始動・・・の前に。(脚本)
〇黒
翌日の放課後────
RPG部の部室には、勇者一行の面々が揃っていた
桜白 季四香「──さて、今日から本格的に活動を始める」
桜白 季四香「では勇者様、今日の活動方針を──」
真野 勇者「待て待て待て!」
桜白 季四香「どうかされましたか?」
真野 勇者「いや、どうかしたって言うか・・・」
〇豪華な部屋
真野 勇者「この部屋の方がどうかしてるんだけど・・・」
真野 勇者「昨日の部屋と打って変わり過ぎだろうに」
馬峰 司「目が痛くなるほどに豪華絢爛じゃのぉ」
桜白 季四香「あのような部屋など、勇者様には相応しくありませんので・・・」
桜白 季四香「やはり勇者様と言えば、高貴でゴージャスでエレガントな部室が必要かと」
真野 勇者「部室が必要なのはわかるんだけど・・・」
〇ファンタジーの学園
真野 勇者「・・・なんで学校の敷地に見たことない洋館が建ってるんだよ」
惣 莉緒「花壇に綺麗なお花がたくさん咲いてましたね」
馬峰 司「花どころか噴水まであるとは驚いたのぉ」
天馬・ノニ・バーシャ「喜んでくださり光栄です。 苦労した甲斐がありました」
真野 勇者「苦労した程度で一夜にしてこんな建物建ててたんじゃ、全国の大工さんが泣きますよ」
〇豪華な部屋
真野 勇者「そもそも、なんで他の生徒は普通に受け入れてんの?」
真野 勇者「一晩で学校の敷地が広くなったうえに庭園付きの洋館なんぞ建ってたら、驚くどころか事件だよ、事件」
馬峰 司「そこはアレじゃよ。魔法での」
惣 莉緒「私もお手伝いさせていただきました」
真野 勇者「それって大丈夫なの? 主に、後遺症とか・・・」
天馬・ノニ・バーシャ「ちなみにこの洋館の建築は、私の魔法で行わせていただきました」
天馬・ノニ・バーシャ「無論、安全設計マシマシで・・・」
桜白 季四香「うむ、なかなかの腕だ」
真野 勇者「安全設計マシマシだろうが、魔法での建築って法律的にどうなんだよ・・・」
馬峰 司「・・・ほれ勇者。そんなことより──」
真野 勇者「そ、そうだった!」
真野 勇者「あ、あー? ちょっとみんなに報告があるんだけど・・・」
桜白 季四香「報告? 何をです?」
真野 勇者「ちょっと、新しい仲間を──」
ブレイブ「・・・・・・」
桜白 季四香「・・・・・・鳥?」
桜白 季四香「勇者様、この鳥は?」
真野 勇者「え、ええと・・・この鳥は──」
〇男の子の一人部屋
──前夜。
真野 勇者「──えっ!? ブレイブの声が聞こえない!?」
馬峰 司「左様。お主にはハッキリとした声が聞こえておるようじゃが・・・」
馬峰 司「おそらくお主以外の人間には、ピーチクパーチクとしか聞こえておらぬ」
ブレイブ「そうなんだよ・・・だからとても困ってたんだ・・・」
真野 勇者「いやでも、司だってさっきから会話してたじゃん」
馬峰 司「儂が会話できておるのは、言語魔法のおかげじゃよ」
馬峰 司「動物の声を聞き取ることが出来るようにはなるのじゃが、習得がすこぶる難しいくせに効果が声を聞けるだけとショボいからの」
馬峰 司「今は──というより、勇者や儂らが転生する前の段階で既にその手法は失われてしまってて、もはや儂しか使えん」
ブレイブ「つまり、僕が直接季四香や他のみんなに事情を説明するのは難しいのさ」
真野 勇者「う、うーん・・・」
真野 勇者「そもそも、なんで俺だけに聞こえるんだよ」
馬峰 司「おそらくじゃが、勇者の魔力と波長が合うのやもしれぬ」
真野 勇者「魔力の波長が合ったら動物の声が聞こえるんだ・・・」
馬峰 司「今回は超レアケースじゃ。 本来他の動物では持ち得ない程の魔力を勇者が持っているが故の副産物じゃな」
ブレイブ「僕としても奇跡的に助かったんだよ」
