鳥よ、鳥よ。(脚本)
〇通学路
RPG部なるものに巻き込まれた勇者は、一人、深々とため息を吐きながら帰っていた。
真野 勇者「はぁぁ・・・ ホント、何なんだろあの人らは・・・」
真野 勇者「これ、もしかしなくても、明日からも巻き込まれる流れ?」
真野 勇者「・・・・・・」
真野 勇者「嫌だぁ・・・・・・」
真野勇者、15歳。
心からの言葉であった。
・・・と、その時だった。
「────そこの少年。 聞こえているか? 少年」
真野 勇者「・・・ん?」
「おおお! どうやら本当に聞こえているようだ」
「こっちだ少年。 こっちを見ろ」
真野 勇者「な、何なんだ今度は・・・ もしかして、不審者的なやつ?」
勇者は、恐る恐る声の方に顔を向ける。
ブレイブ「・・・・・・」
真野 勇者「あれは・・・小鳥? 綺麗な色だけど・・・」
ブレイブ「ようやく見つけることができた。探したぞ、少年」
真野 勇者「・・・・・・」
真野 勇者「・・・・・・ん?」
ブレイブ「さっそくだが、少年。話がある」
ブレイブ「今日、君の身に起きたことだが・・・」
ブレイブ「・・・っと、どうした? さっきから反応が鈍いようだが・・・」
真野 勇者「・・・・・・あー、ダメだ。 やっぱ疲れてるな・・・」
真野 勇者「鳥が喋ってるように聞こえたけど・・・そんなわけないし・・・」
ブレイブ「喋ってる! 喋ってるぞ少年!」
真野 勇者「そんなことあるわけないだろ!」
真野 勇者「鳥は喋んないから! それが世の中の常識だから!」
ブレイブ「いやまぁ言いたいことはわかるんだが・・・少し話を聞いてはくれないか?」
真野 勇者「嫌だ! 絶対聞かないからな!」
真野 勇者「もう面倒なのはお腹いっぱいだから! 俺は普通の生活を送りたいだけだから!」
ブレイブ「あっ! 待つんだ少年! 少年!」
〇男の子の一人部屋
栄優学園、男子寮。
勇者の部屋────。
真野 勇者「ぜぇ・・・ぜぇ・・・!」
真野 勇者「こ、ここまで来れば、さすがに大丈夫──」
ブレイブ「追いついたか。窓が開いていて助かった」
真野 勇者「うぉい! また出やがった!」
ブレイブ「少年! 混乱するのはわかるが、少し話を聞いてくれないか!?」
真野 勇者「いい加減にしろよ! お前らのせいで入学初日からもう無茶苦茶なんだよ!」
ブレイブ「あー・・・やはり巻き込まれたか・・・」
ブレイブ「すまなかった少年。 女騎士達のことだ。ろくにキミの話を聞かなかったのだろ?」
真野 勇者「そうだよ! あいつら揃いも揃って、人を勇者様だの何だの言って全くこっちの話を──!!」
真野 勇者「・・・って、あれ? お前、あいつらのこと知ってるのか?」
ブレイブ「ああ。彼女達のことならよく知っている」
ブレイブ「何しろ、前世で一緒に旅をした仲だからな」
真野 勇者「前世で旅って・・・ お前、もしかして・・・」
ブレイブ「ああ、その通りだ」
ブレイブ「僕は・・・僕こそが、勇者の生まれ変わりというわけさ」
ブレイブ「名は・・・そうだな、ブレイブとでも名乗ろうか。 少し話をしよう、少年」
〇公園の砂場
勇者と勇者を名乗る鳥は、公園へと場所を移した。
ブレイブ「ここなら、話を誰かに聞かれる心配もないだろう」
ブレイブ「さて・・・何から話せばいいだろうか」
真野 勇者「俺も聞きたいことならたくさんあるんだけどさ・・・」
真野 勇者「・・・とりあえず、根本的にあんた達って何者なんだよ」
ブレイブ「ある程度のことは学校という場所で聞いたとは思うが・・・」
ブレイブ「端的に言えば、僕たちは別の世界からの転生者というわけさ」
真野 勇者「転生者? 鳥なのに?」
ブレイブ「それについてはあまり触れないでくれ。 僕だって驚いているんだ」
ブレイブ「元々僕達が住んでいた世界はロストエクシアと呼ばれていて、この世界ほど科学は発展していないが、緑豊かな素晴らしい世界さ」
