1. 迷い込んだメイ、マサヤを案ずる(脚本)
〇古びた神社
逢魔ヶ刻、とある廃神社──
「よいっ・・・しょ!」
メイ(やっと着いた・・・)
メイ「お〜い、マサヤ! ここに隠れてるんでしょ? いい加減出てきてよ!」
「・・・」
メイ「もうっ、いつまでも拗ねないでよ・・・いるんでしょ?中入るよ〜?」
〇流れる血
メイ「えっ──」
メイ(なっ・・・なにこれ・・・ どうなってるの・・・)
「フフ・・・」
メイ「きゃぁぁあっっ!!」
メイ「外っ・・・外に出なくちゃ──!」
メイ「──あっ・・・」
???「・・・あ〜?」
メイ「あ・・・あ・・・」
???「・・・ん? なんで饗宴場に人間のガキが・・・?」
メイ「ごめんなさいぃぃぃい!!」
???「おいっ!何してんだお前っ! おい!──・・・」
・・・
〇神社の本殿
メイ「・・・う、う〜ん・・・」
メイ「──はっ! マサヤ!」
チビ「ふぇっ!?」
メイ「あ・・・あれ?」
チビ「び、びっくりした・・・」
チビ「だ・・・だいじょーぶ? キミ、苦しそうだったよ・・・」
メイ「え・・・」
メイ「あの・・・誰?」
チビ「え、えっと・・・」
チビ「・・・あたしはチビ。キミが起きたら呼べってドージさんが・・・」
メイ「チビ?ドージさん? ・・・どういうこと?」
チビ「ぅ・・・」
チビ「うぅ・・・」
チビ「──うにゃ〜っ! タマモさん!ヘルプぅう〜っっ!」
メイ「・・・」
メイ(・・・)
メイ(可愛かったな・・・)
メイ(──いやいやいやいや! そんなこと言ってる場合じゃない・・・)
メイ(っていうかマサヤは? まず、ここはどこ──)
メイ「!?」
メイ「な・・・なんか凄い綺麗なお社・・・」
メイ(いやいやいやいやそうじゃなくて! ・・・裏山の廃神社じゃないの?)
メイ(なんでこんな綺麗なところに──!)
メイ「わっ・・・」
たまも「・・・もう動けるの?」
メイ「えっ・・・あ・・・」
たまも「随分丈夫なのね、あなた。 私だって饗宴場は体が痛くなるのに・・・」
メイ「あの・・・あなたは・・・」
たまも「私?・・・私は玉藻 この稲荷神社に住まう天狐よ」
メイ「稲荷神社・・・って、昔お狐様を祀ってたっていう所だよね?」
メイ「テンコって・・・?」
たまも「天狐を知らないの? ・・・妖狐達の中でも最高位の妖力をもつ無敵の妖よ」
メイ(妖狐って・・・ おばあちゃんがいってた悪い狐のことかな・・・? ってことは妖怪・・・?)
メイ(・・・でもこの人、顔は怖いけど、巫女っぽい見た目だし、悪そうにには見えないな・・・)
たまも「・・・あなた、何の妖なの? 見た事ない格好してるけど・・・」
メイ「えっ・・・私がアヤカシ!?」
メイ「わっ・・・私・・・妖じゃないよ?」
たまも「え?」
メイ「え?」
・・・
チビ「たまもさん・・・ ドージさんはさっき『人間』って言ってたよ」
たまも「──えっ!人間・・・?」
メイ「う、うん・・・」
たまも「・・・」
たまも「とっ、当然、分かっていたわ? あなたが妖の振りをする悪い人間かどうか試しただけよ?」
チビ「たまもさん・・・顔が怖いってば・・・」
たまも「に、人間の癖に私のことを知らないなんておかしな子ね。私は人間達から神として祀られるほど有名な妖なのよ?」
メイ「う・・・うぅ・・・ ごめんなさい・・・」
チビ「ごめんよ、ニンゲンの子・・・ タマモさんは生きたニンゲンを殆ど見たことがないから・・・」
たまも「そっ、そんなことは無いわ! ただこっちの世界ではあまり見ないってだけよ!」
メイ「こっちの世界・・・?」
チビ「ここは妖気で作られた特別な世界だよ」
チビ「ニンゲンの世界と見た目は同じだけど、あたし達妖の姿はニンゲンに見えないようになってるんだ」
チビ「逆にあたし達からも向こうの世界にいるニンゲンのことが見えないけどね」
たまも「要するに現世を写し出したもう一つの世界ってことよ。現世とこの世界は結界で隔たれているわ」
メイ「そっ・・・そんなアニメやゲームみたいな世界があるなんて・・・」
メイ(やっぱり、妖怪の世界に紛れ込んじゃったんだ・・・。おばあちゃんが妖怪の世界があるって言ってたのはここのこと?)
