会話(脚本)
〇古いアパートの廊下
部屋の扉をあけると、静かな空間内で扉の軋(きし)んだ音が響き渡る
道永 由芽「誰もいませんね」
奈宮 真「そうだな ・・・・・・誰もいない」
道永 由芽「この廊下の一番奥に階段があるんです。 ここにある部屋の中は確認してないのですが、下の階には誰もいませんでした」
道永 由芽「もしかしたら部屋で寝てるのかもしれないです」
奈宮 真「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
奈宮 真「君の名前を教えてくれないかい?」
道永 由芽「・・・・・・え?」
奈宮 真「君の名前を聞いたら思い出せるかもしれない」
道永 由芽「分かりました。 私の名前は道永 由芽(みちなが ゆめ)って言います 本の世界に来たのは今回が初めてで────」
道永 由芽「真さんから色々教わっていたんです」
奈宮 真「俺から?」
道永 由芽「はい・・・」
奈宮 真「・・・・・・すまない」
頭の中で由芽さんの名前を唱えるが一つとして思い出すことが出来なかった
道永 由芽「気にしないでください! まだ思い出す機会はあるはずですから!」
奈宮 真「ありがとう。 早く思い出せるよう、努力するよ」
奈宮 真「君が言うように食人する人々がいるならば、早く思い出さないとまずいだろうしね」
囁くほど小さい声での会話の最中、廊下の奥に見えた階段へと辿り着く
階段には明かりとなるものがなく、一階が何も見えなくなっていた
まるで自分達の行く末を暗示するように、深い闇だけが広がっている
道永 由芽「行きましょう」
由芽さんの言葉を聞き、俺は階段へと足を伸ばす
床がギシギシと音を立てる
この下に人を食らう奴がいるのかもしれない
だが恐怖心はそこまで強くなかった。
記憶をなくしているからか、それともまだ漠然とした想像しかできていないからだろうか
出会ったらどうするか、どうやって逃げ出すか、そして記憶を取り戻すにはどうしたらよいのか
様々なことをことに考えを巡らせていると、一階へと辿り着いた
〇広い玄関(絵画無し)
階段を降りて直ぐに目に飛び込んだのは玄関だった
奈宮 真「──────!? 外に出れるかも!!」
俺が玄関に向かおうとしたその時だった──
鍵の音が響いた
道永 由芽「隠れましょう!!」
由芽は微かな声でそう言うと、左に見えた部屋へと移動する
〇血まみれの部屋
奈宮 真「────!! この部屋は・・・」
入った部屋は月明かりで照らされ、おびただしい量の血飛沫(ちしぶき)や血溜まりが見えた
しかし由芽はそれを言葉に表すことはなく、隠れる場所を探している
俺も驚きを飲み込み、辺りを見回した
本棚やテーブルなど辺り一面に血が滴り、カーペットには血が滲み込んでいる。
そしてこの入り口の隣には、押し入れがあり、そこだけは血が付着していなかった
奈宮 真「由芽、押し入れに隠れよう」
俺の言葉に頷くと、由芽と俺は押し入れへと体を押し込んだ
押し入れには収納ボックスやボロボロになった衣類などが入っており収納ボックスには様々な凶器が収納されている
それが何に使われるかは想像に難くなかった
〇黒背景
俺たちが隠れたあと、誰かが同じ部屋の中へと足を踏み入れる音が聞こえた気がした
奈宮 真「────来た」
僅かに空いた隙間から、女の姿が見えた
────いや、一人じゃない。
その後に続いて他にも人の姿が見えた
〇血まみれの部屋
一人・・・
二人・・・
二人の姿が見える
彼らは部屋に飛び散っている血を黙々と吹き始め、汚れた物も念入りに拭き始めた
そうして彼らは血を拭き終わると、何か会話を交わす訳でもなく部屋を出ていった
〇黒
俺らはタイミングを合わせて部屋へと移動する
〇おしゃれなリビング
奈宮 真「もう平気そうだな」
道永 由芽「そうですね、二階へと向かったのでしょうか?」
由芽さんはそう言いながら、どこかを指差した
道永 由芽「黒電話はあそこにあります」
彼女の言う通り、そこには黒電話があった。
俺は恐る恐る黒電話に近寄ると、そっと受話器を耳に当てる
すると、どこか聞き覚えのあるような声が頭の中に響く
「あ、ようやく繋がった! 良かった! てっきりもう死んだのかと思ったよ」
「なんちゃってね」