第1話:ヘタレ貴族大地に立つ(脚本)
〇岩山
バルタッシュ「俺はバルタッシュ・ユングヴァール4世」
バルタッシュ「この世界は俺のものだ」
バルタッシュ「全ては俺のものだ!!!」
〇荒れた小屋
酒場──
アレグ「いよいよだなバルタッシュ」
アレグ「巷を騒がせるドラゴンを倒し、お前の名を世界に轟かせるぞ!!」
バルタッシュ「当然だ」
バルタッシュ「悪逆非道なドラゴン共に相応しい地は、このグランディールの何処にも存在しない」
アレグ「フッ、頼もしいな・・・ さすがは勇者の子孫ってか!?」
サバド「へっ、あたぼうよ!!」
サバド「なんたってコイツは伝説の剣に選ばれし未来の英雄様なんだぜ?」
バルタッシュ「・・・(キリッ)」
サバド「かつて最強の魔王デスデヴォルドすら仕留めた伝説の剣──」
サバド「ドラゴンごとき敵じゃねーよ!!」
アレグ「ああ、いっちょ派手にやってやろうぜ!!」
バルタッシュ「(うなずく)」
〇岩山
ドラゴン山頂──
アレグ「やっぱり勝てるわけがねぇ!!!!」
バルタッシュ「いや・・・倒す!!」
バルタッシュ「いきなり火を吹いて来るぞぉ!! 避けろぉ──!!!!」
アレグ「しまっ、脚がもつれて──」
アレグ「ぐわああああああああーーーーっっっ!!!!!!!」
バルタッシュ「アレグ~~~!!!!」
バルタッシュ「そんな・・・一撃で炭に」
サバド「アレグは小物だが悪いやつではなかった・・・」
サバド「許せねぇ!!レッドドラゴン!!!!」
バルタッシュ「同時にやるぞサバド!!!!」
サバド「おぉ!!!!アレグのカタk・・・」
サバド「しまっ・・・脚がもつれ──」
サバド「がはっ───」
バルタッシュ「サバド~~!!!!」
バルタッシュ「バカな、これが現実だと言うのか・・・」
バルタッシュ「・・・許せん!!」
レッドドラゴン(こ、これはまさか伝説の剣!? なぜコイツが・・・)
バルタッシュ「我が祖父より受け継ぎし勇者の力を思い知れ!!!」
レッドドラゴン「勇者の末裔だと・・・? 貴様まさか次代の勇者か?」
バルタッシュ「いかにも我こそが未来の勇者バルタッシュ・ユングヴァール4世。いずれ世界をこの手にいただく者──」
レッドドラゴン「そうか、なら死ね」
バルタッシュ「あっ、脚がもつれ──」
バルタッシュ(ここまでか──)
???「どきなさい!!!」
その時バルタッシュの眼前に巨大な光の壁が出現し、間一髪炎を防ぐ
バルタッシュ(この魔法は──!!)
レッドドラゴン(拘束魔法だと!?)
ティナ「油断したわね!そっちのヘタレは囮よ!!」
バルタッシュ「ティナ・・・!?」
バルタッシュ「なぜここへ来た!!」
ティナ「アンタが死に急ぐからでしょ!?!?!!」
ティナ「(ゴホン)まぁ今回だけは助けてやるわ!」
ティナ「はぁぁーーーっ!!!!」
レッドドラゴン(クソ忌々しい・・・!!)