たまも「ここを維持する妖力を最も多く提供しているのはこの私よ。・・・ここは先代の『たまも』が陰陽師の人間と協力して作った世界なの」
たまも「だから私はこの辺りで一番偉いのよ それこそ、現世の人間達に崇められるくらいにはねっ」
メイ「そ、そうなんだ・・・ とりあえず元の世界に帰りたいんだけど どうすればいいかな?」
たまも「・・・逢魔ヶ刻に饗宴場に行けば戻れると思うわ。少し時間は過ぎているけど、私が術を使えば出られるはずよ」
メイ「逢魔ヶ刻・・・?」
チビ「あたし達あやかしとニンゲンの世界があやふやになっちゃう時間だよ」
チビ「たまもさんの力を借りてキョーエンジョーにいけばニンゲンの世界に戻れる ・・・よね?」
メイ「・・・分かった。 とりあえず落ち着いてまとめると──」
メイ「この世界は私のいた世界とは違くて、決まった時間帯だけ世界どうしが繋がるから、そのタイミングで饗宴?場にいけばいいんだね」
たまも「お、概ねその通りよ。 ・・・あなた、随分理解が早いのね」
メイ「えへへ・・・ マサヤと一緒にやってるゲームの設定にそっくりだからかな」
メイ「──そうだ!マサヤを見てない? もしかしたらマサヤもこの世界に来てるかもしれない!」
たまも「マサヤ?・・・知らない名ね。 その者も人間なの?」
メイ「うん、友達なの。 ・・・喧嘩しちゃって、秘密基地にいると思ったから行ってみたんだけど・・・」
メイ「マサヤは拗ねると秘密基地に隠れるから、いっしょに巻き込まれてないかな?って・・・」
たまも「・・・なるほど。確かに、こっちの世界に迷い込んでしまったのなら、近くに居た子も巻き込まれている可能性はあるわね・・・」
メイ「もう結構暗くなっちゃってるし、明日探しに行った方がいいかな?」
チビ「う〜ん・・・ そうだなー・・・」
たまも「・・・私の社に泊まっていかない? ここなら私たちの世界で一番安全よ」
チビ「にゃにゃっ!そ、そういえばドージさんがニンゲンのガキ?を見たって言ってたよ!」
チビ「だからドージさんに聞いてみるといいよ!」
メイ「さっきも言ってたけど、ドージさんって?」
チビ「倒れてるキミを助けて、たまもさんに手当をお願いしてくれた鬼のお兄さんだよ!」
たまも「あいつはやめておいた方がいいわ。 ・・・ここに人間の子を連れてきたってことは、酒のツマミにでもするつもりだろうから」
メイ「え・・・」
チビ「ドージさんはそんなことしないよ!」
チビ「前にキョーエンジョーで倒れてたチビのことも助けてくれたんだから!」
たまも「あいつが何回私の社に穴を開けたと思う?あいつの酒癖の悪さは牛鬼よりも酷いわ。おまけに酔ってる時はスケベになるし・・・」
チビ「お・・・お酒飲んでない時はいい人だよ・・・うん・・・」
メイ(うーん・・・ どうしよう・・・)
メイ「・・・饗宴場って危険なところなの?」
