私が野球道具

鳳来寺小道

読切(脚本)

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〇野球場の観客席
実況「東京エドーズ対大阪ナンデヤーの一戦も終盤7回を迎えております。 ここまで1-0でナンデヤーが1点のリード」
実況「しかし、この回ナンデヤーのピッチャー難波が2アウトを簡単に取った後、連続ヒットを打たれツーアウト2,3塁の大ピンチ」
実況「ここで迎えるバッターは、エドーズの助っ人ミサーク。 6月に入っても調子の出ないミサークが、ここで結果を残せるでしょうか」
コーチ:田畑淳「監督、ここ代打じゃなくていいんですか? あいつ10打席連続三振ですよ。 きっと、またチェンジアップでやられしまいますよ」
監督:庄屋明彦「10打席?そんなにだったか・・・・ いや、あいつにかけてみよう」
コーチ:田畑淳「またファンに叩かれちゃいますよ・・・ それにしても、あいつかわいそうですよね」
監督:庄屋明彦「何がだ?」
コーチ:田畑淳「結果残せなかったら廃棄処分だなんて。 勝手に作られて、勝手に廃棄。ほぼ、試作段階の時と同じぐらいの性能だって聞きましたよ」
監督:庄屋明彦「ん~仕方ないだろ。親会社の商品なんだし、こっちは何も言えん」
コーチ:田畑淳「気付かないものなんですかね」
監督:庄屋明彦「何がだ?」
コーチ:田畑淳「自分がアンドロイドだって。自分の国ではスーパースターで、それで日本に呼ばれたってインプットされているんでしょ」
監督:庄屋明彦「ああ、そう聞いているが。 本人が気付くわけないだろう」
コーチ:田畑淳「誰も気付いていないんですかね。 周りの人間とか、ファンなら気づきそうじゃないですか」
監督:庄屋明彦「田畑君なら気づけるかい?」
コーチ:田畑淳「僕は気付かなかったですけど・・・ でも、ファンなら経歴とか調べそうじゃないですか。国での成績とか、経歴とか」
監督:庄屋明彦「君なら調べるのかい?」
コーチ:田畑淳「好きになった選手なら調べますよ。高校時代は、どんな選手だったんだろうか、みたいなことは」
監督:庄屋明彦「そういうもんかね」
コーチ:田畑淳「そういうもんですよ。今の時代、簡単に情報は出てきますからね」
監督:庄屋明彦「だからこそ。なんじゃないのか」
コーチ:田畑淳「どういうことですか?」
監督:庄屋明彦「今の時代、情報操作なんて簡単だろうし、何が本当で、何が嘘なのかわからんものだろ」
コーチ:田畑淳「さすがにわかるでしょう」
監督:庄屋明彦「まあ、いずれにしても、結果を出せないなら「廃棄」は仕方のないことだよ」
監督:庄屋明彦「俺だって、成績を残せなかクビなんだから同じことだよ」
コーチ:田畑淳「でも、死にはしないでしょ? あいつは”廃棄”ですよ”廃棄”」
監督:庄屋明彦「そりゃ、俺たちは人間だから廃棄はされない。 あいつら”機械野郎”とは違う。あいつらは・・」
コーチ:田畑淳「監督!”機械野郎”なんて言ったら、炎上ものですよ」
監督:庄屋明彦「誰も知らないんだから炎上なんてする訳ないじゃないか、じゃあ”システム野郎”か」
コーチ:田畑淳「それも今の時代じゃアウトですよ」
監督:庄屋明彦「とにかく廃棄は免れん」
実況「さあ、ピッチャー難波、セットポジションに入り、第一球を投げた」
実況「フラフラ~っと上がった打球は、内野の頭を超えそうにありません。 ショートが手を上げて、がっちり捕りました」
実況「スリーアウトチェンジです。 絶好のチャンスを逃してしまったエドーズ残り2回で逆転なるのでしょうか」
解説者「抜けたチェンジアップだと思いますが、初球からあの高さのボールに手を出すなんてあり得ませんね」
監督:庄屋明彦「さあ、次だ次だ。切り替えていこう!」
コーチ:田畑淳「監督。やっぱり駄目でしたね。初級から打つ球じゃないですよ。 ちょっとトイレ行ってきます」

〇施設のトイレ
コーチ:田畑淳「ふぅ~」
オーナー:大麦元「田畑君。田畑君」
コーチ:田畑淳「(誰か呼んでる?)」
オーナー:大麦元「田畑君、こっちこっち」
コーチ:田畑淳「え?オーナー! こんなところで何やってんですか?試合中ですよ」
オーナー:大麦元「心配で観ちゃおれんのだよ。あいつ、このまま結果を残せなかったら、廃棄処分だぞ。どうなんだ、あいつは」
コーチ:田畑淳「観ての通りですよ。自分を、どこぞの国から来たスーパースターだと思って機嫌よくプレーしていますよ」
コーチ:田畑淳「ばれないんですか?」
オーナー:大麦元「何がだ?」
コーチ:田畑淳「さっき監督とも話をしていたのですが、自分が人間じゃないって気づいたりしないのかなと」
オーナー:大麦元「そこは大丈夫だ。田畑君だって、突然「君はアンドロイだ」って言われても「前からわかってましたよ」とはならないだろ?」
コーチ:田畑淳「そりゃ、そうですけど。それは、僕が違うからでしょ。僕がアンドロイドだったら、気づいたかもしれないですよ」
コーチ:田畑淳「それにしても、あいつ打てなさ過ぎですよ」
オーナー:大麦元「田畑君、さっきから何を言ってるんだ? もしかして、ミサークのことを言ってるのか?私が言ってるのは、監督の方だぞ」
コーチ:田畑淳「え?あの・・・それって・・・」
オーナー:大麦元「このチーム成績じゃどうにもならん」
コーチ:田畑淳「でも、それって・・・ え、じゃあミサークは?」

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コメント

  • 面白いです!何が真実なのかじっくり考えてしまいました。主観と客観、虚と実が入り混じったお話、ぐいぐいと引き付けられますね。

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