レッドドラゴン((しかしそうか・・・やはりグランディールにあったか──))
レッドドラゴン((伝説の剣・・・遂に見つけたぞ))
レッドドラゴン(まずは何はともあれ、あの方に連絡だ・・・)
レッドドラゴン「小僧・・・覚えておけ──」
レッドドラゴン「貴様がその剣を持ち続けるならば、必ず再び我と会う日が来るだろう──」
ティナ「チッ、逃がしたか・・・」
バルタッシュ「あいつ・・・」
〇岩山
バルタッシュ「くっ・・・アレグ・・・サバド・・・ すまん・・・」
ティナ「えっ、なに?あの2人死んだの?」
バルタッシュ「・・・」
ティナ「うわー ひくわー・・・」
ティナ「しかもその上婚約者の女の子に助け出してもらうとか・・・」
ティナ「ダサすぎると思いません・・・?」
バルタッシュ「・・・」
ティナ「勇者本人でもないくせに伝説の剣なんか持ち歩いちゃって」
バルタッシュ「ティナ黙れ。俺は今名も無き炭と化した二人の戦友に黙祷を捧げているんだ」
ティナ「・・・自己満野郎」
バルタッシュ「・・・なんだと!!!!」
???「おい~あんま喧嘩すんなよ!」
ベネッサ「ハッ!イケメン参上!」
バルタッシュ「ベネッサ君・・・」
バルタッシュ「君まで、何故ここに・・・」
ティナ「私の護衛」
ベネッサ「ってこと!」
ベネッサ「間違っても君の泣き面を拝みに来た訳じゃないから安心したまえ、HAHA!!」
バルタッシュ「・・・」
〇けもの道
山を下り、深い森を進む一行。
ようやく街が見えた頃には日は暮れていた─
バルタッシュ(ハァ・・・ 俺、何しに来たんだろう・・・)
ベネッサ「ドラゴンはアベルヘンの方角へ飛んでいったんだろ?」
ティナ「えぇ、私が見た限りでは大体そんな感じ。」
ティナ「あそこはベルモおじさんの家族も住んでいるし、少し心配だわね・・・」
ティナ「念の為に魔鳥を飛ばして伝達しときましょ。 気付いてくれたらいいんだけど・・・」
ティナ「これでよし──」
バルタッシュ(ニワトリって飛べるんやな)
ベネッサ「いやぁティナの魔法はいつ見ても凄いな!」
ティナ「ばか・・・褒めても報酬は弾まないわよ」
〇ヨーロッパの街並み
首都ハーディル
バルタッシュ達の暮らす街
ティナ「完全に夜になっちゃったわね」
バルタッシュ「この頃は日の入りが早いからな」
ベネッサ「さっさと状況報告を済ませて帰るか」
ティナ「取り敢えずシャワー浴びたいわ」
バルタッシュ「あ、需要ないんで」
ティナ「なんか言った?」
バルタッシュ「撃ってから聞くなし」
ベネッサ(あるよォ~!!需要あるよォ~!!)
〇荒れた小屋
酒場マスター「ユングヴィール様!! 結果はどうでしたか!?」
バルタッシュ「アカンかった」
バルタッシュ「アレグとサバドは埋めてきた」
酒場マスター「なんと・・・哀れな・・・」
ティナ「バルタッシュに殺されたようなものね」
ベネッサ「あまり言ってやるな(小声)」
バルタッシュ「だが追い払うことには成功しました!!!!」
バルタッシュ「きゃつは今頃エンバ山脈を超え、アベルヘンへと向かっている頃だろう!!」
バルタッシュ「我がハーディルの近衛隊とアベルヘンの駐屯部隊で連携し挟撃すれば──」
バルタッシュ「確実にドラゴンのやつに自らの血のワインを飲ませてやれるでしょう──!!!!」
ベネッサ(・・・(血のワインって表現は微妙だな))
ティナ(ワイン飲みたくなってきちゃった・・・)
バルタッシュ「仕留めるには今しかない!!!!!」
酒場マスター「うむ分かった。だが王へは自分で伝えに行きなさい」
バルタッシュ「えっ」
ティナ「草」
ベネッサ(怒るだろうな王様)
バルタッシュ「・・・」
〇城門の下
バルタッシュ「俺殺されるんちゃう?」
ベネッサ「かもな・・・」
ベネッサ「お前がドラゴンを刺激しなければここまで大事に至らなかった訳だし・・・」
ティナ「ご愁傷さま」
バルタッシュ「・・・」
バルタッシュ「だがやつは我らグランディール王国の土地を蹂躙した上、人々にも危害を加えているんだぞ」
ベネッサ「だからって俺達じゃどうしようもないだろ・・・」
バルタッシュ「・・・くそっ!」
バルタッシュ((腰抜けどもめ・・・!))
