
二ノ宮 伊知郎「・・・お説教しに来たのかよ」
二ノ宮 伊知郎「恩返しに来たって言うんなら、こんな帽子じゃなくて、花澤さんの心を俺のものにしてくれよ!!」
少女「ほうほう・・・」
二ノ宮 伊知郎「そんなのムリに決まってんんだろ! もう帰ってくれ!!」
地蔵(仮)の言っている事は、全部本当だ。
俺はクリスマスに放置される程度の浮気相手
だから余計に腹が立って、俺は地蔵(仮)を追い出した。
〇イルミネーションのある通り
クリスマスの夜────
二ノ宮 伊知郎「花澤さんを一目見たいからって、違う男とデートする場所なんか来て、なんて女々しいんだ、俺・・・」
花澤 あやね「あれ? 伊知郎くん!?」
二ノ宮 伊知郎(やべぇ、花澤さん! さっそく見つかってる俺!!)
二ノ宮 伊知郎(彼氏もおるやん!!)
先輩「おう、二ノ宮じゃん。何してんの?」
二ノ宮 伊知郎「いや、散歩してて? 奇遇っすね、あはは・・・」
花澤 あやね「こんな日に偶然会えるなんて、奇跡だよね・・・」
花澤 あやね「あのね私、本当は伊知郎くんが好きなの!」
二ノ宮 伊知郎(花澤さん!!!?)
花澤 あやね「先輩とは別れるから、私とちゃんと付き合って!」
先輩「は? あやね、どういう事だ?」
二ノ宮 伊知郎(まさか・・・これって地蔵のチカラで!?)
花澤 あやね「伊知郎くんも、私のこと好きだよね?」
二ノ宮 伊知郎(これって、今ここで二人を別れさせて、本命に昇格できるチャンスなんじゃ・・・)
〇田園風景
伊知郎(少年期)「お地蔵様、風邪ひかないでね。これどうぞ」
〇シンプルなワンルーム
少女「見返りなどなくても、親切にできるお前さんに戻って欲しいぞよ」
〇イルミネーションのある通り
二ノ宮 伊知郎「やだなぁ花澤さん。もしかして本気だったの?」
二ノ宮 伊知郎「あんなの遊びに決まってるじゃん」
花澤 あやね「そんな・・・ あんなに毎日「愛してる」って言ってくれたのに、ひどいよ・・・」
先輩「お前、なに先輩の彼女に手ぇ出してんだよ!!」
その後、俺は先輩にボコボコに殴られて、クリスマスツリーの前に晒され、道行くカップルたちの笑いものになった
先輩は高校時代にボクシング部だった
そういう大事なことは先に教えておいてよね、地蔵・・・・・・
〇シンプルなワンルーム
少女「本当にあれで良かったのかぞよ?」
二ノ宮 伊知郎「地蔵が花澤さん操ってたんだろ?」
少女「お前さんがそう望んでると思ったぞよ・・・」
二ノ宮 伊知郎「もういいんだ。俺の恋は終わった」
二ノ宮 伊知郎「もう彼女に未練はない」
少女「あんなに「愛してる」って言ってたのにか?」
二ノ宮 伊知郎「ちょっと黙っててくれるかな!? てか、なんでまだいるの!?」
少女「なんか恩返し失敗しちゃったし・・・」
少女「リベンジするために、お前さんの守護霊になって守ってやろうかなって♪」
二ノ宮 伊知郎「宗教の境界ハイジャンプ、新記録更新だよ!!!!」
地蔵ちゃんを追い出して、彼女がデートしている場所まで出向いた時、彼の行動にかなり落胆してしまいましたが、彼女の申し出を拒否した所はまさにフェイントプレーでかっこよかったです。
お地蔵さんかわいいですね!
冒頭を読んで、どんなお話になるのかな?思ってたら、彼に悪いんですがなんか心温まるお話でした。
そのまま彼女の好意を受け取らなかったところも、かっこよくて好きです。
あ〜面白かった。昔話の笠地蔵の恩返しを思い出しました。恩返しに来たのが少女のキャラがいいですね。しかも、次は守護霊になるってか。