デスルートに入ったようデス。(脚本)
〇男の子の一人部屋
馬峰 司「────なるほどの。 大方の事情はわかった」
馬峰 司「しかし悪いことをしたの、小僧。 よもや、勇者という名前が全くの偶然であったとは・・・」
真野 勇者「いや、わかってくれたらいいんだけどさ」
・・・あれから、勇者はすっかり衰弱してしまったブレイブを抱え、とりあえず寮の部屋まで戻っていた。
それからすぐに、再び窓からの侵入者が現れる。
馬峰司であった
彼女は勇者の魔力を感じ取り、何事かと様子を見に来たのだが・・・
そこで衰弱するブレイブと焦る勇者からの説明を受けて、全ての真実を知ったのだった。
真野 勇者「ブレイブはどう? 大丈夫そう?」
馬峰 司「なぁに、魔力を使いすぎただけじゃ。 寝ていればすぐに治るじゃろうて」
真野 勇者「それなら良かった・・・」
ブレイブ「す、すまない・・・ まさかここまで加減が効かないとは・・・」
馬峰 司「おそらく、人の身に転生できなかった影響じゃろう」
馬峰 司「ただでさえ魔力操作が難しいとされる電撃魔法・・・」
馬峰 司「慣れてもおらぬ小鳥の身で使えば魔法は暴走し、魔力が枯渇するなど自明の理というものじゃて」
馬峰 司「しかも、聞けば見せびらかすかのように魔法を使ったそうじゃな」
ブレイブ「そ、それは・・・」
馬峰 司「かつてあれほど強く聡明であった勇者とは思えぬ程に、浅はかであったの」
馬峰 司「反省せい、馬鹿者めが」
ブレイブ「め、面目ない・・・」
真野 勇者「ま、まあまあ・・・」
真野 勇者「そもそも証拠を見せろって言ったのは俺で、ブレイブもこんなことになるなんて思わなかったみたいだし・・・」
真野 勇者「本人(?)もグロッキーになってるから、責めるのもその辺に・・・」
ブレイブ「しょ、少年・・・」
馬峰 司「一応言っておくがの・・・」
馬峰 司「他人事のように言っておるが、一番危なかったのはお主なのじゃからな」
真野 勇者「へ?」
馬峰 司「もし仮に、操作が狂った魔法がお主に当たっておれば・・・」
馬峰 司「間違いなく・・・“即死”じゃったぞ」
真野 勇者「即死・・・・・・」
馬峰 司「お主も見たように、公園の地面を割り、抉り取るほどの威力じゃ」
馬峰 司「魔法耐性など皆無のお主にわずかでも触れておったら──」
馬峰 司「お主なんぞ、たちまち塵も残らず消滅しておったじゃろうて・・・」
真野 勇者「消滅・・・・・・」
馬峰 司「小僧・・・ 本当に、運が良かったの・・・」
真野 勇者「・・・・・・」
ブレイブ「し、しかし少年が無事で良かった! 今はその事実を噛み締めて──!」
真野 勇者「・・・・・・」
真野 勇者「・・・・・・焼き鳥って、美味しいよね」
ブレイブ「お、落ち着け少年!! きっと美味しくないぞ!!」
馬峰 司「悪ふざけもこの辺にして、まずは今後のことじゃの」
真野 勇者「今後?」
馬峰 司「無論、お主のことじゃて」
ブレイブ「君の名前は勇者ではあるけれど、本当の勇者じゃない」
ブレイブ「そのことを、他の仲間にどう知らせるかってことさ」
真野 勇者「どうって・・・普通に言っちゃダメなの?」
馬峰 司「天馬と莉緒については問題なかろう」
馬峰 司「天馬は儂らに絶対服従を誓っておるし、莉緒がそれを聞いて暴走するとは考えにくい・・・」
馬峰 司「さしあたっての問題は・・・」
馬峰 司「やはり、季四香じゃな・・・」
ブレイブ「う、うーん・・・ そうなるかなぁ・・・」
真野 勇者「ちょ、ちょっとちょっと・・・」
真野 勇者「なんなのその不穏な感じ・・・ 桜白さんがなんで問題なのさ・・・」
馬峰 司「ふむ・・・あやつは、転生前から勇者のことを崇拝しておったからの」
馬峰 司「勇者の旅に同行し、世界を救うことこそ自らの使命と信じ切っておった・・・」