バルタッシュ(俺が世界を手中に収めた暁には貴様ら纏めて灰燼に帰してやる・・・)
〇謁見の間
謁見の間──
バルタッシュ「よかった・・・誰もいないな」
ベネッサ「深夜かつ不法侵入だからな」
ベネッサ「全然よかないだろ」
バルタッシュ「ところでティナは?」
ベネッサ「なんかお城のワインに用があるって言って食堂に行ったよ」
バルタッシュ「ちっ、いいご身分だな」
ベネッサ「お前が言う?」
バルタッシュ「お前アイツの護衛だろ、ついて行かなくていいのかよ?」
ベネッサ「お前以外の何から守るんだよ 俺はいまお前を監視することで間接的に彼女を守ってるんだよ」
バルタッシュ「理不尽かつ不条理・・・」
〇貴族の部屋
王の寝室──
王「夜中に寝室まで報告に来るやついる・・・?」
ベネッサ「不敬なのはこいつです。俺じゃありません」
バルタッシュ「ティナと俺でドラゴンを追い払いました。 傭兵二人が犠牲になりましたが、その件で俺を断罪するのは早計です──」
バルタッシュ「あらゆる過程における過失は必要な損害である事を自覚しております。どうかご容赦を。」
王「クズやん・・・」
王「まぁいいわ・・・とりあえず隣国のアベルヘンに報告すれば良いのだな・・・ やれやれ、面倒事が増えたわ・・・」
バルタッシュ「お言葉ですが、早急に対応すべきかと思います」
バルタッシュ「ヤツを野放しにすれば、今度はアベルヘンで死体の山ができあがることでしょう」
バルタッシュ「そうなれば全ての責任は役目を怠ったハーディル国王と近衛隊のものとなり、」
バルタッシュ「ゆくゆくは外交問題にも影響してくるでしょう」
バルタッシュ「ここが瀬戸際です くれぐれも抜かりなきよう」
ベネッサ「お前すげぇよ」
王「ワシより偉そう・・・」
〇ヨーロッパの街並み
翌日─
バルタッシュ「おはよう!! いやぁ~よく眠れたな!!」
ティナ「サイコパスみたいな笑顔で挨拶してくるのやめてくれない?」
バルタッシュ「ははっ、俺だってあのあと王様に殺される所だったんだぞ?」
バルタッシュ「それなのに1人でワインをくすねて帰っていたなんて!! 心が汚い女だなティナは!まったく!」
ティナ「アンタは笑顔が汚いからドブで顔洗って来なさいよ」
アレック「なんだなんだ?朝から痴話喧嘩か?」
ティナ「近衛隊のアレック隊長!?」
アレック「結婚前からもうその気とは、随分進んでいるんだな!最近の若い娘は!」
ティナ「隊長はひでぇ誤解をされています・・・」
バルタッシュ「なぜ近衛隊長が城下町へ?」
アレック「アベルヘンへの遠征任務が降りたからだよ」
アレック「ドラゴンを追撃する精鋭部隊を指揮することになった」
アレック「加えて今回の遠征に、君とティナ君も連れていって欲しいとのことだ」
バルタッシュ「えっ?」
ティナ「は?」
アレック「君らドラゴンを刺激して逃がした責任を問われているんだろう?」
ティナ「それは・・・こっちのバカが死に急ぐから・・・」
ティナ「ソイツが仲間連れて山に登って音信不通になったから私は追い掛けたんですってば!!」
バルタッシュ「俺は見ました!ティナがドラゴンの拘束に失敗し見事に逃がすところを──!!」
ティナ「おい!!!!死にたいらしいな!!!!!!」
バルタッシュ「俺は無実だ!!冤罪だ!!」
アレック「共犯だなそれじゃ!」
アレック「どっちもクズって事でいいだろ!」
「よくねぇ!!!」
ベネッサ「朝から元気そうだなお前ら」
ティナ「お気楽なアンタが羨ましいわよ」
ベネッサ「誰がお気楽だよ・・・ 徹夜で状況報告して、今帰りなんだぜ・・・」
バルタッシュ「いいご身分だぜ・・・」
ベネッサ(何を言われる筋合いがあったんだ・・・?)
アレック「ベネッサ君、私が2人を連れてアベルヘンから戻るまで、娘の相手を頼んで貰えるかな?」
ベネッサ「ミリーちゃんのですか? まぁ別に良いですけど、相手が近衛隊長でも金はちゃんと取りますよ」
アレック「ああ勿論。近衛隊にツケといてくれ」
アレック「そっちの2人と違って君のことは普通に信頼しているからね」
(どういう意味だろう・・・?)
ベネッサ「まぁいいですよ。 もと野盗の俺が、一番信用されてるってなかなかアレな気もしますが・・・」
アレック「頼んだよ。娘も君のことを気に入っているみたいなんだ」
ベネッサ「了解です!!しっかり口説いときます!!」
かくしてバルタッシュ達のドラゴン討伐失敗の尻拭いの旅が始まったのであった─
真面目な勇者の物語かと思っていたらバルタッシュのポンコツぶりとティナの毒舌ツッコミを楽しむストーリーだったのか。最初に死んでしまった二人以外の全員が主役をポンコツだと思っている物語もなかなか・・・。敵のもとにたどり着くまでも珍道中になりそうですね。