恋愛休業中〜叶わぬ想いに縋る夜は〜

鳥飼

《第1話》新人教師と「御隠居」の出会い。(脚本)

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〇まっすぐの廊下
美波「あの、田中先生。 質問よろしいでしょうか?」
田中「もう!そんなにかしこまらなくっても 平気よ〜!朝比奈センセ!!」
美波「あ、はい・・・」
  田中先生はテンション高めで戸惑うけど、
  悪い人ではないとは思う。
美波(このノリは久しぶりの後輩が嬉しくて 仕方ないといった感じなのかな?)
田中「で?質問って、もしかしてあそこで 黄昏れてる向井先生のことかしら?」
美波「あ、向井先生っていうんですか」
美波「生徒達が【ゴインキョ】って言ってるんで てっきり苗字か何かなのかと思ってました」
田中「あはは。彼、お爺ちゃん先生達の 中にいても全然違和感ないから、 生徒に御隠居って呼ばれてるのよ」
美波「そうなんですか、すみません。 まだ理系の先生達のお名前覚えきれて いなくて・・・」
田中「職員室で軽く自己紹介したくらいだし、 教員室も離れてるから仕方ないわよ。 そんなに接点もないしね」
美波(確かに。まだ行事もないし、当分は 話すこともなさそう・・・かな?)
田中「もしかして気になる?」
美波「えっ!?チラッと視界に入っただけで さすがにそれはないですよー」
  田中先生の薬指にきらめく婚約指輪を
  見ながら私は苦笑した。
美波(女子あるあるだけど、恋愛脳ってヤツ?)
美波(全人類がいつも恋とか愛に浮かれてるとは 限らないんだけどね・・・)
田中「地味だけど面倒見が良くてイイ先生よ。 でもね──」
田中「ちょっと失恋しちゃったみたいで、 スイッチ切れるとあんな感じなのよね〜」
美波「はぁ、それはお気の毒?ですね・・・」
美波(いい大人が失恋くらいでみっともない ──って一応先輩の先生に失礼か)

〇学園内のベンチ
向井(・・・・・・・・・)

〇まっすぐの廊下
美波(やだなぁ。鳥にパン屑あげながら ぼーっとしてるなんてリストラされた オジサンじゃあるまいし・・・)
美波(・・・まったく。ああいう背中なんて もう見たくないって思ったのに──)
田中「朝比奈先生〜?どうしたんですか。 もう、行きますよ〜?」
美波「あっ!すみません!今行きます!!」

〇学校の廊下
井上「御隠居!ほら、これやるから 元気出しなって!!」
向井「別に、私はいつも通りだけど。これは プリントの提出期限を遅らせて欲しいとか そういうのだな?」
井上「あはは!バレちゃったか〜! 賄賂、ワイロ!」
美波(そんなに広がられると 脇通りにくいんですけど・・・)
  廊下には頭ひとつ飛び出している
  【御隠居】先生と生徒達が群がっていた。
向井「ああ!すみません。朝比奈先生!!」
向井「ほら!みんな脇に寄って道あける!!」
井上「はーい。ミナミちゃんもこれいるー?」
美波「飴・・・?あ、ポイチュウですね」
  生徒の1人がソフトキャンディの袋を
  私に差し出した。
美波(・・・安い賄賂ね)
井上「ミナミちゃんオレ達との方が歳も 近いでしょ?」
井上「仲良くしよってことでサービスねー♪」
  そう言いながらその子は私の手に
  キャンディの包みを握らせる。
向井「井上〜。朝比奈先生が困ってるだろ?」
向井「歳が近いからって仲良くするのと 馴れ馴れしいのは違うんだからな?」
井上「えー?こういうのがお近づきって 言うんだろ?個人の自由でしょ!」
美波「そうですね。でも、両手いっぱいは いらないので1個だけいただきます」
井上「ミナミちゃん、バナナ味好き? うち面白系のパンとかもあってさ──!」
美波「え?えっと・・・」
美波(ちょっと君、グイグイきすぎだって!)
向井「ハイ!そろそろ解散!」
向井「提出期限は明日の朝までに延ばすから、 朝イチで私のところに届けにくるように!」
男子生徒「じゃあなー御隠居! まあ〜「次」頑張ってみなよ〜?」
女子生徒「出会いってどこに転がってるか わかんないしね〜?」
  生徒達が私の方に視線を向けて
  意味ありげな笑顔で去っていった。
美波(──もう!他人で勝手に想像するの やめて欲しいんだけどな)
向井「足止めする形になってすみません」
向井「悪い子達じゃないんですが、 若い女の先生が久しぶりなので はしゃいでいるようです・・・」
美波「塾のバイトをしていた時も こういうことはよくあったので、 気にしないでください」
向井「そうですか。でも、また変に絡まれたら 遠慮なく私に教えてくださいね」
美波「はい。その時はよろしくお願いします。 それでは、失礼します」
向井「はい」

