心の闇(脚本)
〇渋谷駅前
数日後、休みだったため少し出かけていると湊さんと男性が言い合っている現場を見かけた。
立花 湊「ゆず君、いい加減にしてよ!」
立花 湊「何回同じことを繰り返したら気がすむの!」
須藤 ゆず「うっせぇな!湊には関係ねぇだろ!」
立花 湊「よそ様に迷惑かけてるのによくそんな態度出来るよね!」
立花 湊「また相手、妊娠したんでしょ!その責任はちゃんととりなさい!」
なんかえげつない会話を繰り広げている気がする・・・。
須藤 ゆず「お前と会話してても意味ねぇな。 もう帰る」
立花 湊「あ、待ちなさい!」
しばらく言い合っていたが、やがて男性の方が立ち去る。
立花 湊「まったく・・・本当に聞かないんだから・・・」
立花 湊「誰が立て替えていると思ってるのよ・・・」
高城 誠「あの、湊さん・・・」
立花 湊「あ、誠さん。こんにちは」
俺が話しかけると、湊さんはすぐに笑顔を浮かべた。
・・・多分、俺が心配しないように。
高城 誠「あのさ、さっきの、聞いちゃって・・・」
立花 湊「・・・・・・」
立花 湊「少し、カフェに行きましょうか」
俺の言葉に湊さんはそう答えて、一緒にカフェまで向かった。
〇レトロ喫茶
カフェに着くと、湊さんは二人分の飲み物とケーキを頼んだ。
今日は人も少なく、ゆっくり話が聞けそうだ。
高城 誠「えっと・・・さっきの人って・・・」
立花 湊「・・・いとこですよ。あっちの方が年上ですけど」
立花 湊「あんなところ見られて、本当に恥ずかしい・・・」
高城 誠「なんか、よくはなさそうだったよね・・・」
立花 湊「あいつ、働いてないんですよ・・・ゲーム実況者になるとか言って」
立花 湊「それで簡単に生計立てられたらみんな苦労しないっての」
高城 誠「それは・・・大変だね・・・」
立花 湊「そもそも、私が作家としても実況者としても成功したのなんて偶然ですからね」
立花 湊「本当にそれが分かっていないんだから・・・」
高城 誠「そうだね・・・まずは働きながらじゃないと生活できないもんね・・・」
実際、動画投稿者として成功する人なんてほんの一握り。
俺がそこそこ有名になっているのも本当に偶然が重なった結果に過ぎないのだ。
そしてそれは、作家だって同じ。
立花 湊「涼恵さんにも説得してもらっているんですけどね・・・聞かないみたい」
はぁ、とため息をつく湊さんはどこか諦めているようだった。
立花 湊「またよそ様に迷惑かけなければいいんだけど・・・」
その言葉が現実になるとは、この時思っていなかった。
〇おしゃれなリビングダイニング
それは、俺と湊さんが二人でコラボするために湊さんの家に来た時のことだった。
立花 湊「あ、ごめんなさい」
高城 誠「ううん、まだゲームしてないから大丈夫」
高城 誠「早く電話に出てあげなよ」
立花 湊「ありがとうございます」
立花 湊「・・・もしもし、お母さん?」
最初は穏やかに話していた湊さんだったけど、だんだん低い声になっていく。
立花 湊「はぁ?あの馬鹿まだ解決してなかったの?」
立花 湊「しかも社長令嬢?やばいってことに気付いてよ・・・」
高城 誠(あ、これ、また問題起こされてるやつ・・・)
立花 湊「あ、女の子は今いるの?うん、かわって」
立花 湊「ごめんなさいね、うちのいとこが」
〇おしゃれなリビングダイニング
コラボ中に申し訳ないと思いつつ、私はこちらの方に向き合う。
立花 湊「ごめんなさいね、本当に」
立花 湊「あいつには散々言い聞かせているのだけど聞かなくて・・・」
有里 奈々「あ、いえ・・・あなたが謝ることは・・・」
立花 湊「いえ、私の責任でもありますから」
それに、私は彼女に聞かないといけない。
立花 湊「・・・それで、妊娠しているんでしたよね?」
有里 奈々「は、はい・・・」
立花 湊「あなたはどうしたい?」
有里 奈々「え・・・?」
私の言っていることが分からなかったのか、戸惑った声が聞こえてくる。
立花 湊「子供、産みたい?」
立花 湊「それは私達じゃなくて、母親であるあなたが決めるべきだよ」
立花 湊「どうするにしても、私達が責任を取るのは当たり前だし」
私が言うと、彼女は長い間悩んでいた。
有里 奈々「・・・うみ、たいです・・・」
そして、そう言ってくれた。
立花 湊「ん、分かった」
立花 湊「だったら、いい病院を教えてあげる」
立花 湊「それから、私の名前を出したらこっちに請求書が来るからそうして」
その病院は、涼恵さんに教えてもらった場所だ。
桜色の髪の女医さんがかなり腕がよく、私もお世話になっている。
立花 湊「それから、しばらくはうちに住んでいいよ」
有里 奈々「え・・・?」
立花 湊「うちだったら広いし、私もいるから安心できるんじゃないかな?」
有里 奈々「い、いいんですか・・・?」
立花 湊「そりゃあ、うちのバカがまた私の名前を使ってあなたに近付いたんでしょ?」
有里 奈々「え、えっと・・・どういうことですか?」
立花 湊「ごめんなさいね、言っていなかったですね」
立花 湊「私、「かい」というペンネームで活動している作家なんです」
それを聞くと、彼女は驚いたようだ。
有里 奈々「え、本当に!? 本当にあの「かいさん」ですか!?」
立花 湊「そうだよ、あのかいさん」
有里 奈々「私、本当にファンなんです!」
立花 湊「ありがとう」
立花 湊「・・・とりあえず、明日迎えに行くから準備しててくれる?」
そろそろ本当に対策しないとなぁ・・・と思いながら、彼女の同意も得た後に電話を切った。
〇おしゃれなリビングダイニング
どうやら電話が終わったらしいと隣で見ていると、湊さんは謝ってくる。
立花 湊「すみません、待たせてしまって」
高城 誠「大丈夫だよ」
高城 誠「・・・また何かあったの?」
俺が尋ねると、「またいとこのことで・・・」とため息をついた。
立花 湊「まぁ、今はそんなこといいですよ」
立花 湊「早くゲームを始めちゃいましょう」
高城 誠「・・・・・・」
高城 誠「うん、そうだね」
無理に明るく振舞おうとしている湊さんにどう声をかけたらいいのか分からず、俺はそのままゲームを始めてしまった。