クリスマスの二人に祝福あれ

暖簾下ウォーター

読切(脚本)

クリスマスの二人に祝福あれ

暖簾下ウォーター

今すぐ読む

クリスマスの二人に祝福あれ
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇ヨーロッパの街並み
  クリスマス。
  聖誕祭とも呼ばれるめでたい日。
  この国では、国を統べる”祝福の樹”が種子を落とす、一年に一度の大切な日だ。

〇シックなバー
  そんなめでたい日の前夜・・・
ドミンゴ「──♪」
  若作りの中年、ドミンゴが行きつけの酒場で一人楽しくやっていた。
  そこにやってきたのは、ドミンゴより更に若そうなこの青年。
ルネス「はー、寒い寒い・・・ マスター、昨日と同じの頼むよ」
ドミンゴ「おっ」
ドミンゴ「メリー、若者! 今日も来ると思ってたぜ」
ルネス「やあ、お兄サン。昨日ぶり」
ルネス「何だい? その”メリー”って?」
ドミンゴ「おや、知らんのか?」
ドミンゴ「ああ、そうか。君は遠い国からやって来たばかりだったな」
ドミンゴ「”メリー”ってのは、クリスマスを祝う挨拶だよ」
ルネス「へぇー、クリスマス・・・ お祭りか何か?」
ドミンゴ「そう、祭り。 おかげでここらは既にお祭り騒ぎさ」
ルネス「そっか、どうりで街中が浮き足立ってたわけだ」
ルネス「僕の故郷だと、”メリー”は『頑張れよ』って意味の言葉なんだ」
ルネス「だからなんか励まされた気分」
ドミンゴ「ほう。じゃあ”クリスマス”は?」
ルネス「うーん、どうだったかな・・・」
ルネス「『ク・リーシュ・ルマーシュ』とかどう?」
ルネス「直訳すると”月に手を伸ばす”って意味。 ”背伸びをしたい子供”みたいな諺になるよ」
ドミンゴ「・・・そんなに似てるかね、それ」
ルネス「あれ、似てないかい? 僕は似てると思うんだけどなぁ・・・」