たまも「ええ、とっても 日々人間の世界に出ようとする悪い妖怪がいつも集まっている場所なのよ。童子はそこをいつも出入りしてる悪者ね」
たまも「私がいなければ外に出ることなんてできやしないでしょうけどっ」
メイ「・・・でも、私のこと、助けてくれたんだよね?」
チビ「ドージさんは悪者なんかじゃない! ちょっとお酒で失敗しちゃうだけだよ!」
メイ(・・・)
メイ「・・・とりあえず、会ってみる!」
チビ「それがいいよ! あたしがドージさんの所へ連れてってあげるっ!」
たまも「・・・はぁ、いいわ。好きにしなさい。 但し、お酒を飲んでる時のアイツには近づかないこと。いいわね?」
メイ「うん、分かった たまもさんも色々ありがとう!」
たまも「・・・いいえ〜 もし何かあったらまた頼りに来ていいからね」
「スッ・・・」
チビ「──ふう、おっかなかった・・・」
メイ「たまもさんってそんなに怖いの?」
チビ「・・・うん。怒らせると青い炎で燃やされちゃうんだ。それに──」
チビ「・・・人間をおつまみしてるのはたまもさんの方だよ・・・」
メイ「えっ・・・」
チビ「なんだっけ・・・ 『いけにえ』?っていうニンゲンのお肉を食べるのが好きなんだ・・・」
チビ「と・・・とにかく、ドージさんの所に連れていってあげるよ!」
チビ「ドージさんが優しいのはホントだし、たまもさんはドージさんがいるからここで好き勝手出来ないんだっ」
メイ「う・・・うん、分かった」
チビ「よーし、そうと決まれば早速出発〜! れっつ〜、ニャ〜っ!」
メイ「にゃ、にゃ~・・・///」
〇広い和室
メイ「わぁー・・・ 広いお屋敷だね」
チビ「ドージさ〜んっ!」
ドージ「・・・んだようるせぇな 甲高い声を出すな、チビ」
メイ「──あっ!」
メイ(あの時・・・ぶつかっちゃった人だっ・・・)
チビ「ほらっ、ニンゲンの子、挨拶っ♪」
メイ「あっ・・・あの・・・」
ドージ「・・・ん?そいつは・・・」
ドージ「ははっ、まさかチビがあの性悪狐を出し抜いてここに連れてくるとは思わなかったな」
チビ「あたしだってやるときはやるもんっ!」
メイ「え、えーと・・・」
ドージ「お前、名前は?」
メイ「メ・・・メイ・・・です」
チビ「えっ!キミ、お名前あったんだ! じゃあチビとお揃いだね♪」
メイ「へ?何が?」
ドージ「ああ・・・ チビはな、親に捨てられて名前が無かったんだ」
ドージ「だから名前がある方が特別だと思ってやがるんだよ」
チビ「ドージさんが付けてくれた名前だから特別なんだよっ!」
メイ「そ、そうなんだ・・・ でも、なんでチビなの?」
ドージ「・・・拾った時はお前みたいにチビだったんだよ」
メイ「・・・」
メイ「──はははっ!何それ! 大きくなるに決まってるじゃん!」
(全員の笑い声)
メイ(このおに・・・鬼いさん?は見た目怖くて口調も荒いけど・・・)
メイ(・・・なんだか、とっても優しそう──!)