馬峰 司「そんな季四香に、迂闊にも──」
馬峰 司「俺、実は勇者じゃないんだよね〜」
馬峰 司「・・・などと言ってみよ」
〇学校の屋上
桜白 季四香「あろうことか勇者様の名を語り、私達を誑かしていたとは・・・」
桜白 季四香「万死に値する!!」
桜白 季四香「滅せよ!!」
〇男の子の一人部屋
馬峰 司「・・・なんてことになりかねんぞ」
真野 勇者「い、いやー・・・・・・」
真野 勇者「さすがにいきなり斬りつけるとか・・・それはないんじゃないの? ねえ?」
「・・・・・・・・・」
真野 勇者「何とか言ってよ! なあ!?」
馬峰 司「・・・とにかく、いきなり勇者ではないことを告げるのはやめておくとするかの」
ブレイブ「それがいいだろうね・・・」
真野 勇者「っていうかさ、考えたらおかしくね?」
真野 勇者「俺、最初っから言ってたよな!? 違うみたいなこと!」
真野 勇者「それなのに、そっちが勝手に勘違いしただけじゃん! 俺悪くないじゃん!」
真野 勇者「なんで俺の方がこそこそしなきゃいけないんだよ!」
馬峰 司「う、うむ・・・」
馬峰 司「ぐうの音も出ぬほどに至極真っ当な意見なのじゃが・・・」
ブレイブ「では、どうすると?」
真野 勇者「当然、決まってる!」
真野 勇者「俺は勇者じゃないけどそっちが勝手に勘違いしただけ──」
真野 勇者「あとは知らんから勝手にやってろって、そう言ってやるんだよ!」
ブレイブ「そ、それでもいいかもしれないけど・・・」
馬峰 司「あの季四香のことじゃ。もしかすれば──」
〇学校の屋上
桜白 季四香「・・・事情はわかった」
桜白 季四香「確かに、私達にも非はあるだろう」
桜白 季四香「だが、私達の正体を知られていては勇者様に危険が及ぶかもしれない・・・」
桜白 季四香「すまないとは思うが、もしもお前のせいで勇者様に迷惑がかかるのなら──!」
桜白 季四香「万死に値する!!」
桜白 季四香「滅せよ!!」
〇男の子の一人部屋
真野 勇者「無茶苦茶にも程がある!!」
真野 勇者「すまないと思うなら万死に値させんな!!」
馬峰 司「でもまぁ、さすがにそこまではならん」
馬峰 司「・・・とは、思うのじゃが・・・」
ブレイブ「ならないとは思うんだけど・・・」
真野 勇者「ならないって言い切れよ!!」
真野 勇者「じゃあ・・・あれだ! 元々俺が鳥で勇者が人間だったんだけど・・・」
真野 勇者「魔王のせいで入れ替わって転生したとか、そんな感じに言えば・・・!」
ブレイブ「その時は・・・」
馬峰 司「こうなるじゃろうな──」
〇学校の屋上
桜白 季四香「・・・つまりお前が生きてる限り、勇者様は鳥の姿かもしれないと・・・」
桜白 季四香「ならばお前さえ消えれば、勇者様は人の姿に戻るかもしれない!」
桜白 季四香「すまない! 名も知らぬ貴様!」
〇男の子の一人部屋
真野 勇者「サイコパスかよ!!」
真野 勇者「そいつもうバーサーカーじゃん! 全然騎士じゃないじゃん!」
馬峰 司「戦闘能力は高いんじゃがなぁ・・・」
ブレイブ「時々深く考えないから・・・」
真野 勇者「やっぱバーサーカーじゃん!」
馬峰 司「・・・もういっそのこと、お主を魔王の転生者としてしまうのはどうかぇ?」
ブレイブ「ああ、逆にね」
真野 勇者「何の逆だよ!」
真野 勇者「それで本当に助かるわけ!?」
ブレイブ「う、うーん・・・」
馬峰 司「おそらくじゃが、こんなことに──」
〇学校の屋上
桜白 季四香「うむっ!」
〇男の子の一人部屋
真野 勇者「「うむっ」じゃねえよ!」
ブレイブ「ははは、さすがに無理があるかな」
馬峰 司「ちょっと言ってみただけじゃからの」
真野 勇者「人の命運で遊んでんじゃねえ!!」
こいつらといたらガチで死ぬかもしれん
そう思う、勇者であった・・・