2. 迫る危険、見える希望(脚本)
〇屋敷の門
ドージ(遅ぇな・・・)
ドージ(螭のヤツ、ちゃんと鬼共に説明出来ているといいが・・・)
ドージ「ん・・・」
メイ「ご、ごめんなさい・・・ ちょっと遅れちゃった・・・」
ドージ「遅せぇぞ、寝坊助共」
メイ「うう・・・ ゆ・・・浴衣、1人で着れなくて・・・」
チビ「浴衣の着付け、チビも手伝ったんだよ!」
ドージ「そうか。悪いな、お前に合う洋服が無くてよ」
メイ「・・・ううん!この浴衣、すっごい可愛いから、着れて嬉しいな♪」
チビ「えへへ~ チビのお下がりなんだよっ♪」
ドージ「更に言うと、玉藻のお下がりだけどな」
メイ「へぇ~! ・・・そういえば、玉藻さんと童子さんってお友達なんですか?」
ドージ「・・・ただの腐れ縁だよ 別に大した仲じゃねぇ」
メイ(腐れ縁・・・? なんだろ・・・気になる)
ドージ「ほら、さっさと探しに行くぞ」
メイ「うん!」
〇原っぱ
メイ「わぁ・・・!」
メイ(昨日来る時は暗くて気づかなかったけど、ものすごい原っぱがあるんだ・・・)
チビ「う〜・・・にゃぁ──!」
ドージ「おいチビ、あんまはしゃぎ回んな」
メイ(・・・)
メイ(ウズ・・・ウズ・・・)
──チラッ
ドージ「・・・ったく ほら、行ってこい」
メイ「うんっ! いってきまーす!」
「わ~いっ!」
ドージ(・・・やれやれ。なんでガキってのはあんなに自由なんだよ・・・。──ん?)
たまも「──っ!」
ドージ「・・・こんな所に来るなんて珍しいな」
たまも「いっ・・・いつもの事よ! いつもの散歩よ・・・」
ドージ「ほぉ〜? そんな裾の長い服のままここまで来たのか?」
たまも「こっ、これは私の正装よ! 威厳を保つために、常に身につけないといけないのっ!」
たまも「そ、それで・・・その・・・ あの人間の子は大丈夫なの?」
ドージ「あそこでチビと走り回ってんの、見えてんだろ?なんも気にすることはねぇよ」
たまも「そ・・・そう。 ならいいけど・・・」
ドージ「ったく、人食い妖怪が人間の心配か?」
たまも「べっ・・・別に心配なんて・・・ っていうか私が人間を食べてること、言ったの?」
ドージ「ああ、言ったぜ? 包み隠さず全部な」
たまも「・・・」
ドージ「なーに怒ってやがる。 そんなにあいつが気になんのか?」
たまも「・・・ふんっ 別にそんなんじゃないわよ」
たまも「・・・ただ、私よりもあんたに懐いてるのが気に食わないってだけよっ」
ドージ「あっそ。 素直じゃねぇな~ホント」
ドージ「まぁ・・・別にあいつは、お前のこと怖がっちゃいねぇよ」
たまも「・・・」
たまも「本当?」
ドージ「ああ。 ・・・あいつは結構根性あるぞ 何せ俺と約束を結ぶくらいだからな」
たまも「・・・っ! あんた、変な約束してないでしょうね?」
ドージ「・・・してねぇよ、ったく お前俺をなんだと思ってやがる」
たまも「・・・性悪の呑兵衛のキザ野郎ねっ」
たまも「・・・あとロリコンも追加かしら? 昔チビちゃんにあげた私のお下がりまで 着せて・・・変態っ」
ドージ「・・・」
たまも「いっ──痛っ! 乱暴者を忘れていたわ!」
ドージ「・・・そんでお前、何か伝えに来たんじゃないのか?」
たまも「・・・ 下級の鬼達を動かしてるのはあんたね?」
ドージ「ああ、そうだ」
ドージ(螭のヤツ、上手く伝えたみたいだな)
たまも「・・・五寸以下のガキをあなたの『獲物』だって言ってたから、本当かどうか聞きに来たのよ」
ドージ「ああ。『マサヤ』って名のガキだ」
たまも「・・・まったく 勝手に大事にして動かないでくれる? こっちもメンツがあるんだから・・・」
