炭酸泉の女

佐和山進一郎

スーパー銭湯の炭酸泉で(脚本)

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〇露天風呂
姉ちゃん「露天風呂ってさ こういうヌルいお湯に ゆっくり浸かるのが好きー」
妹「分かるー」
姉ちゃん「ここ意外と空いてるね 出来たの去年とかでしょ?」
妹「平日夜だからじゃない? 落ち着いたら来てみたいって 前から思ってたんだけど 結局49日までバタバタでさー」
姉ちゃん「ごめんねー なんも出来ないで あんた大変だったでしょ?」
妹「仕方ないよ 姉ちゃん働いてるんだし 都内から来るの大変だし ウチはまだ学生だからさ」
妹「それに パパとママの方が よっぽどキツかっただろうし」
姉ちゃん「まーねー」
姉ちゃん「ばーちゃん やっぱ手術とかは無理だったわけ?」
妹「みたいよ 病院はとにかく 『安静にしていて下さい』 しか言わなかったし」
妹「ぶっちゃけパパ達もばーちゃん本人も 待ってたんじゃないかなー」
姉ちゃん「待ってた?」
妹「もうトイレは全部オムツでさ ベッド起こして食事するだけでも 息苦しくてハァハァしてたし」
妹「『早く楽になりたいー』 ってずっと言ってたんだよね」
姉ちゃん「わー、それもまたキツいねー」
妹「でもその分、パパ達は 色んな話してたみたいよ? 保険の話とか葬儀の話とか」
妹「ほら、遺影の写真だって ばーちゃんが自分で選んだらしいし」
姉ちゃん「最後10日くらい入院した時、 あんたが病院行ってたんでしょ?」
妹「コロナだから病室には入れなかった ほんとにもう最後の最後、 2日くらいは面会OKになったけど」
姉ちゃん「あー、そっかー」
妹「あんまもう意識とか無かったけど そう言えばばーちゃん 変なこと言ってたなー」
姉ちゃん「何?」
妹「『お爺ちゃんはねー  良い人だったのよー』って」
姉ちゃん「何それ? お爺ちゃんって パパがちっちゃい頃 死んじゃったんでしょ?」
姉ちゃん「確か自殺とか何とか・・・」
妹「そうそう だからウチも『はぁっ?』って思って 聞き返したんだけど もう意識モーロ―って感じで 会話になんなくてさー」
姉ちゃん「その話、パパかママにした?」
妹「言えないよー お爺ちゃんって本家の叔父さんとかにも めっちゃ評判悪かったじゃん」
姉ちゃん「ばーちゃん、 もうちょっとボケちゃってたか 最後あんただけに 本音を言い残したか・・・」
妹「ねー、どっちだろうねー もう誰にも分かんないけどさー」
姉ちゃん「ばーちゃんにも女の部分って言うか そういうの残ってたのかもねー」
妹「姉ちゃん この話内緒にしといてよ?」
姉ちゃん「分かったー ま、家族以外に話すネタじゃないしねー」
妹「そろそろ上がろっか? サウナちょっと行ってみない?」
姉ちゃん「あ、奥に塩サウナってあったでしょ? あたしあっちに行ってみたいなー」

コメント

  • 家族が亡くなった直後の嵐のような日々が過ぎて、少し落ち着いたぐらいの時期に姉妹で故人のあれこれをポツポツと語らう場所としてスーパー銭湯を選んだ作者さんのセンスに感心しました。世の中のあちこちでこのような会話が繰り広げられているかと思うと、なんだかしみじみするような切ないような。

  • この空気感、身内の葬儀に関わったいろんな思い出が一気に蘇るようでした。こんなトーンで、こんな会話内容になりますよね。銭湯の湯舟での会話トーンともピッタリで、リアリティを強く感じました!

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