反対側のホームに立つ女

だっこ

反対側のホームに立つ女(脚本)

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〇駅のホーム
構内アナウンス「列車お待ちのお客様にご案内いたします」
構内アナウンス「只今、○○線は上下線ともに10分ほど遅れて運転しております」
構内アナウンス「お急ぎのところ到着が遅れますことをお詫び申し上げます」
構内アナウンス「当駅の到着までしばらくお待ちください」
田辺光希「はぁ・・・」
田辺光希「残業で疲れてるときに限って遅延かよ」
  スマートフォンを開き時刻を確認すると既に23時半を過ぎていた
???「ついてないですね。私たち」
田辺光希「え?」
  声がした方を見ると、反対側のホームに一人の女性が立っていた。
女「よかったら電車が来るまで少し話しませんか?」
田辺光希「いいですけど」
女「やった!!」
女「この時間は全然人がいないんですね」
田辺光希「まあ、この辺はあまり栄えてないですから」
女「そうみたいですねー」
女「ん-っと・・・」
女「スーツを着てて、お酒に酔っぱらっているようにも見えない」
女「さては君、この時間まで残業でしたね」
田辺光希「ええ、まあ」
女「当たったー!! 名推理だ」
女「実は私も残業だったもので」
女「いつもはこんなに遅くまでは残らないんですけど、今日は仕事が溜まっちゃて」
田辺光希「お互い苦労してますね」
女「まったくです」
女「今日なんか、部長が私の勉強のためにって言って仕事押し付けてきたんですよ」
田辺光希「それは災難だ」
女「・・・」
女「田中部長のばーっか!!」
女「ふぅー」
田辺光希「ちょっと、誰が聞いてるかわかりませんよ」
女「私たちしか居ないじゃないですか」
田辺光希「まあそうですけど」
女「一緒にどうですか?」
女「スカァーっとしますよ」
田辺光希「いや、自分は遠慮しときます」
女「えー気持ちいいのに」
女「そういうところ、変わらないんだね」
田辺光希「え?」
女「あ、そうだ」
女「私、今鞄を買い替えようと思ってて」
女「紺色にしようかベージュにしようか悩んでるんだけど・・・」
女「君はどっちの色の方が好きかな?」
田辺光希「あ、えーっとそうだな・・・」
田辺光希「どっちかって言ったら紺かな」
女「なるほど」
田辺光希「ちなみに自分、全然センスとかないですけど」
女「これはセンスとかの問題じゃないのよ」
田辺光希「はぁ・・・。よくわからないっす」
女「そーだろうねー」
構内アナウンス「まもなく2番線に普通列車○○行きが参ります」
構内アナウンス「お急ぎのところ到着が遅れましたことをお詫びいたします」
女「こっちが先みたいだね」
女「ごめんね。付き合ってもらっちゃって」
田辺光希「いえ。良い気晴らしになりました」
女「それはそれは」
女「またどこかで会ったら話しましょ」
田辺光希「ええ。でも、この時間にこの場所ではもう御免ですけど」
女「それはそうだ」
女「・・・」
女「田辺君」
女「私のこと覚えているかな」
田辺光希「え?」
田辺光希「どうして俺の名前を・・・?」
女「私ね。ずっと田辺君が・・・」
  電車の音に遮られ、彼女が最後に何を言ったのか聞き取ることはできなかった。
  彼女がわざとそうしたようにも思えた。
  無人のホームを見つめていると、思い出の残滓が光る。
田辺光希「もしかして・・・」
構内アナウンス「まもなく1番線に普通列車○○行きが参ります」

コメント

  • 「結局2人の関係は?」と思わせて終わるのがいいですね。偶然起きた短い時間での出来事。まさにワンシーンというテーマにぴったりの素敵なストーリーですね。

  • 読後の余韻がイイですね。たまたま女性と出会ったと考えていそうな主人公に対し、女性はきっと運命的な再会と考えたのだろうと妄想します。反対側ホームと言う微妙な距離感に切なさが感じられますね。

  • 反対側のホームまでの距離が、かつて知り合いだった二人を隔てる時間の距離でもあり、現在の心の距離でもあるところが憎い演出でしたね。この後田辺君がどんな行動に出るのか、あるいは出ないのか。気になりますね。

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