ドージ「・・・そのガキはあいつのダチなんだ。 人間とはいえ、饗宴場に迷い込んでるかもしれねぇんだぞ」
ドージ「あっち方面はあのクソ狸のシマだ。 なるべく早く見つけ出さねぇとどう利用されるか分からねぇからな」
ドージ「それによ、あいつと約束したんだよ。 『マサヤ』を探す手伝いをするって」
たまも「・・・そう 珍しいわね、あんたが見返りの薄い約束を結ぶなんて」
たまも「あんたの方があの子に入れ上げてるんじゃないの?」
ドージ「そんなんじゃねぇよ」
ドージ「メイはよ── 『あいつ』に似た、自分を省みないバカだったってだけだ」
たまも「・・・本当、あんた不器用よね。 生きる時間が違う人間なんかとの約束、ずっと守っちゃって・・・」
ドージ「うっせ。 俺は約束だけはぜってー破らねぇ 鬼なんだよ」
ドージ「それで苦しかろうが楽しかろうが、全部引っくるめて俺の生き方なんだよ」
たまも「・・・そうだったわね。 ──だったらもう少し・・・」
たまも(私のことも頼りなさいよ・・・)
ドージ「あん?なんだって?」
たまも「なんでもないわよっ!」
ドージ(ほんとコイツ訳わかんねぇな・・・)
「ドージさ〜んっ!」
チビ「見て見てっ!チョウチョ捕まえたにゃ!」
チビ「おいし~かな~?」
メイ「え”っ・・・食べるの?」
ドージ「・・・腹壊すからやめとけ」
チビ「は〜いっ!」
てってってっ・・・
メイ「童子さん・・・ あれっ、たまもさんとお話してたの?」
たまも「え、ええ。 たまたま通りかかっただけよ」
たまも「その・・・ マサヤくん、すぐ見つかるといいわね」
メイ「うんっ!ありがとう、たまもさん!」
たまも「・・・ふふっ」
ドージ「・・・さァ、そろそろ行くぞ。 何時までもこんな所で油売ってたら見つかるもんも見つかんねぇぞ」
メイ「うん、分かった!」
メイ「チビちゃーんっ!行くよーっ!」
チビ「は〜いっ!」
たまも「・・・待って」
ドージ「ん?」
たまも「コレ、あげるわ」
ドージ「あ?なんだってこんな・・・」
たまも「あんたにじゃないわよ。 ・・・メイちゃんにあげるわ」
メイ「? ・・・うん、ありがとうたまもさん」
ドージ(・・・)
たまも「ええ、気にしないで ・・・必要な時に使って」
たまも「それと・・・あんたも気をつけなさいよドージ?」
ドージ「──心配すんな。真菰」
たまも「──っ、いいから、行きなさい」
ドージ「おう」
メイ「・・・」
ドージ「どうした?メイ」
メイ「う、ううん!」
メイ(・・・たまもさん、あんなに文句言ってたのにな・・・。照れ隠しだったのかな)
〇飲み屋街
チビ「う〜、嫌な匂い・・・」
ドージ「心配すんな、ここらはまだ俺の庭だ」
メイ「童子さん・・・なんで空が暗くなってるの?」
ドージ「ここは『花街』だ。 ここらの領域は隠神刑部っつークソジジイのシマになってる」
ドージ「あいつは『常夜』っていう領域を玉藻の領域に重ねて、ここら一体を夜のまま固定してるんだわ」
ドージ「人間の世界をそのまま写し出して楽しんでるから、お前の方がまだ馴染みがあるんじゃないか?」
メイ「こういうところがあるのは知ってるけど・・・テレビやアニメでしか見たことないよ・・・」
チビ「フ~っ!メイちゃん!離れちゃダメだよ ここは悪い妖が一杯いるからね!」
メイ「そ・・・そうなんだ・・・」
ドージ「バカ言え。ここはまだ、ただの酒好きとアホしか居ねぇよ」
チビ「フ~ッ!」
メイ「チ、チビちゃん?」
ドージ「・・・ったく」
──クイクイッ
チビ「ふにぁあぁ・・・」
メイ「顎の下・・・? 何してるの?」
ドージ「気を張りすぎて倒れられたら困るからな ・・・チビはここを撫でると落ち着くんだよ」
メイ「・・・大丈夫?チビちゃん」
チビ「(ゴロゴロ・・・)」