〇シックなバー
  それから、二人はしばらく語り合った。
  自分のこと。
  互いのこと。
  故郷のこと。
  この国のこと。
  思いつく限りの話題を挙げては心ゆくまで語り明かした。
  そして互いの”仕事”のことも。
ドミンゴ「そういや若者、昨日言ってた”仕事”ってのはどうなった?」
ルネス「ん、まあ順調だよ。 お兄サンのアドバイスのおかげさ」
ドミンゴ「・・・”人助け”の仕事だったか。 いいじゃないか、なかなか出来ることじゃない」
ルネス「何言ってるのさ。 お兄サンだって”人を護る”仕事なんでしょ?」
ルネス「”助ける”よりもっとかっこいいじゃない」
ドミンゴ「・・・ま、そう映るか」
ルネス「違うの?」
ドミンゴ「んー・・・」
ドミンゴ「・・・実際のところ、”助ける”と”護る”は同じじゃない」
ドミンゴ「自分から働きかけて”助ける”のとは違って、”護る”ってのはどうあれ”護る”しかない」
ドミンゴ「・・・他の全てを切り捨てても、護るものの安全だけが最優先なんだ」
ルネス「あー、そういうこと・・・」
ドミンゴ「そういうのが続くとな・・・」
ドミンゴ「正しいと思って就いたはずなのに、根本の自分にとっての”正しさ”ってのに自信が無くなってくるんだよ・・・」
ルネス「うーん、難しいね」
ルネス「・・・でも、お兄サンの話を聞いていてわかったことが一つあるよ」
ドミンゴ「ん・・・?」
ルネス「お兄サン、好きだからその仕事をやってるんだよね」
ルネス「それも、お兄サンにとって一番大切なものを護るために」
ドミンゴ「・・・!!」
ルネス「聞いてたらわかるよ」
ルネス「大切なものを護りたい。 でもたまに思わぬ事態に陥って後悔する。 それでたくさん迷う」
ルネス「でもやめない。 確かに得られた成果があるから」
ルネス「お兄サンは大切な何かを”護った”。 そこはそれで納得していい部分なんだよ」
ドミンゴ「・・・だが現実に、俺が手を差し伸べられなくて失われたものがある」
ルネス「それもそうなんだろうね。 でもさ・・・」
ルネス「切り捨てたものを護るために本当に大切なものを護れなかったら、今よりもっと後悔すると思うんだ」
ルネス「多分、いいんだと思うよ、手の届く範囲で」
ルネス「・・・人間ひとりで出来ることには限界があるんだからさ」
ルネス「そのために、この国には”祝福の樹”ってのがあるんでしょ?」
ドミンゴ「・・・・・・」
ドミンゴ「・・・ハハハ、やっぱり君は面白いな」
ドミンゴ「マスター、この若者に一番高い酒を頼む」
ルネス「おや、いいのかい?」
ドミンゴ「いいんだ、おかげで少しだけ自信がついたよ。 だから、ちょっとした贈り物だ」
ドミンゴ「プレゼントもこの”クリスマス”の風物詩の一つだしな!」
ルネス「へえ・・・」
ルネス「じゃあマスター、お兄サンが今飲んでる分、僕が払うよ」
ドミンゴ「オイオイ、昨日は金欠だって言ってなかったか?」
ルネス「いいんだよ。 明日の仕事の前金がたんまり貰えたばかりだから」
ルネス「・・・僕も、自分の仕事をちょっとだけ見つめ直すことが出来たし」
ルネス「なんかちょっとだけ背伸びしたい気分なんだ。 それこそ、そう・・・」
「『ク・リーシュ・ルマーシュ』!」
ドミンゴ「・・・ハハハ。 口にすると思った以上に『クリスマス』だな、こりゃ」
ルネス「ね?やっぱり似てたでしょ」

〇シックなバー
ドミンゴ「・・・・・・さて、そろそろ行くか。 マスター、お代ここに置いとくよ」
ルネス「あれ、もう行っちゃうの?」
ドミンゴ「ああ。 そろそろ戻らんとドヤされちまう」
ルネス「じゃあまた明日、ってことになるのかな?」
ドミンゴ「おう。お互い上手くいったら、また明日の夜この店で落ち合おうや」
ドミンゴ「じゃあな、若者──」
ドミンゴ「”メリー、ク・リーシュ・ルマーシュ”だ」
ルネス「・・・・・・」
ルネス「・・・うん。 『メリー・クリスマス』、お兄サン」

〇シックなバー
  再会を誓い、二人は別れました。
  片や、国に豊穣もたらす「祝福の樹」を守る衛士。
  片や、周辺諸国の大地を枯らす「祝福の樹」を狙うスパイ。
  抱いた悩みは、話し合いによってすっかり消え去ったようですが・・・
  そんな二人が今後、それぞれの立場で再開した際にどうなったか。
  ──それは語らずにおきましょう。
  何故なら今日は聖なる日。
  導きに従った二人の運命を探るのは野暮というもの。
  ただ、「二人は種を巡って夜を明かしたのでした」とだけ、"種"を明かして終わるのでした。

コメント

  • お互いの立場が違えど、普通にお酒はおいしいと。
    最後のオチがすごかったです。
    本当にこの二人が戦うことになったらどうなるんでしょうね?

  • 互いに祝福しあい、励まし合い、これからさらに進んでいくための英気を養い、こういった場所での一期一会、人と人との関わり合いっていいものだなとあたたかい気持ちになりました。

  • なるほど、なんだかんだで敵同士と言えど、互いは人間なわけで…。
    お互い故郷や考え方、色々あって、語り合った後に敵になるって、結構辛いかもしれませんね…。

コメントをもっと見る(6件)

成分キーワード

ページTOPへ