ドージ「・・・さて、立ち話もなんだ。 久しぶりの客だし、飯でも食ってけよ」
メイ「は、はい!」
チビ「・・・えへへ、いいひとでしょ!」
メイ「うん・・・ もっと怖い人だと思った・・・」
チビ「見た目はと〜っても怖いけど、チビのこといっぱい面倒見てくれる優しい人なんだ!」
チビ「あ、でもね・・・」
チビ「・・・ドージさんは優しいって言われるの好きじゃないから、あんまり言わないであげてね」
メイ「・・・? うん、分かった」
〜15分後〜
ドージ「ほらよっ」
メイ「わぁ〜っ! 美味しそうな和食っ!」
チビ「チビもドージさんの料理大好き!」
チビ「・・・たまにしか作ってくれないけど」
ドージ「俺はお前の作る濃い味のツマミに 酒がありゃいいんだよ」
チビ「にゃぁ〜っ!お酒はダメって言ってるでしょ!」
ドージ「鬼は酒盛ってナンボだろ 酒を飲まない鬼は鬼じゃねぇ」
メイ(あっ・・・ 酔っちゃう前に聞いた方がいい気がする・・・)
メイ「あっ、あの──」
ドージ「ん?」
メイ「実は、聞きたいことがあって、童子さんに会いに来たんです」
ドージ「なんだ?」
メイ「えっ──と、私の他に、私と同じくらいの『マサヤ』って男の子を見ませんでしたか?」
ドージ「さあ・・・知らねえな」
メイ「えっ・・・」
チビ「ド、ドージさん、 さっきニンゲンのガキを見つけたっていってたよ!?」
ドージ「・・・ガキってのはこいつのことを言ったんだ」
ドージ「(メイを指差す)」
チビ「えぇっ!・・・そうだったの?」
ドージ「・・・ったく、ガキの意味も知らん癖によくあの狐を出し抜けたな」
チビ「うぅ──・・・ ご、ごめんなさい・・・」
ドージ「・・・そんで、そのマサヤってヤツ、ダチかなんかか?」
メイ「あ、うん。 幼稚園の頃からの友達なんです」
メイ「・・・多分、私がこの世界に入り込んだ場所に、先に来てたと思うから、こっちに来てるんじゃないかって・・・」
メイ(確証はないけど・・・)
ドージ「ほー・・・」
チビ「ドージさん・・・?」
ドージ「・・・だったらこの俺が、そのマサヤってやつを探すの、手伝ってやるよ」
メイ「本当!?」
ドージ「ああ。その代わり、俺の言う事を一つだけ聞いてもらう。それが取引条件だ」
メイ「取引・・・?」
チビ「む・・・ドージさん!」
ドージ「なんだ?チビ」
チビ「いじわるしようとしてないよね? メイはいい子だよっ!」
ドージ「・・・まだ何もいってねぇだろ」
メイ「・・・?」
チビ「メイちゃん、妖のみんなにとってね、『約束』っていうのはとっても重いんだ」
チビ「・・・だから、ぜ〜ったいに後悔しないように考えてお約束するんだよ!」
メイ「え、えっと・・・」
ドージ「・・・要するに、俺達との『約束』ってのは、決して破ることが許されないって話だ」
ドージ「破った奴には一切の慈悲をかけない── 言うなれば『契約』ということだ」
メイ「そ、そんな──私、約束破ったりしないよ!」
ドージ「意図的だろうが無かろうが、決して約束を破ることは許されねぇ。 ──その覚悟がお前にはあるか?」
メイ「・・・」
メイ「・・・」
メイ「うん──分かった!」
メイ「マサヤを見つけるためだったら、私、なんでも言う事聞くよ!」
ドージ「・・・」
ドージ「──っはははは! とんだ大馬鹿もんだな!お前!」
チビ「うぅ・・・ メイちゃ〜ん・・・」
ドージ「──気に入った!」
ドージ「・・・俺は自分のことを省みない『バカ』のことは好きなんだ」
メイ(ば・・・ばか・・・)
ドージ「お前の『バカさ』加減に免じて、特別にお前の願いだけ聞いてやる。有難く思え!ははっ」