チビ「んにゃ・・・ 大丈夫だよ・・・」
ドージ「ほらっ、さっさと聞き込みすんぞ」
メイ「あぁ、待って童子さん!」
チビ「んん・・・」
メイ「チビちゃん、行こうか」
チビ「うん・・・」
〇大衆居酒屋
ドージ「アルコールのイイ匂いだ・・・」
客「あれ~?酒呑童子様! こんな時間から珍しいですネ♡」
ドージ「今日は飲みに来た訳じゃねぇよ」
ドージ「大将~?」
大将「こ・・・これは酒呑童子殿! ウチに来てくれたんですね」
ドージ「おう、刑部は最近来てんのか?」
大将「さ、さァ、最近はずっと忙しくってですね・・・」
ドージ「だろうな ちょっと裏行くぞ」
大将「か、勘弁して下さいよ・・・」
〇飲み屋街
チビ「うー・・・ ドージさん、遅いなぁ」
メイ「ここにいる人たちって、皆人間みたいな格好してるけど・・・」
メイ「人間は居ないんだよね?」
チビ「うんっ。皆ニンゲンの真似してお酒を呑んでるんだよ」
チビ「お酒を教えてくれたのがむかーしのふるーいニンゲンだったからなんだって」
メイ「へぇ〜 こんなにそっくりだとここが妖の街ってこと、忘れちゃいそう・・・」
「・・・マジッスか!?」
「ああ・・・久しぶりに人間が入り込んだらしい」
「男と女、それぞれ五寸行かない程度のガキらしい。なんでも、あの酒呑童子が血眼になって探してるんだと」
メイ「う・・・噂になってる?」
チビ「うぅ〜・・・ 早く戻ってきて・・・ドージさん・・・」
メイ(・・・あの人たち、マサヤのこと知ってるかな?ちょっと聞いてみようかな・・・)
チビ「──うにゃっ!?メイちゃん?待って!」
〇ビルの裏
メイ(あ・・・あの人たちかな・・・?)
メイ「す・・・すいませーん」
???「・・・誰だ?」
メイ「あ・・・あの・・・」
メイ(なんて聞こうかな・・・)
???「なんだガキ!あっちいってろっ!」
メイ「あっ・・・」
???「待て・・・釣瓶」
???「うおっ・・・すいやせん・・・」
???「・・・何用だ?」
メイ「あ・・・えと・・・ さっき、人間の子がいるって・・・」
???「・・・なんだ?タレコミでもしに来たのか?」
???「悪いが報酬はお前の情報を聞いてからだ。こっちも慈善団体じゃないからな」
メイ「え?あ、ええと・・・ その、何か知ってたら教えて欲しいなって・・・」
???「・・・は? 何を言っている?」
???「信楽さん、コイツもしかして人間のガキじゃ・・・?」
???「──っ!」
???「そうか・・・ お嬢さん、もしかして人間の男の子を探してるのかい?」
メイ(急に表情、変わった・・・? 親切にしてくれてる・・・?)
メイ(いや・・・待って、 さっきタレコミ?って・・・)
???「ん?どうしたんだい?」
メイ「・・・」
メイ「あっ!」
「んん?」
メイ「ダッシュ!」
???「チッ、勘づかれた! 追えっ!」
〇飲み屋街
メイ「はぁ・・・はぁ・・・」
「待ちやがれ!コラァッ!」
メイ「うわ~すっごい怒ってる・・・ でもなんで・・・」
「居たぞっ!」
メイ「わわっ・・・やばい──!」
〇築地市場
メイ「ここどこ・・・?」
ドンッ──
客「いって!何だこのガキ!」
メイ「ごめんなさ〜い!」
タッタッタッ──
〇飲み屋街
メイ「はぁ・・・はぁ・・・」
メイ「もう・・・無理ぃ・・・」
バタンッ──
ミズチ「お・・・おーい 大丈夫かー?」
ミズチ(こいつ・・・昔のチビちゃんと同じ浴衣着てるし、絶対アニキんとこのガキでしょ・・・)
「どこ行きやがった!?あのガキ!」
ミズチ「げっ、こっちにもきやがった・・・」
信楽「見つけたぞ・・・ ん?」
ミズチ「・・・あ〜、こりゃどうも信楽さん」
