桔梗(脚本)
〇大きな日本家屋
文也「はーい」
雨井雫枝「あ、こんにちは」
文也「あ、先生」
文也「ご依頼ですか?」
雨井雫枝「えっと、はい。すみません、また」
文也「いえいえ」
〇おしゃれな居間
「猫柳へようこそ」
詩織「あ、先生」
鬼灯「ん?また来たのか」
雨井雫枝「あはは、すみません」
桔梗「・・・・・・・・・・・・」
結音「妖狐君、敵意出さないの」
「で、今回の依頼は?」
雨井雫枝「えっと、今回は幽霊屋敷の調査をお願いしたくて・・・」
「幽霊屋敷?」
雨井雫枝「ええ。何年も前に潰れたお屋敷なのですけど、其処にお化けが住み着いてると噂になっていまして・・・」
雨井雫枝「その、男の子達が行こうとしてるって」
詩織「男の子って、時々馬鹿みたいだね」
結音「おっと、バッサリだ」
詩織「どうして、お兄ちゃん達みたいに・・・大人になれないんだろ」
結音「子供だからね・・・シオちゃん」
詩織「?」
結音「そう言った話は聞いた事ある?」
詩織「ううん・・・あ、でも・・・」
菖蒲「そう言えば、一部の子達が言っていました。其処に居るお稲荷様に隠れん坊で勝てたらお願いが聞ける、と」
桔梗「・・・・・・!」
桔梗「まさか・・・・・・」
鬼灯「大丈夫か?」
声を震わせる桔梗に、鬼灯は心配そうに声を掛けた。
桔梗「・・・うん、大丈夫」
雨井雫枝「あの、其れで子供達が行ってしまう前に、調査をお願いします」
「依頼とあれば」
〇裏通りの階段
咲良「お稲荷・・・一般的に妖狐に分類されるオニ」
結音「とは言え、役割は異なる」
咲良「お稲荷様はあくまで神に仕えるオニ。でも、妖狐の多くは敵意を持つ者ばかり」
結音「もし、其処に居るのがお稲荷様なら、神が信仰を得る為に己の配下に試練を命じてる」
咲良「妖狐なら、食べる為の手段にしている」
鬼灯「妖狐、キツいなら休んでた方が良いんじゃねぇか?」
桔梗「・・・本当に大丈夫だよ」
「・・・・・・・・・」
結音「文君」
文也「はい」
結音「妖狐君の事、君とシオちゃんで見てて貰って良いかな」
文也「其れは構いませんが・・・その、何かあるですか?」
結音「未だ確定では無いんだけどね・・・・・・俺が考えてる場所なら、彼と出会った場所だ」
文也「!」
〇古民家の居間
数年前。
竜胆「ねぇねぇ、桔梗」
桔梗「何?竜胆」
竜胆「遊ぼー!」
桔梗「いいよ」
其処には、未だ幼い狐のオニがとある屋敷に住み着いていた。
常に二人で過ごす狐。
旦那「仲間に入れておくれ。桔梗、竜胆」
「あ、旦那様」
そんな二人を抱き上げる一人の男。
彼が屋敷の主人であり、所謂お稲荷様と呼ばれるオニである。
彼は路地で暮らしていた狐達を迎え入れ、育てていた。
竜胆「いいよ!何する?」
桔梗「旦那様の好きな遊びでいいよ」
旦那「じゃあ、隠れん坊にしようか」
「うん」
何故拾われたかは分からない。
其れでも狐達はお稲荷様を慕い、お稲荷様は狐達を愛でる。そんな日々を過ごしていた。
〇実家の居間
旦那「・・・・・・・・・・・・」
師走「君、もしかしてお稲荷様か?」
旦那「!」
狐達が寝静まった頃。
その狐達を見詰めるお稲荷様に声を掛けたのは・・・塀の上に腰掛ける師走。
旦那「どちら様かな」
師走「師走・・・と言えばお分かりか?」