〇渡り廊下
美波(・・・自分が悪いわけじゃないのに 腰が低いというか──)
美波(まあ、ヤンチャ男子の対応をお任せ 出来るのはありがたいってことにして おきましょうか)

〇空
  なんだかワケあり?の向井先生と
  思いがけない接点が出来てしまった
  教員同士のごく普通のやりとりとして
  適当に流すつもりだったんだけど──

〇空

〇役所のオフィス
井上「ねえ、ミナミちゃん!20代の お姉さん的にどっちの方が好みかな?」
美波「えっと、井上君でしたっけ? 質問って言ったけど勉強のことじゃ ないんですか?」
井上「勉強もあるんだけど、先に気になること 解消してから集中したくってさー!」
井上「でさ!どっちがイイ?」
  「モテるヘア特集」みたいなページを
  広げて少年は目を輝かせている。
美波(私に聞かれても困るんですけど・・・)
美波「似合ってればどっちでもいいんじゃ ないですか?流行りなんでしょうし」
井上「だからさー、ミナミちゃんくらいの 女の人の好みが知りたいんだって〜!」
美波「私、若い男の子のファッションとか 詳しくないですし」
美波「好みって言われると、無難でいいんじゃ ないですか?としか言えませんよ・・・」
井上「ふーん。ミナミちゃんは年下に 興味はないんだ?」
美波「年下以前に、生徒なんかありえません からね?」
井上「うわ〜!バッサリいった〜!! クラスの奴に言っとくわ♪」
美波「お手柔らかにお願いします。 あの新人性格わる〜って言われたら 赴任早々キツいので!」
井上「わはは!ミナミちゃんそういうとこ しっかりしてるんだね〜!」
美波「さあ、どうなんでしょうね」
向井「井上〜!こんなところにいたんだな!? 探したんだぞー!」
向井「・・・あれ、朝比奈先生?」
美波「お疲れ様です。もしかして井上君の 担任は向井先生なんですか?」
井上「うん!俺の担任〜!」
井上「で?どうしたの御隠居?」
向井「どうしたのじゃないよ。委員会の 調査用紙を君が集めて持ってくるはず だっただろう?」
井上「あ!忘れてた!!」
  井上君は自分の鞄に手を突っ込んで
  プリントの束を取り出した。
美波「かなりの枚数があるのに、そんな 簡単に忘れるものなんですかね・・・」
井上「あははは!途中でミナミちゃん見つけて そのまま忘れちゃった〜!」
美波(──無邪気か)
井上「わざわざ探しに来てくれてサンキュ♪ じゃ、これどうぞ!」
向井「まったく。朝比奈先生の邪魔を するなって言ってるだろう?」
向井「ほら、一緒に教室に戻るぞ」
井上「えー?俺、ミナミちゃんにまだ質問 終わってないしー!」
向井「そうなんですか?」
美波「どうなんでしょう。大体の雑談は 終わったと思いますけど」
井上「ほら!このページ!ここわかんないの!!」
  慌てて雑誌をしまって教科書を広げる。
  そのページは確かに今日やったところだ。
向井「そのくらいなら私で教えられるから、 もう終わりにしなさい」
美波(──「そのくらい」か・・・)
井上「プリントも渡したんだし、教わるなら おっさんよりお姉さんがいい〜!!」
美波(そんなに難しいところじゃないけど、 私なりに家で教え方とか勉強して きたんですけどね・・・)
向井「馬鹿言ってるんじゃない。机にしがみ ついてないで、さっさと立ち上がる!」
美波「向井先生。私、今時間あるので 大丈夫ですよ?」
向井「ですが──」
美波「今日私が授業したところなんです。 わからなかったというのなら、 教え方の問題もありますし」
美波「反省も含めて生徒の声を聞いて おきたいなと思います」
向井「先生がそうおっしゃるのなら、 よろしくお願いします」
向井「井上、ちゃんと勉強のことを 聞くんだからな?」
井上「はーい♪わかってまーす!」