信楽「・・・お前は螭か。ちょうどいい、そのガキをこちらに渡せ」
ミズチ「いや~、それはちょっと・・・」
信楽「二度は言わんぞ。 そのガキは刑部様への供物だ!」
ミズチ「ちょ、マジで、待ってくれって・・・」
???「ふにゃ──っ!!」
信楽「ぐっ・・・」
チビ「やっと見つけた・・・ も~っ・・・」
ミズチ「ちょうど良かったチビちゃん! ここは任せた──っ!」
チビ「ふえっ!?ミズチさん!?」
信楽「貴様・・・酒呑童子の飼い猫か!」
チビ「む~!チビだよ!」
信楽「この私に手を出して、ただで済むと思うなよ!」
チビ「それはこっちのセリフだよっ! ドージさんのお客さんに手を出すなんて許さないんだからっ!」
メイ「う・・・うーん・・・」
メイ「私・・・気を失って・・・ って、えぇ!?」
チビ「メイちゃんっ!」
メイ「チ・・・チビちゃん・・・」
チビ「大丈夫だよっメイちゃん・・・」
信楽「はっ、大丈夫なものか 大人しく投降しろ、メス猫!」
ザッ──
メイ「う・・・もう、ダメかも・・・」
チビ「・・・大丈夫だよ、メイちゃん」
チビ「もうすぐ来るからっ!」
メイ「えっ?」
???「楽しそうだな、俺も混ぜろよ」
メイ「ど、童子さん!」
信楽「・・・くそっ、酒呑童子──!」
ドージ「よう、信楽。 ウチのチビと『客』の遊び相手してくれてんのか?」
信楽「・・・ッチ、貴様──」
ドージ「チビはやんちゃだからな・・・ あんま調子乗ってると怪我するぞ?」
ドージ「・・・ってもう引っかかれてんな? はははっ」
信楽「貴様──言わせておけばっ!」
淡路「信楽さん!待ってください・・・」
淡路(今日はここらに大量の鬼が来ています、ここは一度退いた方が賢明です・・・)
信楽「ぐぅ・・・」
信楽「・・・」
信楽「・・・覚えていろっ! お前らは隠神刑部様が腹心、信楽太夫に手を出したんだっ!」
信楽「簡単に死ねると思うなよ!? 首を洗って待っていろ!酒呑童子!」
バタバタバタッ──
チビ「うにゃ!ドージさん!遅いよ──」
ドージ「(指で軽く小突く)」
チビ「ふにゃぁっ──!」
ドージ「・・・ったく なに目を離してんだよお前」
チビ「・・・ぅ、う~・・・」
メイ「まっ・・・待って!違うの! 私が勝手に走っていっちゃって──」
コツンッ──
メイ「うっ!?い、痛い・・・」
ドージ「待ってろって言っただろ・・・ 自由過ぎるのも大概にしろ、いいな?」
メイ「ぅぅ・・・ ごめんなさい・・・」
ミズチ「ま、まあアニキっ!その辺にしといてあげましょ? ここは一つ、アニキを呼んできたオレの手柄ってことで──」
ドージ「あ?」
ミズチ「いや・・・なんでもないっす・・・」
ドージ「流石に野次馬が多いな・・・ お前ら、場所を移すぞ」
〇屋敷の門
ザッ──
メイ「このお店は・・・? なになに・・・『夕曇亭』?」
ドージ「ああ。とりあえず中で話すぞ」
スッ・・・
女将「一見さんはお断りだよ・・・ って童子じゃないか!」
ドージ「よう、女将 部屋借りんぞ」
女将「構わないが、その子は・・・?」
女将「・・・(メイを見る)」
メイ「あっ・・・えっと・・・」
ドージ「・・・『持ち込み』だ。 なるべく奥の部屋で頼む」
女将「・・・食材の持ち込みは事前に言わないとダメだよ」
メイ(えっ・・・食材・・・?)
ドージ「・・・そっちじゃねぇよ」
女将「フッ、分かっている ほら、入んな」
メイ「ほっ・・・」
チビ「うー・・・チビ、このお店嫌い・・・」
〇居酒屋の座敷席
たまも?「はーい、しゅてんどーじ様ご一行 ご案内でーす♡」
メイ「あれっ──たまもさん!?」
たまも?「ハーイたまもで~すっ」
たまも?「こちらのお部屋を使って下さいね~」
メイ(???)
