双子のオニ専門解決屋

にーな

鬼灯(脚本)

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〇おしゃれな居間
桔梗「ちょっとお願いがあるんだけどいいかい?」
「?」
「?」
桔梗「最近鬼丸の様子がおかしくてね。何時もの様に話し掛けても忙しいって片付けられるし、触ろうとすると逃げるんだよ」
「其れって何時から」
桔梗「あの黄昏の件から」
文也「ううん・・・やっぱり、あの黄昏の事件の時に何かあったとしか」
詩織「鬼丸お兄は誰の声を聞いたのかな?」
桔梗「・・・分からないんだ。鬼丸と出会ったのは、此処だし・・・過去の事はあまり話してくれないんだよ」
  何処か寂しそうに言う桔梗。
咲良「・・・結音兄さんなら知ってるかも」
輝久「此処には結音兄さんが連れて来たから」

〇アパートの中庭
結音「こんな所かな」
菖蒲「ありがとうございます」
結音「どういたしまして」
結音「・・・ん?」
結音「鬼丸君?」
鬼灯「あ・・・すみません。ちょっと・・・」
結音「・・・お茶会でもしようか」

〇アパートの中庭
結音「・・・彼女の事を思い出してしまったんだな」
鬼灯「・・・はい」

〇温泉街
  鬼灯・・・まだ、鬼丸とも呼ばれていなかった頃。
  言葉鬼として生まれた彼は、都の隅に佇んでいた。
「──♪──♪♪」
言葉鬼「?」
盲目の女性「──♪─♪」
言葉鬼「・・・・・・・・・・・・」
盲目の女性「♪・・・・・・あら、どなたかしら」
言葉鬼「ぁ・・・俺、は・・・」
盲目の女性「不思議な声の方ね」
  目を閉じた状態で話し掛けて来る女性。
言葉鬼「・・・こんな時間に女が一人で居るもんじゃない」
盲目の女性「今は貴方が居るから一人ではないわよ?」
言葉鬼「俺はオニだぞ」
盲目の女性「でも、襲って来ないって事は危ないオニではないのでしょう?」
言葉鬼「・・・煩い」
  其れから二人は毎日この場所で会う。
  女性が歌い、耳を傾ける彼。
言葉鬼「・・・其れは何の歌だ」
盲目の女性「此れは祝福の歌なの。私から貴方への贈り物よ」
言葉鬼「そうか」
盲目の女性「そういえば、貴方のお名前は?」
言葉鬼「言葉鬼」
盲目の女性「其れはオニとしての名前でしょう?貴方個人のな、ま、え」
言葉鬼「名前は・・・・・・無い」
盲目の女性「そうなの?」
言葉鬼「お前の名前は?」
盲目の女性「うーん・・・まだ内緒」
  女性は綺麗な笑顔でそう答えた。
盲目の女性「─♪──♪♪」
  彼女は毎日やって来て歌う。

〇温泉街
  彼女は毎日やって来て歌う。
  例え雨の日でも、彼が差す傘の中で雨の歌を。

〇温泉街
  雪の日でも、彼が生み出したマフラーを巻いて雪の歌を。

〇温泉街
  日差しの強い日は日傘を差しながら、眩い歌を。
  彼女を支えながら、彼はその歌を静かに聞いていた。

〇温泉街
盲目の女性「──♪」
言葉鬼「・・・・・・─♪」
盲目の女性「!♪──♪」
「─♪♪」
  軈て、彼も彼女の歌を覚え、二人は都の片隅で静かに歌う。
  パチパチ
「!」
  歌い終わった頃、静かな拍手が響いた。
  其れに、彼は彼女を庇う。
師走「・・・とてもいい歌だったよ」
師走「どうやら目が見えていない様だな。──の代償か」
鬼灯「・・・・・・?」
師走「・・・君は言葉鬼かな。名前は?」
鬼灯「・・・・・・・・・・・・」
師走「個人名はないのかな。となると鬼丸君といった所かな」
鬼灯「鬼丸?」
師走「鬼系統の全般的な呼び方さ」
盲目の女性「あの、貴方は?」
師走「ああ、失礼。俺は暦で師走という役名を持つ者だ」
「!」
  その言葉を聞いた彼女が彼─鬼丸を後ろから抱き締めた。
盲目の女性「彼は悪いオニではありません!」
鬼灯「お前・・・」
師走「どうやらそうらしい。言葉鬼は二種類に分かれるが・・・その鬼丸君は悪さをしない方らしい」
盲目の女性「良かった・・・」
師走「・・・此れはちょっとした忠告」
鬼灯「何?」
師走「この辺りで歌を奏でるのは止めた方が良い。質の悪い者に目を付けられたくなければ」
鬼灯「・・・・・・・・・・・・」
盲目の女性「・・・・・・・・・・・・」

