第1話:愛と階段とゾンビ(脚本)
〇タワーマンション
神門(かみかど)キャッスル
――通称バベル
高さ300メートル、地上60階、地下5階
資本主義のシンボル
選ばれし者が住まう超高層マンションだ
いつか住んでみたいと、ずっと憧れていた
――あの惨劇が起きるまでは
〇非常階段
虎丸「いつになったら着くんだよ!」
花村「あと55階です。思ったよりきついですね タワマンを階段で降りるって」
虎丸「先が思いやられるぜ・・・」
虎丸「ところでアンヨの綺麗なお嬢ちゃん 名前は?」
鐘星愛「鐘星(かねほし)・・・愛です」
花村「愛さんですか。素敵な名前ですね」
私は自分の名前が苦手、というか嫌いだ
愛と呼ばれるなら、アンヨの綺麗な
お嬢ちゃんのほうがマシだ
花村「大変だ! 誰か倒れています!」
???「・・・・・・」
花村「大丈夫ですか? しっかりして──」
虎丸「待て、そいつ様子が変だぞ!」
ゾンビの男「ァアッ!」
花村「わあああああっ!」
鐘星愛(か、噛みついた・・・!)
花村「ぐっ・・・がっ・・・!」
ゾンビの男「ァアアアアアアアッ!」
男性は花村さんの喉を喰いちぎると
固まって動けない私に近づいてくる
ゾンビの男「シャアアァアァァッ!」
鐘星愛(何なのこれ・・・何が起きてるの・・・?)
――つい1時間前
私は最上階で授業をしていたはずだった
〇勉強机のある部屋
鐘星愛「プロレタリア、ブルジョアを説明できる?」
神門ミチ「プロレタリアは、労働力を売る以外に 金を稼げない労働者で、ブルジョアは 金を使って利益を稼ぐ資本家」
神門ミチ「つまり先生はプロレタリアで 俺はブルジョア」
鐘星愛「一言多いけれど、基本は大丈夫そうね」
ミチくんは来年大学受験を控える
高校3年生で、神門財閥の次期後継者だ
神門八千代「そろそろ休憩にしたら?」
プレートを片手に入ってきたのは
神門家の奥様、神門八千代(やちよ)様
神門八千代「愛さん、どうぞ」
鐘星愛「いただきます」
神門八千代「カミカドバイオの試供品なの」
鐘星愛(カミカドバイオはたしか昆虫食を扱う 話題のバイオベンチャー・・・)
鐘星愛(・・・これは芋虫? それともバッタ?)
神門八千代「お口にあうかしら?」
鐘星愛「・・・ええ、とても美味しいです」
神門貴「喜んでくれて何よりだ」
鐘星愛(この御方は、もしかして・・・!)
神門貴(たかし)様は神門財閥のトップ。
総資産2兆円、ブルジョワ中のブルジョワ
プロレタリアは影も踏めない――家庭教師を始めて1ヶ月、私も会うのは初めてだ
神門八千代「こちら鐘星愛さん。東大法学部の2年生で お父様は小判鮫さんのご友人」
神門八千代「教え方がお上手で、ミチがクビに しなかった初めての家庭教師なの」
神門貴「合格には特別報酬を出す。精進したまえ」
鐘星愛「ご期待にそえるようがんばります」
神門八千代「それじゃ今日もよろしくね」
鐘星愛「はい。お任せください」
ドアが閉まるまで、私は頭を下げ続けた
神門ミチ「ったく、何しにきたのかね」
鐘星愛「大事な一人息子が気になるのよ」
神門ミチ「まさか。今日は機嫌がいいだけさ」
鐘星愛「何かいいことでもあったの?」
神門ミチ「母なる大地から死人が帰ってくる」
鐘星愛「母なる大地から死人・・・何の話?」
神門ミチ「・・・揺れてる。地震だ」
鐘星愛「・・・大きい! ミチくん、気をつけて!」
部屋が大きく揺れはじめ、ライトが消えた
〇勉強机のある部屋
鐘星愛「ミチくん、大丈夫?」
神門ミチ「・・・子どもじゃないんだから」
鐘星愛「タワマンってずいぶん揺れるのね」
神門ミチ「最悪の家だよ」
鐘星愛「何を言ってるの。最高の家じゃない」
神門ミチ「・・・先生は何も知らないから」
地震が収まるのを待ち
私たちはリビングへと避難した
〇豪華なリビングダイニング
小判鮫「えー、神門警備代表の小判鮫より 被害状況を説明させていただきます」
小判鮫「先ほどの大地震ののち、無線有線問わず 通信機器が機能しなくなりました」
小判鮫「またエレベーターが稼働しない状態でして 外部と下層階の状況は不明です」
小判鮫「しかしながら、最上階は非常用の電気が 稼働中ですのでご安心ください」
神門貴「電気だけで満足しろと?」
小判鮫「い、いえ、そういうわけでは・・・」
神門八千代「怠慢よ! 長男が来る日なのに!」
鐘星愛(神門家長男って、ミチくんじゃないの?)
小判鮫「も、申し訳ございません。 今から部下が非常階段で様子を見に──」
虎丸「俺は嫌ですよ。契約外だし」
小判鮫「じゃあ花村、お前が行け」
花村「虎丸さんが行かないなら、俺も」
小判鮫「お、お前ら・・・!」
神門貴「部下が駄目ならお前が行け」
小判鮫「私は代表の立場ですし、膝に古傷 爆弾を抱えておりまして・・・」
神門貴「膝よりクビの心配をしたらどうだ」
小判鮫「ク、クビ? それは、困ります」
小判鮫社長は頼るように私を見た
鐘星愛「・・・私がお迎えに行きます」
神門八千代「愛さんが?」
鐘星愛「ぜひお役に立ちたくて」
神門八千代「愛さんったら! 嬉しい!」
神門ミチ「・・・俺も行くよ」
神門八千代「貴方は駄目! 非常階段なんて汚らわしいし 火事でも起きたらどうするの!」
神門ミチ「先生はアニキの顔も知らないし──」
神門貴「駄目だ。神門の嫡男がすることではない」
鐘星愛「ミチくん、私なら心配いらないから」
神門ミチ「・・・別に心配してないし」
鐘星愛「そういうことにしておいてあげる」
神門貴「この緊急時、女性1人では不安だな」
神門貴「警備員の君たち、特別報酬として 100万円を出そう。それでどうだ?」
花村「虎丸さん、どうします?」
虎丸「喜んで~! に、決まってんだろ」
神門貴「契約成立だな。頼んだぞ」
私の目的は100万円じゃない
神門家にコネを作り、いつかプロレタリアからブルジョアへ――それが私の目的だ
〇非常階段
どうしてそれが今、こんな目に──
- このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です! - 会員登録する(無料)
愛さんかっこいい🙌
まさかの裏切り展開で今後が気になります!!
カミカドバイオのおやつが衝撃的でした…🤤
わー!!✨凄く面白いですっ!!✨😍続きが気になりますっ!!✨
ミチがツンデレ感があって良いですね・・・✨😊
そして警備員の裏切り!!😱綺麗なあんよで時間を稼げって!!!なんとー!!!ってなりました・・・
面白いです!!!✨
ブルジョワとプロレタリアでマルクス感。逃げ場のないビルはさしづめ蟹工船か。主人公がカポエラ使いなのも象徴的です。
革命は成るのか? それとも?