《第2話》井上君と御隠居とお弁当屋さん。(脚本)
〇商店街
──1年前。
井上「バイトない日だけど少しくらい 顔出したっていいよな?」
〇カフェのレジ
酔っ払い「なぁ、ええやろ?売れ残りの弁当 買うてやったんやし!」
ほのか「あの!これは夜用に作ったお弁当ですから 売れ残りじゃなくて──」
酔っ払い「まあまあ!他に客もおらんのやから、 話し相手になってほしいって話やん!」
酔っ払い「ほら、椅子もあるんやし、そこで弁当 食わせてもらおか~」
ほのか「すみません。そこは休憩用で、 うちはイートインしてないんです!」
井上「おっさん!何やってんだよ!!」
ほのか「朔弥(さくや)君!」
井上「ほのかさん!こいつ連れていくんで 俺が戻るまでカウンターから出ないで くださいね!」
ほのか「ちょっと待って!朔弥君!?」
酔っ払い「ああん?なんやねんコラ! やるっちゅうんかい!!」
井上「いいから!外に出ろよ!おっさん!!」
〇商店街
井上「まだ19時過ぎだろ?何でそんな ベロベロに酔っぱらってんだよ!」
酔っ払い「うるせぇ!オトナの苦労がわからんガキに ゴチャゴチャ言われる筋合いないわ!!」
井上「・・・ってえな」
井上「──そっちが先に手ぇ出したんだからな? 後悔すんなよ?おっさん!!」
酔っ払い「なっ!?」
ほのか「朔弥君!乱暴はやめて! 私!お巡りさん呼んでくるから!」
井上「・・・で、でも!」
ほのか「お願いだから危ないことしないでね!」
酔っ払い「まだ終わっとらんで!クソガキ!!」
女性「・・・やだ、喧嘩?」
女性「酔っ払いと・・・高校生かしら?」
向井「井上!!何やってるんだ!?」
井上「え・・・!?御隠居?」
向井「──おいおい。こんなところで 制服着てケンカしないでくれよ・・・」
井上「あのおっさんがバイト先で店長に絡んで きたんだよ!」
井上「手ぇ出したのはあっちからだし 正当防衛なんだからな!」
向井「バイト先?」
井上「ああ、そこの弁当屋だよ!」
向井「──井上。お前、学校にバイト許可 取ってたか?」
井上「あ・・・!」
向井「あのな。適当なことをして騒ぎを 起こしたら、お店にも迷惑がかかることを 考えなさい」
井上「・・・そ、そうだよな。ほのかさんに 迷惑、かけたくない──」
酔っ払い「ああん?何やてめぇは?」
向井「──うちの生徒が大変申し訳ありません」
向井「これ以上は他の方の迷惑にもなりますので 今日のところは穏便に済ませていただけ ませんか?」
酔っ払い「あ?生徒?アンタ、こいつのセンセか なんかか?」
向井「はい。この先の高校で教師をしております」
酔っ払い「ほーん?高校生が暴力事件なんか起こし たらガッコの評判も悪うなるよなあ?」
井上「おい!先に暴れたのはそっちだろうが!」
向井「いいから。井上は出てくるな」
井上「・・・でもっ!」
向井「そうですね。うちとしましても、何事も なかったと済ませたいところですが──」
向井「そちらとしてもあまり大事に されない方がよろしいかと思いまして」
酔っ払い「あん?何言うとるんじゃ、ワレ!?」
向井「ここの商店街は学園でも文化祭などで 懇意にさせていただいているんです」
向井「地域で生徒が悪さしてないか防犯カメラの 位置なども共有してるんですよ」
酔っ払い「──!?」
向井「ああ、丁度そこのお店の角にカメラが ありましたね」
酔っ払い「・・・い、イチャモンつけんといてや! オレはちいと店員に声かけただけやで!」
酔っ払い「そこのガキが外出ろ言うてオレを引っ張り 出したんや!喧嘩の始まりはそっちの せいやろが!」
向井「それは現場に居合わせなかった私には わかりかねますが──」