たまも?「何かご注文があったら~・・・ 遠慮なーく呼んでくださいね〜♡」
たまも?「待ってま~す♡」
ドージ「うるせぇな、早くどっか行け」
たまも?「やーん、どーじさんのいけず~」
──ピシャッ
メイ「ど、童子さん?今のは・・・」
ドージ「・・・この店の妖狐だ。 ここの料亭の奥はVIP専用狐店、通称 コン(狐)カフェだ」
ドージ「一般の客が居ないから秘密の話をするのに持ってこいなんだよ」
メイ「そ、そうなんだ・・・」
ミズチ「ヒュ~ッ! やっぱ一番人気の『たまも』さんはイイねぇ~」
チビ「にゃ・・・ ミズチさん、キモい・・・」
ミズチ「キ、キモいって酷いな・・・ 俺なんかじゃこんないい店入れないから 1回くらい呼んでも・・・」
チビ「にゃぁ! 変態は成敗するよ!」
ミズチ「じょ、ジョーダンだって・・・」
ドージ「──さて、 例の『マサヤ』についてだが・・・」
ミズチ「あ、はいはーい オレから話しますね」
ミズチ「饗宴場のヤツらから得た情報なんですが なんと、あの『隠神刑部』がガキンチョ2人に目をつけてるって話です」
ドージ「ほぉ、そんで?」
ミズチ「なんでも、人間をツマミに酒盛って宴をするんだとか・・・」
ミズチ「『刑部』のヤツ、饗宴場内に部下を大量に送り込んでいました。・・・ありゃ、マサヤって子も捕まっちゃってるかもしれないっすね」
メイ(──マサヤっ!)
ドージ「落ち着け、メイ」
メイ「で、でも、マサヤが・・・」
ドージ「冷静に考えろ。 饗宴場は危険なところだ。あそこにずっと居たら、いくら妖力を持たない人間でも気が触れる」
ドージ「逆に刑部達に捕まってりゃ安全な場所に移動してるだろ」
ドージ(・・・信楽のヤツらは知らなそうだったが、アイツは最近末席に追われてるからな・・・)
メイ「でもっ、でもツマミにするって・・・」
ドージ「人間の肉が貴重だって話、昨日したよな?」
ドージ「あいつが宴を催して、更には人間の肉まで食おうってんだ。自分の力を誇示すんのに大量に客を呼んでからに決まってる」
ドージ「それまでマサヤは生かしたままにしている筈だ。殺して時間が経ったら鮮度が落ちるからな」
ミズチ「加工して、保存肉にしてる可能性はないですかね?」
ドージ「刑部ン所だぞ?そんな高等なこと出来ねェだろ。せいぜい干物作るか酒に漬けるくらいしか脳がねぇよ」
ドージ「それに、俺があいつのなら宴の時に ひと目見て人間だって分かるようにするだろうな」
メイ「うぅ・・・マサヤ・・・」
チビ「・・・大丈夫だよ、メイちゃん マサヤちゃんはきっと生きてるよ」
メイ「うう・・・信じる・・・ 信じたい・・・」
ドージ「・・・ま~、要するに、 刑部に捕まってりゃ、マサヤは一先ずは大丈夫だってことだよ」
メイ「ぐすっ・・・ ほんとうに?」
ドージ「・・・ああ。 俺は嘘はつかねェよ」
メイ「うぅ・・・童子さん・・・ ありがとう・・・」
──ギュッ
ドージ「──バカ、くっつくなよ」
チビ「えへへ・・・ メイちゃん、甘えんぼだ~」
ミズチ(結構嘘付くけどな~アニキ・・・)
ドージ「何笑ってんだよ、螭テメェ」
ミズチ「い、いやいや、俺はずっとこの顔ッスよ」
ミズチ「・・・ってか、マサヤって女の子なんですかい?」
メイ「・・・男の子だよ」
ミズチ「だよな? チビちゃん、男の子には『くん』をつけるんだよ」
チビ「そーなの? じゃマサヤクンだね」
チビ「あれ・・・? でも、ドージさんがお酒飲みに行くと、お店の人に『ドージちゃん』って呼ばれてる時あるよ?」
ドージ「・・・そりゃ店の女将がババアで、俺の見た目が若く見えるからだろ」
チビ「うにゃ!? ドージさんが女の子に見えてるってこと!?」
ドージ「違ぇよ! ・・・あーもう面倒くせぇな」
メイ「・・・ふふふっ」
