読切(脚本)
〇渋谷のスクランブル交差点
優衣「寒いな・・・早く帰ってご飯作らなきゃ」
優衣は小学3年生。母の翠と2人暮らしだ。
仕事で帰りが遅い母に代わり、夕飯を作ることが多かった。
家に向かう途中、優衣は今日の学校でのできごとを思い出していた。
〇教室
ヒロキ「えっ!?お前まだサンタなんか信じてるの!?」
優衣「えっ・・・!?」
ヒロキ「バカだな、あんなの大人がウソついてるだけに決まってるだろ!?」
優衣(やっぱり・・・そう・・・だよ・・・ね)
〇狭い裏通り
3年前のクリスマスの日、優衣の父は交通事故で死んでしまった。
サンタからのプレゼントはそれきり届かなくなった。
優衣「サンタなんて・・・やっぱりいない」
優衣がそうつぶやいた時、不意に後ろから声がした。
サンタ「俺になんか用か!?」
優衣「きゃっ!!」
びっくりして振り返ると、そこにはサンタ服を着た背の高い青年がいた。
サンタ「全くこの時期、いい迷惑だぜ。 みんなして人の名前を呼びやがって」
優衣「え? まさか、あなた・・・サンタさん・・・!?」
サンタ姿の青年はつまらなそうな顔をしながら答えた。
サンタ「確かに俺はサンタだ。 まあ、お前が思ってるサンタとは違うサンタだけどな」
優衣「それってどういうこと?」
サンタ「俺の名前はサンタ。クリスマスに生まれたからって、じいさんがつけたんだ」
サンタ「そもそもクリスマスに生まれたのはサンタじゃなくキリストなんだよ。それをじいさん、勘違いして」
優衣はしょんぼりしながら言った。
優衣「やっぱり、 サンタさんはいないんですよね・・・」
優衣の目から涙がこぼれた。
サンタ「なんで泣くんだよ」
優衣は、父が死んだこと、それからサンタのプレゼントがなくなったこと、ユウタからサンタなんていないと言われたことを話した。
話を聞き終わったサンタは、『割引券』と書いてあるチラシを取り出し、裏側に何かを書くと優衣に渡した。
サンタ「明日これ持って、あそこの角のケーキ屋に行ってみな。 いいことあるかもよ」
そう言うとサンタは去っていった。
〇ケーキ屋
次の日、優衣はサンタにもらったチラシを手に、ケーキ屋に行った。
優衣「あの・・・こんにちは」
ケーキ屋「いらっしゃいませ!!」
店の奥からサンタにそっくりな老人が出てきた。
優衣「あの・・・昨日これ、もらったんですけど・・・」
ケーキ屋「あー・・・サンタから聞いてるよ。 ちょっと待ってね」
そう言うとケーキ屋のおじいさんは店の奥に入っていった。
ケーキ屋「お待たせ」
サンタのおじいさんはクリスマスケーキを手にしていた。
優衣「わっ、すごい!!」
ケーキ屋「チョコレートのプレートに入れるから名前を教えてくれるかな?」
優衣「わ、わたしですか? 優衣です」
ケーキ屋「メリークリスマス ゆいちゃん・・・と・・・ん?このプレート・・・どこかで見たような」
ケーキ屋のおじいさんは、首を傾げながら、何かを思い出そうとしていた。
ケーキ屋「もしかして、3年前にお父さんを亡くしたって・・・」
優衣「はい・・・クリスマスの日に交通事故で」
ケーキ屋「そうか・・・それじゃあ、あのケーキは君へのプレゼントだったんだね」
おじいさんは何かを思い出したように言った
優衣「どういうことですか!?」
ケーキ屋「あの日、君の名前をプレートに入れたケーキの予約が入っていたんだが、その人はケーキを取りに来なかったんだ」
ケーキ屋「忘れたのかと思っていたけど、きっとそれで来られなかったんだね」
優衣「え・・・じゃあ、3年前にパパがケーキを予約してたのはこのお店だったんですか?」
父はケーキを取りに行く途中事故にあって亡くなったのだ。
ケーキ屋「そうか・・・これも何かの縁だね。 このケーキ、元々サンタからプレゼントするようにって言われてたんだけど」
優衣「え?サンタさんて、あのお兄さんが?」
ケーキ屋「良かった・・・ 3年越しで渡すことができて」
〇おしゃれなリビングダイニング
翠「ただいま・・・」
優衣「お母さん、おかえりなさい」
翠「このケーキどうしたの?」
優衣「サンタさんからのプレゼントだよ!!」
優衣はとびきりの笑顔でそう言ったのだった。
こんな風にサンタさんの正体が分かってしまうと、かわいそうですね…。今はそばにいないお父さんも含めて、大人たちの愛に包まれて素敵なクリスマスを迎えることができてよかったです。お友達の悪気のない発言などのリアルさとサンタさんみたいなケーキ屋さんなどのファンタジー感がうまく組み合わさっていて、地に足がついていながらも夢のような感覚を味わえる、特別な体験ができました。
サンタさんという青年にであったことで、お父さんがゆいちゃんに渡したかったクリスマスケーキを年月を超えて受け取ることができて、なんか不思議なシンクロニシティを感じられる優しいお話でした。
切なさと優しさが、じわじわと心に染み入る物語ですね。ちょっとした偶然の重なりが素敵な物語になっていて、とても気持ちいい読後感です。