向井「必要とあらば証拠を提出して警察に判断を 委ねるしかありませんね」
酔っ払い「・・・・・・」
向井「──こちらには単身赴任で来られたの ですか?」
酔っ払い「はぁ?」
向井「──早い時間から飲んでいるご様子で その後で弁当を買うということは家で 帰りを待つ人がいない・・・」
向井「言葉のイントネーションからして 地元の方ではないとお見受けしますので。 最近越していらしたんですか?」
酔っ払い「・・・そうやけど」
向井「お仕事お疲れ様です。仕事も生活も 慣れないと色々ありますよね」
向井「うちの生徒にもよく言い聞かせておきます ので、この辺でもう終わりにしませんか?」
酔っ払い「・・・・・・」
警察官「ここですか!? 酔っ払いが騒いでるというのは!」
酔っ払い「!?」
向井「少し言い争いがあっただけで 心配ありません。もう大丈夫です」
警察官「・・・そうなんですか?」
酔っ払い「・・・すんません。酔っぱらって大声 出してしもたんです・・・」
警察官「本当に大丈夫なんですね?」
向井「はい。お騒がせして申し訳ありません でした」
〇商店街
ほのか「え?どうなってるの?」
井上「うちの学校の先生が全部解決してくれた。 おっさんも大人しくなった・・・」
ほのか「そうだったのね!それならお礼しなきゃ! 朔弥君!二人共引き留めておいて!!」
井上「え!?二人共って、ほのかさん──!?」
ほのか「あの!これ、買っていただいたお弁当です」
酔っ払い「え・・・!?」
ほのか「あとこれ!ハムカツですけど懐かしいって 評判なんです!よかったら一緒に食べて くださいね!」
酔っ払い「店員さん、絡んで悪かったな・・・ 堪忍したってぇな・・・」
ほのか「はい。またいらしてください」
酔っ払い「・・・・・・」
向井「お店の方もこう言ってくださってますし 今度はシラフの時にいらしてはいかが ですか?」
向井「味の感想もお礼のひとつとして お店の糧になりますからね」
酔っ払い「・・・センセもおおきに」
酔っ払い「アンタどうせ独身やろ?今のオレと 似た匂いすんねん!」
向井「ははは。大当たりです」
向井「酒に逃げたくなる時は多々ありますが、 こんなふうにドツボにハマることがある のでお互いに気をつけましょう」
酔っ払い「・・・せやな!」
〇カフェのレジ
井上「・・・なんか、イイ話に落ち着いてさ。 俺としては正直シャクなんですけど」
ほのか「もう!朔弥君ったら!先生が話し合いで 解決してくれたんだから文句言わないの!」
井上「だけどさー、大人ってなんか汚ねえって いうのかな~?」
向井「──40代。慣れない土地で単身赴任。 家のローンの支払いもあるのかな?」
向井「いつ地元に戻れるのか、人恋しさと 寂しさでぐるぐるするお年頃なんだよ」
井上「・・・洞察力すごすぎてついてけねー。 さすが御隠居って感じだわ」
向井「──そうだ!これからもバイトするなら ちゃんと手続きするんだからな!」
井上「わ、わかったよ!明日すぐに出すから!」
向井「ああ。明日中に必ず提出するように!」
井上「うん。・・・その、今日はありがとな。 御隠居!」
ほのか「先生、本当にありがとうございました。 私からもお礼がしたいので、今度ぜひ お店にいらしてください!」
向井「いえ、うちの生徒のトラブルを解決した だけなので。お礼なんて結構ですよ」
ほのか「そういうわけにはいきません!」
ほのか「朔弥君!バイトがある日! 意地でも先生を連れてきてね!」
井上「りょーかーい♪」
向井「いや、生徒の問題解決は 教師の仕事なわけですし──」
井上「うちの店長、言い出したらきかないから。 商売上手だし覚悟してな!」
向井「あー、本当に気にしなくて いいんだけどなあ・・・」