「えっ!!」
チビ「ふぇ・・・めずらし・・・」
メイ「本当にいいの?」
ドージ「ああ。人間とはいえ、ガキだからな。 騙して利用しても面白くねぇだろ」
メイ「う・・・それはそれで微妙・・・」
チビ「メイちゃんっ、チビも手伝うよ!」
メイ「ありがとう、チビちゃん!」
ドージ「チビ・・・ お前、コイツのダチ探すってなると、饗宴場に行くんだぞ?」
ドージ「・・・お前絶対迷子になるだろ」
チビ「んにゃっ!? だ、大丈夫だよっ!」
チビ「ま・・・前みたいにドージさんとお手々繋いでれば・・・」
ドージ「──っ!」
ドージ「──バカ野郎。それはお前がまだチビだったからだろうが」
ドージ「大体、手なんか繋いだまま捜し物なんざまどろっこしいんだよ」
チビ「うー・・・」
メイ「じゃ、じゃあ、私がチビちゃんと手を繋いでるよ!」
メイ「それなら童子さんの邪魔にならないでしょ?」
チビ「うにゃ・・・ チビ、みんなで一緒にお出かけしたいよ」
ドージ「・・・ッチ、わーったよ、ったく・・・ 好きにしろ」
チビ「わーい! ありがとっ、ドージさん!」
ドージ「あー、じゃその代わり・・・ 今から酒のツマミになる料理を作ってこいよ」
チビ「む~・・・ 分かったけど、お酒はちょっとだけにしてね。メイちゃんだっているんだから」
ドージ「おう、心配すんな。 ・・・ほら、作ってこい」
てってってっ──
ドージ「さて、飲むとするか」
メイ「・・・」
メイ「・・・」
ドージ「・・・どうした?そんなに見つめやがって。お前も呑みたいのか?」
メイ「う、ううん・・・なんでもない・・・ 私は子供だから呑めないし・・・」
メイ(・・・お酒呑んだら怖いって本当かな?)
ドージ「さてはお前・・・ビビってやがるな?」
メイ「えっ・・・?」
ドージ「玉藻のアホになんて言われたか知らないが、客として招いた奴に手を出したりしねぇよ。俺ァ特別酒に強いしな」
メイ「そ・・・それならいいんだけど・・・」
メイ「・・・」
メイ「あ・・・あの・・・」
ドージ「あ?」
メイ「・・・どうして私のこと、助けてくれたんですか?」
ドージ「・・・さあな。饗宴場で生身の人間がブッ倒れてたからとりあえず拾って、 玉藻の所に持って帰っただけだ」
ドージ「怪我や病気の看病に関しては、玉藻の右に出るヤツは居ねぇ」
ドージ「一応、チビをお前の見張りに付けたが、正直一人で玉藻から人間を連れて来れるとは思ってなかった」
メイ「あの・・・チビちゃんが言ってたんだけど・・・」
メイ「たまもさんって・・・ 本当に人間のお肉を食べてるんですか?」
ドージ「チビがそう言ったのか?」
メイ「う・・・うん」
ドージ「チビには前に言ったんだがな・・・ アイツ、すぐ忘れるからな」
メイ「・・・?」
ドージ「玉藻って名前はあいつらにとって通り名っていうか、家名みたいなモンだ。 ・・・あいつ本名は真菰っていうんだが」
ドージ「かなり昔、先代の『玉藻』が人間たちから生贄を献上して貰っていた時代があってよ」
ドージ「真菰は同じように人間から生贄を献上してもらうことで、先代『玉藻』と同じような威厳を保とうとしてんだ」
ドージ「・・・ま、先代が物凄い優秀な天狐だったからな。憧れてんだよ、アイツ」
メイ「じゃ・・・じゃあやっぱり食べて・・・」
ドージ「いや・・・正確に言うと食ってない」
メイ「え?」
ドージ「この生贄って呼んでる肉だが・・・」
ドージ「人間の肉って思わされてるだけで、実際は羊の肉なんだよ」
メイ「──ええっ!?」