〇温泉街
  そんな忠告を受けても、彼女は未だに此処に来て歌う。
「──♪」
  二人で歌うのも変わらず。
言葉鬼「もう、此処には来ない方が良いんじゃねぇか?」
盲目の女性「いいの。私は此処で毎日歌うの」
  そんな中、何度も彼は彼女を止めようとした。
言葉鬼「俺はお前が違う場所に行くなら・・・」
盲目の女性「・・・ごめんね」
  何処か悲しそうに微笑む彼女。
  其れからも彼女はやって来ては彼と歌う。
  目が見えないから、此処に来るまでも大変だろうに。
盲目の女性「・・・・・・ねぇ、明日も来てくれる?」
言葉鬼「・・・ああ。お前が来るなら」
盲目の女性「約束よ」
  その笑顔はあの名前を隠された時と同じだった。

〇温泉街
  翌日。
「──♪」
  今までと同じ様に歌う。
盲目の女性「・・・ごめんね。巻き込んで」
言葉鬼「え?」
音鬼「随分いい音だァ。欲しいなァ」
言葉鬼「ま、さか・・・音鬼!?」
言葉鬼「“言の葉よ。刃となりて彼の者の剣となせ”!」
音鬼「へェ、言葉鬼。でもォ」
言葉鬼「“刀”!」
音鬼「“──♪”」
  彼の言葉で作られた刀は、音鬼の口から放たれたヴァイオリンの音に消された。
盲目の女性「今の音・・・!」
音鬼「こっちの方が強そうだねェ」
言葉鬼「逃げろ!!」
音鬼「“──♪”」
言葉鬼「ぐっ・・・」
  彼女を庇おうとし、音鬼に吹っ飛ばされる彼。
言葉鬼「は、やく・・・逃げろ・・・」
盲目の女性「貴方が・・・彼の命を奪ったのね」
言葉鬼「お、い・・・?」
音鬼「何だァ、お前・・・」
盲目の女性「私の歌、綺麗だった?なら・・・この声、あげるわ」
音鬼「いい心掛けだァ」
言葉鬼「止めろっ!!」
  彼が手を伸ばすも、彼女の首に音鬼が喰いつく方が早かった。
盲目の女性「・・・ごめんね」
言葉鬼「・・・・・・ッ!?」
音鬼「ぐ・・・ぁああ!!」
  突然音鬼が苦しみ出す。
  そのまま倒れる音鬼。
言葉鬼「なに、が・・・」
師走「彼女の仕業だ」
言葉鬼「!?」
師走「自分の視力と引き換えに、己自身を呪具にした。その音鬼を殺す為に」
言葉鬼「そんな事をしたら・・・!」
師走「ああ。どのみち彼女はもう長くなかった」
  彼が彼女を抱き上げる。
盲目の女性「巻き込んで・・・ごめんね・・・どうしても・・・彼を殺した・・・あのオニを私が・・・」
  震える手が彼の頬に触れた。
盲目の女性「貴方は・・・見えなくなった・・・私の光になって、くれた・・・もっと一緒に居たい、と」
言葉鬼「・・・・・・ッ」
師走「光、か・・・オニの光・・・灯り・・・鬼灯」
言葉鬼「お前が、そう思ってくれたなら・・・俺の名は、鬼灯だ」
盲目の女性「私は、道言桔梗」
  あの笑顔で告げられた名。
  そのまま彼女から力が抜ける。
師走「・・・もし、少しでも悔やむ気持ちと慈しみたい気持ちがあるなら、ついて来い」
鬼灯「・・・・・・・・・・・・」
  その言葉に、彼─鬼灯は立ち上がった。

〇大きな日本家屋
師走「この屋敷に住む双子は、何処にも居場所が無い者達だ」
鬼灯「・・・居場所が・・・」
師走「俺もずっとは此処に居られない」
師走「だから、護れなかったと悔やみ、人を慈しみたいと思うなら、此処の双子を護り、慈しんでやれ」
  そうして、鬼灯はこの猫柳にやって来た。

〇アパートの中庭
結音「・・・で、何を迷ってる?」
鬼灯「・・・俺は彼女を護れなかった。なのに、同じ名前の彼奴と・・・」
結音「添い遂げてやれ。其れが君と彼女、そして彼の為だ」
鬼灯「!」
  鬼灯に後ろから抱き付く桔梗。
桔梗「・・・手放すつもりはないから」
鬼灯「桔梗・・・」
結音「後悔しない奴なんて居ない。失ったものは戻ってこない」
結音「だが、報いる事くらいは出来る」
鬼灯「・・・・・・はい」

〇温泉街
  今でも、彼の中にあの歌が流れる。

〇アパートの中庭
  今度は、彼が其れを・・・・・・・・
  終

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