ブレイブ「ただ、向こうには魔獣と呼ばれるモンスターが徘徊していたり、危険なダンジョンなんかも多くあった」
ブレイブ「だからこそ、ロストエクシアの人々は武芸を学び、魔法を習得していたんだ。 生き延びるためにね」
真野 勇者「まんま剣と魔法の世界だな・・・」
真野 勇者「それで? ブレイブ達が勇者一行なら、魔王の軍勢と戦っていたんだろ?」
ブレイブ「その通りだ。よくわかったね」
真野 勇者「だって・・・それもうお約束だし・・・」
真野 勇者「それであれでしょ? どうせ魔王をあと一歩まで追い詰めたのに、まんまと転生で逃げられて・・・」
真野 勇者「仕方なくブレイブ達も転生して魔王を追いかけてきた・・・みたいな話でしょ?」
ブレイブ「何の話だい?」
真野 勇者「いやだから・・・魔王を倒しかけたのにって話じゃ・・・」
ブレイブ「魔王を倒しかけた? そんなはずないだろう」
真野 勇者「え? 違うの?」
ブレイブ「魔王とは、魔界を統べる王とも言える存在のことだよ」
ブレイブ「そんな強大な存在に、”人間程度”が勝てるはずもないだろ?」
真野 勇者「えええ!? 勝てないの!? 勇者なのに!?」
ブレイブ「キミは・・・あれだね。 勇者や魔王の存在を知っているのに、随分と思い込みが凄いね」
ブレイブ「確かに僕達は一定以上の強さはあったけど、あくまでも、それは人としての基準だからね」
ブレイブ「魔王というものは、そもそも生命体として人間とは全く違うんだよ」
ブレイブ「人がいくら鍛えようとも、海に住まうクジラを素手で倒すことはできない・・・」
ブレイブ「そういうことさ」
真野 勇者「う、うーん・・・ ちょっとショックというか・・・」
真野 勇者「なんだろ・・・着ぐるみの中の人を見てしまった感覚に近いかも・・・」
ブレイブ「そ、それはよくわからないけど・・・」
ブレイブ「いずれにしても、それでも僕達は、魔王を倒さなければいけなかったんだ」
真野 勇者「勝てるはずないのに?」
ブレイブ「勝てるはずもないのに、さ」
ブレイブ「魔王ってのは突然変異の生物みたいなもので、魔力の塊のような存在だからね」
ブレイブ「そこに存在しているだけで、溢れ出た魔力は魔物や魔族に注がれ、より強力な存在となって人に害をなすだろう」
真野 勇者「だから、倒さなくちゃいけない・・・?」
ブレイブ「ああ。人が、生きるためにね」
ブレイブ「もちろん全く勝算がないわけじゃないから、別に無駄死にってわけじゃないんだ」
真野 勇者「うん? 絶対勝てないんじゃなかったっけ?」
ブレイブ「ははは、すまない。 説明不足だったね」
ブレイブ「魔王の力は強大さ。 例え僕達でも、打ち破ることは極めて困難だろう」
ブレイブ「────・・・正当法なら、ね」
真野 勇者「裏技みたいなものがあるんだ」
ブレイブ「裏技? そんなケチなものじゃないよ」
ブレイブ「この世界の人々が生きるために科学を発展させたように、ロストエクシアの人々も、生きるために発展させたものがあったのさ」
ブレイブ「それが、魔法だ」
真野 勇者「魔法なら、魔王を倒せるってこと?」
ブレイブ「少し違うな。 魔法が使えるのは魔王も同じであり、魔力量の差を考えれば魔法だけで勝つことは不可能に近い」
真野 勇者「えええ・・・じゃあ無理じゃん・・・」
ブレイブ「さっき言った通り、魔王というものは、そもそも僕達人とは生命の種別からして違う」
ブレイブ「じゃあどうすればいいのか・・・答えは、至ってシンプルなんだ」
ブレイブ「魔王を、僕達と同じ“舞台”に上げてあげればいい」
真野 勇者「ん? どういうこと?」
ブレイブ「平たく言えば、魔王を僕達と同じ生命に変えて倒すんだよ」
真野 勇者「え!? そんなことができるの!?」
