ピザを頼む女(脚本)
〇高級マンションの一室
彼女の家は入り組んだ路地の、それも奥の方にあった。加えて、彼女が住む近辺には信号が多く、交通量の多い道に囲まれていた。
求財沙羅美「今日は雨ですね――それに、車の通りが多い――うふふ」
彼女はテーブルの端に置かれていたスマートフォンを手に取り、電話を掛ける。
求財沙羅美「マルゲリータを、ひとつ」
電話先はピザ屋であった。所謂チェーン展開されているピザ屋で、彼女はそこで一枚のピザの宅配を頼む。
求財沙羅美「――あの〜・・・鈴木さんはいらっしゃいますか――はい。出来ればそれでッ」
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宍月由男「す、すみません! 遅れてしまって!」
胸元に〃鈴木〃とプレートを付けた男は、バタバタと慌ただしく彼女の部屋へと入って来る。
玄関先で合羽を脱いだのだろう。しかしそれでも男の体はじんわりと濡れている。
求財沙羅美「いいえ。待っているのも注文のうちですもの。ごめんなさい――こんな雨の日に頼んでしまって──」
宍月由男「い、いえ。仕事ですから──」
宍月由男「ああっ。ご注文のピザなのですが――少し冷めてしまったかと──」
男が女の家に着いた時には、注文から40分と経っていた。
求財沙羅美「そうでしょうか──」
男が突き出す平たいピザの包み紙――そこに彼女は首を伸ばして以て、辺りに漂う蒸気を確かめた。
求財沙羅美「そんな事ないです。なんならいつもよりアツアツで――それにスっゴク、いい匂い」
宍月由男「え? そ、そうですか――でも、まあ30分をオーバーしてしまったので割引の方を──」
求財沙羅美「いいですよ、そんなの。気にしないでください」
宍月由男「えッ――で、でも──」
求財沙羅美「そんな事より――外はまだ雨ですよ? どうです? 少し休んで行きませんか?」
宍月由男「はぁ!? い、失礼しました! ――でもし、仕事がありますので! まだ!」
求財沙羅美「お店の方には私の方から連絡して──」
宍月由男「そ、そういうワケには――何せ私が店長ですから!! それにまだ注文が残ってますし!」
求財沙羅美「――そうなんですね――じゃあ仕方ないですよね――これ、お代金です。今日はありがとうございました。また、注文しますね」
「あ、ありがとうございます――で、では――!」
ぶるぅん。男の駆るバイクが門扉を潜る。
それを見送る女の顔は、40数分経ったピザよりも冷え切っていた。
ふらりと彼女は部屋の隅へ――そこで彼女は、ピザの包み紙をゴミ箱へと投げ入れる。
そして。
求財沙羅美「今度は絶対食べてあげますからね──」
ラストで一撃必殺タイプのホラーですね。配達員自身がアツアツの状態で時間内に彼女の部屋に行かなきゃ食べてもらえないのかもですね。それがいいか悪いかは別として。
最後の言葉でゾクッとし、なるほどと腑に落ちました。受け取ったピザを捨ててしまうあたりも、怖さを増す効果的な表現になっていますね。面白かったです。
ラストの一言で、読後じわじわとキますね!
彼女の正体、目的、そしてピザ屋さんの”鈴木”さんとは、想像の余地があり楽しいですね!