ドージ「アイツ、外の世界のことはおろか、この世界の常識すら全く知らない箱入りでよ」
ドージ「アイツに取り入ろうとする下級の妖怪共が人間の生贄だー、つって嘘をついて持ってきてんだよ」
ドージ「あいつはそれを『また人間たちが私に生贄を出してくれている』と勘違いしてやがるんだよ。笑えるだろ?」
メイ「・・・そっか たまもさんは本物の人間の肉を食べたことがないから──」
メイ「人間の肉って言われたら信じちゃうのか・・・」
ドージ「そういう事だ。 第一、そんな頻繁に人間が生贄を出すわけないと思うが・・・」
ドージ「あいつにはそんな考えは浮かばないんだよ。アホだから」
メイ(・・・うーん 教えてあげればいいのに・・・)
ドージ「周りには人間の肉を食べているって信じ込ませて、自分の威厳を見せつけられていると思い込んでるんだ」
ドージ「チビはよく玉藻の所に行ってるから、その話を良くされてるんだろうよ。 前に俺がその話が嘘だって教えてやったってのに」
ドージ「・・・まあ、玉藻は好きで人間を喰らおうとしてた訳じゃなさそうだがな」
メイ「ふーん・・・ 何だか、色々複雑なんだね・・・」
「出来たよーっ!」
チビ「じゃーんっ!」
メイ「うえぇぇ!?」
ドージ「今日は随分早かったな──って」
ドージ「お前これまた野菜入れただろ・・・ 肉だけでいいっつーの」
チビ「お野菜も取らなきゃダメだよ! 今回はかいしんの出来栄えですっ!」
メイ(そ・・・そこなの・・・?)
ドージ「・・・味はわるくねぇからまあいいか」
メイ「ほっ、ほんとに・・・?」
ドージ「おうよ。 お前も食ってみろ」
メイ「・・・」
メイ(え〜いっ!)
パクッ
メイ「しょ・・・しょっぱいっ・・・」
チビ「え〜っ!」
チビ「チ、チビにも食べさせて?」
ドージ「ん、ほら」
パクッ──もぐもぐ・・・
チビ「にゃあぁーーーっっ!! しょ、しょっぱいぃぃっ!」
ドージ「・・・お前味見してねぇのかよ」
チビ「ううう・・・お塩かけすぎた・・・ マズいよ・・・」
ドージ「昔の生焼けより十分美味いぞ」
「ほ、ほんとに・・・?」
ドージ「──っ、ああ」
ドージ「・・・酒飲んでるとよ、しょっぱい方が美味く感じるんだよ」
チビ「・・・ならいいや! うれしーなぁ〜」
メイ(・・・優しいな〜)
ドージ(俺は別に悪かねぇと思ったんだがな・・・)
一同はしばらく談笑した後、明日に備えて眠りについた・・・
〇広い和室
その日の夜・・・
メイ「う・・・ううーん・・・」
〇流れる血
メイ「マサヤ〜!どこ〜?」
・・・
メイ「・・・ごめんね、マサヤ・・・ 私がワガママ言ったから・・・」
メイ「マサヤのこと、嫌いなんていってごめんね・・・ 本当はそんなこと思ってないよ・・・」
──スッ・・・
メイ「──っ!? マサヤ?」
???「・・・」
メイ「マサヤ!?」
メイ「まっ──待って、行かないで!」
──ズズッ・・・
メイ「ひっ・・・!」
メイ「な、なんの音・・・?」
(後ろを振り返る)
メイ「──っ!!」
メイ「きゃぁぁぁぁぁあっっっ──!」
〇広い和室
がばっ──
メイ「・・・」
メイ(・・・怖い夢だった)
(モフッ)
メイ「・・・?」
チビ「グ〜・・・」
メイ(あ・・・チビちゃんのシッポだった)
メイ(・・・っていうか、ものすごーくトイレに行きたい・・・)
メイ(・・・でも怖くなっちゃった・・・ どうしよう・・・)
メイ「・・・」
メイ「チビちゃん、チビちゃん・・・」
(優しく撫でる)
チビ「ん~・・・」
メイ「起きてっ、チビちゃん・・・」
(激しく撫でる)
チビ「うにゃ・・・ ドージさん・・・もっと撫でて・・・」
