代替えクリスマス

ハルタ

読切(脚本)

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〇豪華なリビングダイニング
みやび「あれー?おかしい。買ったはずなのに」
  今日はクリスマス。
  友人と夫のために手作りディナーをと思い、前日から準備していたのに。
みやび「メニューは クリームシチュー 唐揚げ シーザーサラダ ショートケーキ」
  材料も完璧。プレゼントも完璧。勿論、部屋の飾り付け、ツリーもバッチリ、のはずが。
みやび「おかしい。材料が変」
  お母さんが使ってしまったに違いない。よくあることなのだ。
  「ちょっと借りるね。買い忘れたから、代替えでね。」母の口癖。
みやび「もう、時間がないから、買いに行くわけにもいかない。仕方ない。代替えメニューでやってみるか」

〇システムキッチン
  クリームシチューのルーはあるけど、具材がない。あるのはなぜが、おでんの具
みやび「はんぺん、ちくわぶ、こんにゃく、魚河岸、さつま揚げ、大根。豪華なおでんになるじゃないってクリスマスにおでんじゃなー」
みやび「唐揚げ用の鶏モモ肉もない。代わりにあるのは、豚カツ用の豚肉ねー。なんでなの?」
みやび「シーザーサラダ用のレタスの代わりにキャベツが鎮座してるし」
みやび「ショートケーキ用の小麦粉の代わりに強力粉。イチゴの代わりにバナナ」
  一体何の嫌がらせなのよ。
  と、怒っている暇もない。仕方ないので、全てのメニューを代替えで行くしかない
みやび「約束の時間まで、あまり余裕はないし、私の料理の腕もそんなにない・・・」
  とりあえずやるしかない。
  ネットのレシピを頼りになんとか出来上がった。
みやび「おでんの具材入りクリームシチュー 豚カツ コールスロー バナナケーキ 代替えクリスマスメニューの出来上がり」

〇豪華なリビングダイニング
  ふと部屋を見渡すとおかしなことに気づく。
  クリスマスツリーがない。
  準備したはずなのに。
  納戸を見ても見つからない。
  代わりにあったのが、笹飾り。
  なんで?
  仕方ないのでこれも代替えのまま。笹飾り。
  まさか、プレゼントまでおかしなことになっているんじゃないかな
  心配になってラッピングを外してみる。
  友人宛てにはビジネスバック。
  夫には腕時計。
  のはずが
みやび「ビジネスバッグはショッピングバック、腕時計は、ブレスレット。 どういうことなの」
みやび「いくらなんでもお母さんがすべてを取り替えるはずがない。 どういうこと?」
  とりあえず、プレゼントも代替えでやるしかない。
  きっと代替えでも喜んでくれるだろう。
  優しい人だもの。
みやび「とても優しい人。優しい私の大切な人。 きっと今日も時間ぴったりに帰ってくるはず」

〇豪華なリビングダイニング
  ガチャガチャ
  鍵を開ける音とドアを開ける音。タケルさんの声。
  「ただいま。」
みやび「お帰りなさい。タケルさん」
  彼はにっこり笑って迎えた私の顔を見てとても驚いた顔をした後、びっくりするぐらい泣き出した。
  笑いながら泣くという何とも言えない顔を見て、私は色々なことを思い出した。
  そうだった。
  3年前のクリスマス。
  私達夫婦と共通の友人である安信と安信の彼女とクリスマスディナーに行くはずだった。
  予約に遅れてしまった私達に、彼女から連絡が来たのだ。
  レストランで車の事故があり、安信が事故に巻き込まれてしまったと。
  その後、安信は帰らぬ人となってしまった。
  彼女の悲痛な声が忘れられない。
  「あの時、レストランに行かなければ良かった。私達も遅れて行けば良かったのに。」
  安信のお葬式でも皆が口を揃えて言っていた。
  「あの時、行かなければ良かったのに。」
  それは、私にとって責め苦のようだった。私があの日、レストランに二人を誘わなければ。
  自宅に招いて食事をする予定だったのを、急に変更したのだ。
  直接、私のせいだと言う人はいなかったけれど。言ってもらった方が良かったのかもしれない。
  そこから、私の奇妙な生活が始まってしまった。
  毎日、同じ買い物をし、クリスマスディナーの料理を作り、部屋の飾り付けをする。毎日がクリスマス。
  そして、帰ってきたタケルになぜ、約束していた安信は来ないのかと詰問するのだ。
  答えられないタケルさんを責め、その後、電池が切れたように、こんこんと眠る。そんな生活が3年続いていた。
タケル「ごめんな。俺、どうしても辛くて、毎日辛くて」
タケル「みやびの毎日準備する買い物とかツリーとかプレゼントとかもう、見たくなくて」
タケル「だから、本当のクリスマスの今日、全部色々入れ換えたんだ。何かが変わるかもしれないって思って」
  私の状態は、病院では、一時的な現実逃避から来るものと診断されたそうだ。治療方法は分からないと言われたそうだ。
タケル「病院でもどうやったら治せるか分からなくて。それでも、俺はみやびに戻って欲しかった」
  辛くて代替え品だらけにしてみたら、私は戻れたらしい。
みやび「ごめんね。ありがとう」
  代替えだらけのクリスマス。
  およそ、クリスマスとは縁遠いメニューの夕飯を一緒に食べよう。
  色々ごめんね。
  ごめんなさい。
  どうか、良いクリスマスを。
  メリークリスマス。

コメント

  • なんだか切ないですよね。
    何度もクリスマスの支度を繰り返して、それを見ている旦那さんも辛かっただろうと思います。
    やっと気づいてくれて本当によかったです。

  • 彼女が、自分が殺してしまったという意識の罪悪感でどれほど苦しんでいるのかが、てにとるように想像できました。確かに人がひとり、しかも大切なご友人が命を失ってしまいかえってこないとなると、辛いでしょう。でも進むしかない。トラウマがあっても毎年やってくるクリスマス。彼女を想い支えてくれる人がいてくれてよかったです。

  • 自分が一体どこにいるのか、何が本当で何が嘘で、何が望みで、、、発想が面白いストーリーだなと思いながら読ませて頂きました。

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