〇役所のオフィス
井上「なるほどねー。わかった!」
美波「それならここの問題を解いてみてください」
井上「わー!チェックまでぬかりないとは さすがミナミちゃん!」
井上「まあ、もう解けると思うけどね♪」
美波(飲み込みは速いみたいね。彼、ちゃんと 授業聞いてたら理解出来てるはずだわ)
  私に絡むネタが欲しくて授業中は
  不真面目だったのか、単に居眠りでも
  してたのか・・・
美波(どっちにしても軽く見られてるって ことよね・・・)
井上「ねえ、ミナミちゃん。 御隠居のこと嫌い?」
美波「はぁ!?」
  あまりにも間の抜けた声が出てしまい、
  思わず手で口を覆ってしまった。
井上「そのくらい自分でもわかるって言われて ちょっとムッとしたでしょ?」
美波「・・・少しだけですから」
井上「お、意外に素直。カワイイね♡センセ!」
美波「井上君にからかわれたって 告げ口しますよ?」
井上「あはは!ゴメン!!」
井上「でも、ミナミちゃんがそういうタイプなら 御隠居とお似合いだと思うんだけどな〜」
美波「──どうして皆さん、私に向井先生を 勧めてくるんですか?身近で済ませすぎ じゃないですか」
井上「あの御隠居が奮起して女探しするとは 誰も思ってないからかな?」
井上「──あの人、妹を溺愛してたからきっと みんな心配してるんだよ」
美波「・・・妹?」
井上「正確には小さい頃から同居してた 親戚の子だって話。妹分ってヤツだね」
美波「なんだ・・・」
井上「どうかした?」
  不意に呟きそうになった言葉を私は
  慌てて飲み込んだ。
美波「──いえ、何でもないです」
美波「もしかして、その妹さんに恋人でも出来て 先生は気落ちしてるとかですか?」
井上「うん。今年卒業した先輩なんだけどさ。 御隠居といつも一緒にいたから校内でも 結構有名だったんだ」
井上「・・・でも、ある時から御隠居の 隣から消えちゃってさ」
美波「校内にいるときは節度を持ちましょうとか 話し合ったんじゃないんですか?」
井上「そうかもしれないけど、彼氏っぽい人が 出来てからあからさまに避けられててさ ・・・あれは気の毒だった」
美波(それまでどれだけベタついてたの? 周囲の人間にモロわかりってどうかと 思うわよ・・・)
井上「先輩が御隠居の側にいて周りの奴らも 一緒になって楽しんでたし。 俺も和んでた一人だったんだ・・・」
美波「向井先生がまだどんな人かわかりませんが 妹さんとワンセットでみんなに好かれて いたんですね」
井上「そうだね。結局卒業式の日もそんな感じ だったって聞いて、今のあれでしょ? 元気出させてやりたいなって思ってさ」
美波「ふふ。先生が好きなんですね」
井上「──実は俺、去年ちょっと揉め事起こして 御隠居に助けてもらった恩があるんだ」
美波「でも、私とくっつけようっていうのは 違うかなと思いますよ?」
井上「職場恋愛なんてよくある話でしょ! 田中先生だって最初はグイグイいってた みたいだし悪くない人材だと思うよ〜」
美波「・・・田中先生、結婚するんですよね?」
井上「あ!俺が入学した頃に聞いたんだって! ほら、なびかないから見限って 他にいったとかだよ!」
美波(うーん。いかにも私立の閉塞的な 人間関係って感じね・・・)
美波「田中先生のことは聞かなかったことに しますけど、噂話の好きな男子って モテませんからね?」
井上「え!?俺、そういうつもりじゃ・・・」
美波「つもりじゃなくても、私にはそういう 風に聞こえました。気をつけましょうね」
井上「は、はーい」

〇学校の廊下
井上「ねえ、ミナミちゃん。今日の夕飯とか もう決めてる?」
美波「・・・イマドキの高校生は教師を 食事に誘うんですか?」
井上「違うって。駅前通るなら、知り合いの 弁当屋寄っていかない?サービス券も あるし!」
美波「お弁当屋さんですか。今日は適当に 買って帰ろうかなとは思ってました けど・・・」
井上「そこ俺のバイト先!よかったら寄ってね! じゃあね!ミナミちゃん!」
美波(私狙いじゃないっていうのはわかった けど、こうやって懐いてくる本心がまだ ちょっと見えないなあ・・・)
  向井先生を推したい気持ちは理解したけど
  まだ何かありそうな感じだ。
美波(でも、お弁当のメニュー すっごく美味しそう・・・!)

〇空
  もらったサービス券とチラシを眺めながら
  私は晩御飯への期待を膨らませるのだった──

次のエピソード:《第2話》井上君と御隠居とお弁当屋さん。

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