メイ(ダメだ・・・起きてくれない・・・)
メイ(童子さんは別のお部屋だし・・・)
メイ(・・・そもそも一緒に来てなんて恥ずかしくて言えない・・・)
メイ(う・・・ でも我慢出来なそう・・・)
メイ(・・・よしっ! こうなったら──)
メイ「チビちゃんっ!」
(しっぽを引っ張る)
チビ「にゃぁぁぁっっ──!?」
メイ「わっ!ビックリした・・・」
チビ「ひっ、ひどいよ・・・メイちゃん・・・」
メイ「ご、ごめんね・・・ そんなに驚かせるつもりじゃなかったんだけど・・・」
チビ「うう・・・ 尻尾はダメ・・・ぜったいぃ・・・」
メイ(うう・・・ちょっと罪悪感・・・)
〇御殿の廊下
メイ「うう・・・」
メイ「ね、ねぇチビちゃん・・・ トイレ、あそこであってる・・・?」
メイ「・・・チビちゃん!?」
チビ「──ふにゃっ!」
チビ「・・・ぅ〜、チビ、眠いよ・・・」
メイ「ごめんね・・・ トイレに行ったらすぐ戻るから・・・」
メイ(うう・・・怖い・・・)
メイ(あ・・・ここで合ってた・・・)
「・・・から──・・・て──・・・」
メイ「っ!?」
メイ(は・・・話し声・・・? 外からかな・・・)
ドージ「──人間のガキだ。流石にまだ喰われちゃ居ねぇだろ・・・」
メイ(・・・ドージさん?誰と話してるんだろ)
???「・・・とりあえず探せばいいんスよね?他のモンにも伝えときますが・・・」
ドージ「──ああ。人間と言っても、多分あいつと同じくらいの五寸に満たないガキだ」
ドージ「あれは俺の獲物だ。もし刑部の部下と鉢合わせたらそう伝えておけ」
メイ(・・・)
メイ(・・・五寸?に満たないガキ? マサヤのこと・・・だよね)
メイ(獲物って・・・ まさか・・・そんな・・・)
〇屋敷の門
ドージ「──ああ。花街の方は俺が自分で探す。 お前らは饗宴場で姿を探すだけでいい」
ミズチ「・・・分かりましたよ」
ミズチ「ったく、ホント人使い荒いッスよね アニキ」
ドージ「うっせ。文句言う暇あったらさっさと行ってこい」
ミズチ「へーいっ」
シュルシュルッ──
ドージ「・・・」
ドージ「・・・ん?」
メイ(──あっ・・・)
ドージ「・・・何してんだ?お前」
メイ「あっ・・・え、ええと・・・ こ、怖い夢見ちゃって・・・」
メイ「その・・・たまたま話し声が聴こえたから・・・」
ドージ「・・・ああ。お前のダチを探すように部下に伝えたんだわ」
ドージ「迷い込んでるとしたらお前もいた饗宴場だろう。 あそこは俺ら上級の妖でもかなり痺れる場所だ」
ドージ「長いこと捜索は出来ないから、こうして先んじて探すように伝えたんだよ」
メイ「そ・・・そっか・・・」
メイ(・・・『獲物』って言ってたこと、聞かない方がいい気がするな・・・)
ドージ「・・・おい」
メイ「なっ、なに?」
ドージ「さっき言ってた夢っての・・・ まだ怖いのか?」
メイ「えっ?・・・ええと・・・」
ドージ「まだ怖いなら、寝るまで傍にいてやろうか?」
メイ「──へっ!?い、いやいや大丈夫だよっ!」
ドージ「そうか、ならいい。 ・・・昔よくチビも怖がってたからな」
ドージ「明日朝から動くからな しっかり寝とけよ」
メイ「・・・」
メイ(・・・やっぱり、大丈夫かな あの人、すっごい優しいもん・・・)
メイ(・・・とりあえず、お部屋に戻ろう。 ・・・ん?何か忘れているような・・・)
メイ「・・・まあいっか!」
〇御殿の廊下
チビ「──へくちゅっ!」
チビ「うーん・・・ 遅いにゃぁー・・・」
チビ「・・・Zzz」
さて、マサヤ君はいずこに?