ブレイブ「ああ、可能さ。 それこそが、ロストエクシアの人々が培って来た“生きるための術”というやつだね」
真野 勇者「ははーん・・・わかった」
真野 勇者「これはアレだ。 それが、この世界への転生ってわけだ」
ブレイブ「ご名答。 理解が早くて助かるよ」
ブレイブ「魔王を僕達と同じく人に転生させれば、僕達でも倒すことはできるようになるんだ」
ブレイブ「もちろんそれでも尋常じゃない魔力を持ってたりするし、必ず勝てるわけじゃないけど・・・」
ブレイブ「それでも、勝算は格段に跳ね上がるのさ」
真野 勇者「うーんでも、なんだかなぁ・・・」
ブレイブ「どうしたんだい?」
真野 勇者「いやさ、魔王がめちゃくちゃ強過ぎて、並大抵の方法じゃ倒せないからってのはわかったんだけど・・・」
真野 勇者「そんなヤバい奴を、こうして全く無関係な世界に転生させてるわけだろ?」
真野 勇者「確かにブレイブ達もまとめて転生してるから、何とかしてはくれるんだろうけど・・・」
真野 勇者「それって、俺達の世界からすればめちゃくちゃ迷惑な話だなぁって・・・」
ブレイブ「あー・・・うん。 それについては、ものすごく悪いことをしたと思ってるよ」
ブレイブ「自分本位な考えではあるけど、魔王ってのは、そこまでしないと倒せないんだ」
ブレイブ「例え他の世界に迷惑をかけても、自分達の世界を守る・・・」
ブレイブ「身勝手で、迷惑なのはわかってる。 許してくれとも言えないだろう」
ブレイブ「でも・・・だからこそ僕達も転生したということは、どうか理解して欲しい」
ブレイブ「魔王は、必ず僕達が倒す。 ロストエクシアも、この世界も、必ず僕達が守る」
ブレイブ「だからどうか、信じて欲しい」
真野 勇者「僕としては別にいいんだけどさ・・・」
真野 勇者「それより、気になることがあるんだけど」
ブレイブ「気になること? なんだい?」
真野 勇者「いや・・・ブレイブ達って、本当に勇者達の生まれ変わりなのかなぁって・・・」
ブレイブ「・・・・・・」
真野 勇者「・・・・・・」
ブレイブ「・・・・・・え゛?」
ブレイブ「それ、今更疑うのかい? ここまで話を聞いてて?」
真野 勇者「だ、だって俺がそれ聞く前に、ブレイブがどんどん話すから・・・」
ブレイブ「この姿で言葉を話すってのは証拠にはならないのかい?」
真野 勇者「いや、新手のドローンの可能性もワンチャンあるわけだし・・・」
ブレイブ「意外と疑い深いんだね、キミって・・・」
真野 勇者「話の内容的には、むしろかなり受け入れてる方だと思うけどな」
ブレイブ「まあ、確かにそうだけど・・・」
ブレイブ「仕方ない。 僕だって協力者は欲しいし、僕が勇者だっていう証拠を見せてあげるよ」
真野 勇者「何するの?」
ブレイブ「キミに、魔法を見せてあげよう」
真野 勇者「えええ!? ホントに!? 見たい見たい!」
ブレイブ「ふふっ、特別だよ?」
ブレイブ「危ないから、少年は動かないでくれ」
真野 勇者「う、うん・・・!」
ブレイブ「じゃあ──いくよ」
ブレイブ「むむむむ・・・!!」
真野 勇者(な、なんか凄い緊張感が・・・)
ブレイブ「電撃魔法《ライトニング》!!」
真野 勇者「ちょ、ちょっと待って・・・」
真野 勇者「なんか地面抉れてるだけど、これ大丈夫なの!? めちゃくちゃ大事なってるんだけど!」
ブレイブ「す、すまない・・・」
ブレイブ「す、少し・・・張り切り過ぎたようだ・・・」
ブレイブ「魔力制御が・・・できなくて・・・」
ブレイブ「・・・ああ、ダメだ。 すまない、少年・・・」
ブレイブ「あとは・・・頼・・・む・・・」
真野 勇者「ちょっ・・・ちょっとブレイブ? ブレイブ!?」
真野 勇者「ブレイブーー!!??」
遠くから聞こえるサイレンの音に、勇者は慌ててブレイブを回収し立ち去るのだった。