ブレイブ「何せ誰一人とて話せないとなると、魔法が使えるただの鳥でしかないわけだし・・・」
馬峰 司「下手すれば季四香の奴に、魔物として斬り伏せられていたやもしれぬの・・・」
真野 勇者「うーん、つくづくバーサーカー・・・」
真野 勇者「ハッ!」
馬峰 司「・・・うん? どうかしたかぇ?」
真野 勇者「いや・・・ちょっと閃いたんだけど・・・」
真野 勇者「俺、ブレイブの魔力と波長が合ってるんだよな?」
真野 勇者「ってことは、実は俺の中には隠された魔力なんかがあって、訓練次第では魔法なんかも使えたりして──!?」
馬峰 司「お主に魔力なんぞ微塵もないぞぇ」
真野 勇者「はぁ!!?? なんでわかるんだよ!!」
馬峰 司「儂を誰だと思うておる。 仮にも、かつて千年魔女とすら称された魔法使いじゃぞ?」
馬峰 司「お主の魔力量などとっくに調べたわ」
真野 勇者「い、いやでも! さっきも魔力の波長が合うって・・・!」
ブレイブ「魔力ってのは、そもそも魂の力みたいなものなのさ」
ブレイブ「だから魔力の波長が合うというのは、魂が似通うところが多いってこと・・・」
馬峰 司「平たく言えば、なんとなーく気が合う奴というわけじゃ」
馬峰 司「この場合、お主には魔力が一切ないからの」
馬峰 司「波長が合うと言うよりも、いわば勇者からの一方的な介入じゃ」
真野 勇者「いやいやいや・・・」
真野 勇者「普通そういうのお約束じゃん? 実は俺最強でーとか、実はめちゃくちゃ凄い力があってーとか・・・」
真野 勇者「それに、アレだ! もしかしたら魔力が高過ぎて、司の感知も麻痺したとかの可能性も・・・!」
馬峰 司「ないの」
真野 勇者「ないのかよ!!」
ブレイブ「魔法使いの感知すら麻痺させる魔力なんてあったら・・・」
ブレイブ「普通、精神に影響起こして感知能力が麻痺する前に発狂したりするから・・・」
馬峰 司「お主はいったい何を期待しとるんじゃ・・・」
真野 勇者「そりゃ期待するに決まってるだろ!」
真野 勇者「じゃなきゃ俺とかただ単に名前で巻き込まれただけの貧乏クジじゃん!!」
真野 勇者「せめて夢くらい見させろよ!! 希望くらい持たせろよ!!」
ブレイブ「人の夢と書いて儚いと言うし・・・」
馬峰 司「ほとんどあり得ないうっすい望みと書いて希望じゃからのぉ・・・」
真野 勇者「そういう話じゃないんだよ!!」
馬峰 司「とにかく、今お主の正体を明かすのは危険なのは間違いない」
真野 勇者「危険なのは正体を明かすことじゃなくて、あんた達のところのバーサーカーだろうに・・・」
馬峰 司「そこ! 余計な茶々を入れるでない!」
馬峰 司「とりあえず当面の間はお主を勇者と呼び、勇者はブレイブと呼ぶことにする」
馬峰 司「このことは儂らだけの秘密じゃ。他言するでないぞ」
ブレイブ「僕は他言したくてもできないんだけどね・・・」
馬峰 司「細かいことはいいじゃろうに! 黙っておれ!」
馬峰 司「しかし、勇者──いや、ブレイブの知識と経験、判断は欲しいからの。 近くには置いておきたい」
馬峰 司「・・・そこで、じゃ──」
〇豪華な部屋
真野 勇者「──この鳥は、俺達のペットだ」
「ペット???」
馬峰 司「それも、ただのペットではないぞ?」
馬峰 司「儂の魔法で使い魔化しとるから、勇者の従者として何でもしてくれるオマケ付きじゃ」
桜白 季四香「ふむ・・・鳥の使い魔か・・・」
桜白 季四香「空からの捜索も可能となれば、更に活動の幅も広がることだろう」
桜白 季四香「さすが勇者様ですね!!」
真野 勇者「は、ははは・・・」
ブレイブ「ま、まさか僕がペット扱いされる日が来るなんて・・・」
真野 勇者「あー・・・うん、ドンマイ・・・」
世界を救うとは、かくも過酷である──
そう思い知る、勇者であった・・・