食穴蛇~小さなアパートの物語~(脚本)
〇古いアパート
①隣の夕御飯はー・・・
サト「あら、アケミさんお帰りなさい!何時もお疲れ様ねぇ」
アケミ「すみません、サトさん。カズが何時もお世話になってしまって・・・」
サト「いいのよぉ、うちも主人と二人暮しでしょ?」
サト「カズ君が一緒だと食卓も賑やかだし、あの人もよく話すし、助かってるくらいよぉ!」
アケミ「そう言って頂けるとありがたいです・・・」
夜遅くまで働いている私を見かねたのか、サトさんが声をかけてくれたのは少し前のこと
親とは仲が悪く疎遠なシングルマザー・・・子供を家に一人で残すことに不安もあり、嬉しい申し出、渡りに船だった。
子供が居ないというサトさん夫婦は実の孫の様にカズを可愛がってくれている。
小さなアパートで恵まれたこの良縁、大切したいと思う・・・
カズ「お待たせ、かあちゃん!」
アケミ「ほらカズ、サトさんにちゃんと挨拶しなさい!」
カズ「おばちゃん、今日も夕御飯ごちそうさまでした!」
サト「はい、お粗末様でした。また明日ね」
カズ「じゃあね、おやすみなさい!」
サト「はい、おやすみなさい。じゃあね、アケミさんも、おやすみなさい」
アケミ「はい、おやすみなさい」
カズ「あー、今日も楽しかったー!」
アケミ「今日は何してたの?」
カズ「おじちゃんとオセロやってー、折り紙おった!見てこれ!」
アケミ「あら!ふふ、足付きの鶴ね!」
カズ「おじちゃんが教えてくれたんだ!明日学校で皆に自慢するんだ!」
アケミ「そうね、きっと皆驚くわよ!」
私が小学生の頃も、男子が首が二つの鶴とか不思議なものを折ってたなぁ・・・
そんなことを思いながらカズの話に頷き、家に帰る。と言っても二階に上がるだけだけれど・・・
〇ダイニング(食事なし)
カズ「たっだいまー!」
アケミ「お帰りなさいってね。カズ、お風呂は?」
カズ「おじちゃんと一緒に入った!」
アケミ「そう」
カズ「うん、タオルでブクブク~って泡だしたりして遊んだ!」
アケミ「あらあら・・・」
アケミ「何から何まで・・・サトさん達には感謝しかないわね・・・」
アケミ「さて、と。明日は何を食べようかしらね・・・」
アケミ「カズ、今日の夕御飯は何をよばれたの?」
カズ「んー・・・わかんない!」
アケミ「わからないってアンタ・・・」
カズ「だって、見たこと無い料理だったもん!」
アケミ「ふぅん?サトさんの実家の郷土料理とかだったのかしらね?」
カズ「なんだかわかんないけど、スッゲー美味しかったよ!」
アケミ「ならいいけど・・・明日の朝、パンとソーセージと卵焼きでいい?」
カズ「いいよ~!」
カズ「俺、トイレ行ってくるね!」
アケミ「はぁ、サトさんお料理じょうずよね。今度レシピ聞いてみよう・・・」
アケミ「・・・はぁ、美味しい・・・」
アケミ「・・・ん?」
アケミ「やだ、虫の足・・・?ホウキ、ホウキ・・・」
アケミ「普段は全然みかけないけど、古いアパートだものね・・・」
アケミ「でも、家賃も安いし人もいいし・・・ほんと、いい所に恵まれたわよね・・・」
カズ「かあちゃん~、眠い~・・・」
アケミ「はいはい、着替えてもう寝なさい」
カズ「うん、おやすみなさーい・・・」
アケミ「ふぁ・・・あ、さて、私もさっさとお風呂に入って寝ないとね・・・」
アケミ「それにしても・・・」
結局、カズが食べさせて貰ったものは何の料理だったのかしら?
〇古いアパート
②柿と穴
俺の住むアパートは古いけど格安で住んでる人達も感じのいい、そんな好物件だ。
ゴミは専用の部屋があって、そこに置くようになってる。カラス対策らしい。
男「よいしょっと、さて、ゴミ捨て完了ってね!」
男「ん?」
男「・・・ひからびた・・・柿?あ・・・」
古いアパート、干し柿の転がる場所の近くの柱の辺り、に小さな穴が空いていた。
男「え、これ大家さんに言った方がいい奴か?でもここ、誰かすんでる部屋でもないしなぁ・・・」
男「季節でもないし・・・ネズミかなんかがこっからイタズラしたのかな?」
男「今のところ、見かけたことはないけど・・・」
大家さんが掃除してくれるのか、ここですら早々虫もみかけない。正直、助かる。
男「・・・ま、会うことがあったら言えばいいか!帰ろっと!」
それにしても、あの柿、穴より随分おおきかったよな・・・
・・・いやいや、でもじゃあ、季節でもないのに誰が何のために・・・って話だよな。
そーいや捨てるの忘れちまったな。まぁ、誰かが掃除してくれるだろ。帰ろ帰ろ。
〇ダイニング(食事なし)
③穴の中に居るもの
ミナ「お母さん、遅いな~」
ミナ「またサトさんとお喋りしてるのかな?ながいんだよねぇ二人とも・・・」
ぼろくて小さいアパートは、皆仲がいい。私もカズ君とよく遊ぶ。
ミナ「ひーまーひーまーひー・・・」
ミナ「・・・あれ?」
ふと見やると、柱に穴が空いていた。
ミナ「こんな穴、あったっけ?」
ミナ「綺麗に丸い・・・ふしって所かな?」
ミナ「今まで気づかなかったなー」
ミナ「・・・この中ってどうなってるんだろ?」
ミナ「おとなりさんちが見えたりしないよね?」
ミナ「・・・ちょっとだけ、除いてみようかな?」
恐る恐る除いてみた。穴のなかにはうっすら夕日が差し込んでいて・・・
ミナ「ひっ!!!!?」
ビックリして柱から離れた。
ミナ「・・・え、なに!?小さな・・・顔、顔があったよ!!?」
白い紐のようなものの上に、お人形みたいな綺麗な顔が見えた気がした。
手足が痺れる、心臓の音が全身を巡るー・・・
ミナ(き、気のせい、だよね?)
よせばいいのに、もう一度恐る恐る穴を覗き込んだ。
ミナ「ー・・・やっぱりある!!!!!」
ミナ「・・・え?なんでこんな所に?イタズラ?」
ミナ「でも、壁の中・・・だよ?」
ミナ「あ、日が差してるから何処かにも穴があってそこからはいっちゃったのかな!?」
ミナ「・・・そんなわけ、ないよねぇ・・・?」
ミナ「・・・おかあさんに、言った方がいいのかな?」
何だかわからないけれど、誰にも言ってはいけない気がした。
ミナ(でも、こわい・・・)
ミナ「そうだ!」
ミナ「これを・・・こうしてっと・・・!」
ミナ「うん、これで怖くないよ!」
それは子供の浅知恵かもしれない。
でも、知らない方が幸せとサトさんも言っていたからこれでいい。これがいい。
〇古いアパート
④壁の中に居たもの
公務店の人「あぁ、なるほど。ここにあながあいているんですね」
とある古いアパートの壁の修理をすることになった。
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このモヤモヤ感を残す小話を組み合わせるスタイル、想像力を物凄く刺激されます。そして胸に残り続けるゾワゾワ感、、、ホラーですね