第7話 『金のブレスレット』(脚本)
〇大会議室
須藤清孝「犯人は異常なまでに自己顕示欲が強い。 あの動画を見れば明らかだ」
須藤清孝「次の被害者を出さないためにも、一刻も早く犯人を捕まえなくては──」
須藤清孝「・・・ゴホッ、ゴホッ」
犬伏徹「警部補、大丈夫ですか?」
須藤清孝「も、問題ない」
犬伏徹「でも顔色が悪いような・・・」
須藤清孝「元からこういう顔なんだよ、ほっとけ」
須藤清孝「それよりアーちゃん。 君のプロファイリングだと、どんな犯人像になる?」
佐川アリス「犯人は誰かがあの小屋に入ることをわかって待機していたと考えられます」
佐川アリス「だとすれば、かなり大胆な男であることが伺えます」
須藤清孝「というと?」
佐川アリス「通常、犯罪者は安全な場所で成り行きを監視していたいものなんです」
佐川アリス「なのにわざわざ身の危険にさらされるようなことをしている」
犬伏徹「・・・すみません、話の腰を折るようですが、あの小屋にあった二つの腕はどうなったんでしょうか?」
須藤清孝「ああ、それだけどな。なかったよ」
犬伏徹「え?」
須藤清孝「焼け跡を隅々まで探したが、骨すら見つからなかったってことだ」
犬伏徹「そんな! 犯人が焼け跡から持ち出したってことですか?」
須藤清孝「そんなの俺が知るか」
佐川アリス「犬伏、ないものを騒いでも仕方ないだろ」
犬伏徹「・・・まあ、それはそうですが」
須藤清孝「なあアーちゃん。 やはり犯人は、身の危険を顧みないバカってことか?」
須藤清孝「それとも、自信過剰な天才?」
佐川アリス「もう一つ、可能性があります」
須藤清孝「?」
佐川アリス「自らの破滅を望んでいるナルシストです」
〇警察署の廊下
新井和樹「さすがはアリスさんです。 IQが高いだけのことはある」
犬伏徹「・・・新井っ!」
佐川アリス「無視しろ。行くぞ」
新井和樹「それともそれは、実体験による分析なんでしょうかね?」
佐川アリス「・・・!」
犬伏徹「お前何言ってんだ?」
新井和樹「へー、下に付いているのに何にも知らないとはねえ」
新井和樹「まあ犬だから仕方ないか」
犬伏徹「!」
新井和樹「殺人鬼なんて、どこに潜んでいるからわからないから怖いですよね」
犬伏徹「おい! ちょっと待て!」
佐川アリス「・・・・・・」
〇警察署の食堂
犬伏徹「ここにいたんすね」
佐川アリス「・・・・・・」
犬伏徹「すみませんが、新井に聞いて調べさせてもらいました」
犬伏徹「アリスさんの二十年前の事件。 山梨少女連続誘拐事件に関してです」
佐川アリス「気にすんな。 あたしん中じゃ、とっくに時効だよ」
犬伏徹「二人の少女が誘拐され、うち一名は死亡が確認された」
犬伏徹「逃げだした一人の少女が逃亡中に犯人を襲い、左腕を斧で切断」
犬伏徹「動揺した犯人は崖から転落死した」
佐川アリス「・・・・・・」
犬伏徹「これ、立派な正当防衛じゃないですか。 アリスさんは殺人鬼なんかじゃないです」
佐川アリス「・・・・・・」
犬伏徹「あの小屋が、当時の犯行現場だったんですね?」
犬伏徹「今回の犯人があの小屋を使っていたのは何か関連が──」
佐川アリス「ない。断じてそれはない」
犬伏徹「・・・・・・」
佐川アリス「記事を読んだんだろう? 当時の犯人は転落死したんだ」
犬伏徹「そう・・・ですよね」
佐川アリス「それに、事件のことはよく覚えてないんだ」
犬伏徹「?」
佐川アリス「自己防衛だろうな。 事件のことを思い出そうとすると頭痛がする」
佐川アリス「時々、夢に出てくるが、目が覚めると忘れちまう」
犬伏徹「・・・・・・」
佐川アリス「一つだけ確かに覚えているのは、あの時私は子どもで、子どもは皆無力だという実感だけだ」
佐川アリス「だから、大人が助けてあげなくちゃならない」
犬伏徹「・・・それが、アリスさんが生安にいる理由ですか?」
佐川アリス「事件が起こる前に自由に動けるのは生安くらいだろう?」
佐川アリス「お前は嫌々生安にいるのかもしれないが、私には矜持がある」
犬伏徹「・・・・・・」
佐川アリス「そんなことより、犯人の次のターゲットが絞れたって言ったらどうする?」
犬伏徹「!?」
〇小さい会議室
テーブルの上に広げられた資料には、津田沼紀夫(つだぬまのりお)のプロフィールが記載されている。
犬伏徹「いったいどうやって?」
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