旦那「!」
師走「本来お稲荷様は神に仕えるオニ。君の主は何処だ?」
旦那「ギャゥウ・・・」
スゥ・・・と目を細めて師走は問い掛ける。
其れにお稲荷様も威嚇する様な声を出した。
桔梗「旦那様?」
旦那「・・・ああ、桔梗。起きてしまったか」
すると、狐の片方が起きて来る。
其れに威嚇を止め、お稲荷様は彼の頭を撫でた。
旦那「さ、もうお休み」
桔梗「うん」
視線を塀に戻すと、既に師走の姿は無い。
狐を寝かし付けたお稲荷様は一人、部屋へと戻る。
旦那「暦にバレた・・・急がなければ。我が主の為に」
〇裏通りの階段
師走「あのお稲荷様・・・はぐれか?其れにしては・・・・・・」
〇古民家の居間
「旦那様」
旦那「ああ、お前達・・・今日は少し忙しくてね。二人で遊んでくれるかい?」
「うん」
その日、狐達は二人で遊んでいた。
桔梗「何するの?」
竜胆「隠れん坊しよう。旦那様と最近よくやるし」
桔梗「そうだね」
竜胆「鬼やるよ」
桔梗「お願いね、竜胆」
片方が駆け出し、片方が目を塞いで数を数える。
竜胆「もういーかい」
〇黒
桔梗「もういいよー」
狐は箱の中に隠れていた。
小さな暗闇の中に居る狐。
桔梗「!」
其処に小さな光が入り込む。
もう見付かったのだと思った狐が笑顔で顔を上げた時・・・
桔梗「え」
〇実家の居間
竜胆「あれー?居ないな」
ガンッ
竜胆「!」
〇古民家の蔵
竜胆「・・・桔きょ」
師走「何のつもりだ。あの狐をどうするつもりだ」
師走「俺が入れる時点で、此処の結界は既に脆くなっている」
師走「・・・其れは、お前が道を外しているという事だ。幾らお稲荷様とは言えど、祓いの対象となる」
旦那「・・・邪魔はさせない。我が主の為に」
竜胆「旦那様?」
狐の声にお稲荷様が振り返る。
一瞬迷う様な表情をし・・・・・・無表情へ。
旦那「桔梗は既に取り込まれたか」
竜胆「旦那、様」
師走「っ」
直後、狐は師走に抱えられていた。
お稲荷様の尾が襲い掛かろうとしていたのだ。
師走「チッ、道を外したか」
一つだった尾が九つに別けられる。
師走「此処で祓う。其れが師走である俺の役目だ」
竜胆「師走・・・?旦那様をどうするんだ?」
師走「彼奴は道を外した。死んだ主を復活させる為に、幼い命を差し出した」
竜胆「幼い、命・・・・・・」
師走「其れこそ人やオニ関係無く、な」
竜胆「でも、旦那様は僕達を・・・」
〇実家の居間
お稲荷様から離れると、師走は狐を下ろした。
師走「早く片割れを見付けてやれ」
竜胆「う、うん」
竜胆「桔梗!桔梗、何処なの!」
〇畳敷きの大広間
竜胆「いない・・・」
竜胆「・・・ぁ、ひっく、ひっく、うわぁああん」
師走「見付けた」
師走「・・・この子だけでも」
〇古風な和室
「・・・・・・・・・・・・」
竜胆「うわっ」
「師走兄さん、起きた」
師走「ああ、今行く」
竜胆「此処、は?」
師走「俺の実家。最近あの双子を引き取ってな」
竜胆「僕、は・・・」
師走「・・・お前の主人は俺が倒した。恨むなら恨め」
その言葉を聞き・・・狐は首を横に振る。
竜胆「旦那様が・・・僕達を時々怖い目で・・・見てたから」
師走「気付いてたのか」
竜胆「うん・・・もっと早く言ってれば・・・」