チビ「うにゃっ! メイちゃん元気になったね!」
ドージ「そうそう、ガキはガキらしくニコニコ笑ってろ」
メイ「・・・うん!」
──コンコンッ
・・・ガラガラッ
たまも?「失礼しまーすっ 紫姉さんがお呼びです~」
ドージ「ああ、分かった。今行く」
メイ「紫姉さん?」
ドージ「女将の名前だ。別に覚えなくていい。 行くぞ」
ミズチ(・・・)
ミズチ「あー・・・たまもサン?」
たまも?「は〜い!たまもで〜すっ!」
ミズチ「ちょっと俺と向こうの部屋で──」
チビ「にゃぁっ!!」
ミズチ「あっ・・・なんでもないでーす」
〇風流な庭園
女将「・・・来たね」
ドージ「要件は?」
女将「信楽の部下がこの辺嗅ぎ回ってる。 狙いはそこの子だろうね」
ドージ「そうか・・・ じゃ、螭の予想は当たりだな」
メイ(・・・? さっき私の事追いかけてたからじゃないのかな・・・)
女将「ウチで暴れられたら困るんよ。 裏口開けるから出ておいき」
ドージ「はっ、わざわざ裏口から出してくれるのか?随分と優しいじゃねぇか」
女将「勘違いしないことだね ウチは刑部の傘下に入ってないだけだ」
女将「・・・何より、アイツの思い通りにコトが運ぶのが許せないだけだからね」
ドージ「・・・ま、そうだろうな」
メイ「ど・・・どうする?童子さん・・・」
ドージ「刑部ン所行くぞ。 ・・・さっきあんだけメンツ潰した信楽が直ぐに動いてんだ」
ドージ「よっぽど急いでお前を確保したい理由が出来たんだろうな」
ドージ「つまり──刑部は近いうちに宴を始める筈だ。マサヤはあいつの手中に落ちてるって訳よ」
ドージ(二人の雁首揃える前におっぱじめようとしてんのは予想外だったが・・・)
メイ「うう・・・マサヤ・・・」
女将「ふ・・・流石だね」
女将「宴のお触れがついさっき出てたよ。 ・・・明日の夜、日付が変わる前にメインディッシュの披露をするってさ」
ドージ「明日か── おい、螭?」
ミズチ「はいはーい、了解ッス」
シュルシュルッ──
チビ「にゃぁっ!? ミズチさんがヘビになっちゃった!」
メイ「さ・・・流石妖怪だね・・・」
ドージ「何驚いてんだ、チビ。 お前も猫になれんだろ」
チビ「あ、そーだった・・・」
メイ「え、チビちゃん、猫ちゃんになれるの?」
チビ「なれるよ! ・・・むんっ!」
ドージ「・・・ちょ、お前待っ──」
チビ「ニャー!」
ドージ「バカ、今変身してどうすんだよ・・・」
メイ「可愛いっ!」
ドージ「あー・・・メイ。 チビのこと持っててくれ」
メイ「・・・?こうかな?」
チビ「にゃぁぁーーっっ!!」
チビ「ビッ・・・ビックリシタ・・・ 酷いよドージさん・・・」
ドージ「お前猫になったら言葉分からなくなるだろ・・・」
チビ「な、何となく分かるよ! なんとなく・・・」
メイ(さ・・・流石妖怪・・・)
女将「・・・茶番は終わったかい?」
ドージ「あ?あぁ・・・ 悪かったな」
女将「・・・しかし、お前さんも随分楽しそうになったじゃないか」
ドージ「・・・うっせ、別に普通だ」
女将「今回の事だって、どうせその人間の子の為なんだろ?・・・何がしたいか知らないけど」
ドージ「まァ・・・『約束』したからな」
女将「ふふっ、しょうがない子だねまったく」
女将「刑部のところにいくんだろう? さっさと行きなさい。誤魔化しとくから」
ドージ「・・・いいのか?」
女将「昔のよしみだよ、ほらさっさと行きな!」
「お蜜!お苗!手伝いなっ!」
ザッザッザッ・・・
ドージ「・・・」
チビ「・・・いこっか、ドージさん」
ドージ「ああ。 ・・・猶予は明日の夜、俺たちは明日、客としてあいつの屋敷に入る。いいな?」
メイ「わ、分かった・・・! ミズチさんからの情報で作戦を練ってから行くんだよね?」
ドージ「ああ。 ──お前、少し冷静になれたな」
メイ「え?・・・ありがとう」
ドージ「──さて、近くの宿を探すぞ。 静かに付いてこい」
チビ「うんっ!」
〇屋敷の門
『夕曇亭』正門
淡路「・・・だから、ここに酒呑童子が入っていくのを見たっていう目撃情報が来ているんだ」
淡路「さっさと出さないと面倒な目に遭うぞ!」
『夕曇亭』店員「で・・・ですから・・・ お客様のプライバシーを侵害するようなことはお話出来ません」
『夕曇亭』店員「信楽様・淡路様並びにそのお連れ様方は当店で問題を起こした際に出禁となっております。どうかお引き取り下さい」
信楽「淡路!何をまどろっこしいことをしている!」
淡路「い・・・いや、この女が・・・」
信楽「この店はウチのシマに陣取っておきながら、シノギを上げてこないモグリの店だ」
信楽「こっちには時間が無いんだ さっさとあのガキを攫って持っていかないと俺の地位が──」
信楽「ゲフンゲフン──! ぎょ、刑部様の宴に間に合わん! そこを退け!」
『夕曇亭』店員「きゃっ!」
〇居酒屋の座敷席
ダッダッダッ──
信楽「ここか!」
ドージ?「おらっ、もっと近くに寄れ、たまも」
たまも?「やーんっ、どーじさんったら~」
信楽「貴様──やはりここに居たか!」
ドージ?「・・・あ〜ん? テメェ信楽、この俺の道楽を邪魔するってのかぁ?」
信楽「くっ──どこまでも私を愚弄するのか! ガキは何処にいる!渡せ!」
ドージ?「はははっ!一足遅かったな、マヌケ とっくに美味しく頂いちまったよ」
信楽「きっ・・・貴様ァァッ!!」
──ガシャーン!
たまも?「きゃっあっ!こわーいっ」
ドージ?「おっと、これ以上店の備品を壊されちゃあ敵わないね」
信楽「なっ・・・お前は──」
女将「全く・・・ あんたら化け狸共は本当にマヌケだね」
信楽「貴様・・・老いた狐の分際で、この信楽太夫を誑かすとは!」
信楽「許さん!血祭りに上げてくれる! お前ら、コイツらを──」
くらっ──
信楽「何っ!?目眩が・・・」
女将「くっくっくっ・・・ 本当にマヌケだねぇ、バカ狸共は。 滑稽ったらありゃしない」
信楽「ぐあっ──!」
バタンッ──
信楽「うっ・・・く、そ・・・」
女将「アンタがこの部屋に入った時点でもうアタシらの術中なんだよ、全く・・・」
信楽「・・・」
たまも?「あれぇ?死んじゃった?」
女将「気絶してるだけさね・・・ お蜜!外に運びなっ!」
たまも?「はーいっ」
〇屋敷の門
釣瓶「うえぇっ!?信楽サン?」
信楽「ぐっ・・・おのれ・・・」
釣瓶「ってかアレ、玉藻じゃないか!? なんでこんなところに居るんだよ!」
淡路「落ち着け・・・あれは成りすましだ。 ここが狐の店なのを忘れたのか?」
お蜜「う~・・・確かに私はたまもさんじゃないですケド・・・」
お蜜「指名してくれる人はいつも私をたまもとして扱ってくれますよぉ?」
信楽「ぐぬぬ・・・ 本物より可愛く取り繕いやがって・・・」
女将「──さて、アンタ達ももう懲りただろう さっさと刑部のバカのとこに戻りな!」
信楽「クソ・・・今日は厄日だ・・・」
女将「妖狸如きが舐めんじゃないよ! 『傾国の紫』はアンタらみたいな半端モンに容赦しないからね!!」
信楽「クソッ、クソッ・・・! 引くぞ・・・」
信楽「覚えとけ・・・絶対にロクな死に方はさせないからな・・・」
ダッダッダッ──・・・
お蜜「紫姉さん・・・ 自分で自分のこと傾国ってゆってるんですかぁ?」
女将「ふん・・・アタシだって化ければ若い子達に負けない美人になれるさね」
「ほらっ、さっさと後片付けするよ!」
お蜜「は〜い」
女将(さて・・・ あとはアンタが刑部の鼻を明かす番だよ 期待してるからね、童子・・・)
一触即発状態ですね
さて、