師走「・・・君は未だ唯の狐。妖狐となるかお稲荷様になるか」
師走「其れが決まるまで、此処に居るといい」
そう告げ、師走は双子を連れて部屋を出ようとした。
師走「そう言えば、君の名前は?」
竜胆「・・・・・・・・・・・・・・・・・・桔梗」
其れから狐は桔梗と名乗り、後に妖狐となる事を選ぶ。
そして、桔梗が名を変えた事を知っている師走は、彼を妖狐と呼ぶ様に。
〇屋敷の門
鬼灯「妖狐?」
桔梗「!」
鬼灯「本当に大丈夫か?」
桔梗「大丈夫だって。もう、鬼丸は優しいなぁ」
鬼灯「お前に何かあったら困るからな。多分後追いする」
桔梗「鬼丸・・・」
結音「イチャついてるとこ悪いが、着いたぞ」
結音が苦笑しながら目の前の屋敷を指差した。
桔梗(間違いない・・・此処は、昔僕が住んでいた屋敷だ)
〇古民家の居間
???「『もういいよー』」
「!」
???「『もういいよー』」
桔梗「き・・・・・・きょ・・・・・・う」
鬼灯「!妖狐!桔梗!待て!」
文也「わっ、妖狐さん!鬼丸さん!」
結音「・・・・・・やっと、解放出来るな」
〇実家の居間
???「『もういいよー』」
桔梗「何処・・・何処に居るの・・・」
影「『・・・・・・此方だよ』」
桔梗「!」
桔梗「桔梗、なの」
影「『竜胆』」
鬼灯「桔梗!」
桔梗「!」
その時、桔梗が鬼灯に抱き寄せられる。
鬼灯は桔梗を自分の後ろに庇った。
影「『・・・大切な人が出来たんだね』」
桔梗「・・・・・・うん」
影「『旦那様の主が奥に居るよ。あの時食べれなかった竜胆・・・・・・桔梗を欲しがってる』」
「!」
影「『気を付けて・・・僕を見付けてくれて有り難う』」
桔梗「あ」
鬼灯「桔梗・・・・・・」
桔梗「有り難う、名を呼んでくれて」
「妖狐」
文也「大丈夫ですか!?」
桔梗「皆もごめんね」
桔梗「狐の旦那様の主が奥に居るそうだよ」
結音「堕神・・・いや、擬きだな」
輝久「擬き・・・・・・」
結音「死んだ神を象った異形」
咲良「それ、禁術だよね」
結音「体を維持させる為にも幼い子供を捧げた」
「!!」
結音「終わらせてやれ」
「分かった」
〇古民家の蔵
異形「『グルルル』」
辛うじて形を保っている異形。
「終わらせる」
細長い触手の様な腕が桔梗に伸ばされる。
その前に双子が立ち塞がり、咲良が吹き飛ばし輝久が炎で燃やした。
桔梗「・・・・・・・・・・・・」
桔梗「!」
鬼灯「帰んぞ」
桔梗「え、あ、鬼丸?」
文也「えっと、終わりですよね?」
結音「うん。念の為、妖狐君を頼むよ」
文也「分かりました!行こう、詩織」
詩織「うん」
「先行ってるね」
結音「・・・君がアレを抑えていたんだな」
影「『うん』」
結音の足下に現れた影。
〇畳敷きの大広間
あの日、この影は師走だった彼の手を掴んで、泣き疲れた狐の元へと導いたのだ。
〇古民家の蔵
結音「君は此れから如何する?」
影「『他の子と一緒に逝くよ。片割れをよろしくね』」
結音「俺より鬼丸君が離さないさ」
影「『それもそっか。二人の子供に生まれたいなぁ』」
結音「・・・・・・出来なくは・・・ない・・・か・・・?」
〇アパートの中庭
其れから帰った一行は桔梗の側にずっと居た。
因みに、最期の言葉を鬼丸と桔梗に伝えると、珍しく桔梗まで顔を赤らめていた。
終