商品開発部

ハスキ

商品開発部(脚本)

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〇小さい会議室
部長「すでに、分かっているとは思うが⋯」
部長「お菓子メーカーとして、トップの方を走り続けてきた我が社は今、経営状況の悪化にともない、崖っぷちの状況にある」
部下「はい、部長」
部下「会社がとんでもなく危ない事は、重々理解しております」
部長「うむ。そこで、だ⋯」
部長「我々商品開発部に課せられた重要な任務は、なんとしてでも、会社の利益向上に繋がる、」
部長「起死回生の一手である、新商品を生み出さなくてはならない!」
部下「そうですね⋯」
部下「部長も、毎日上からのとてつもない圧力で、顔が悲壮感を通り越して、死相が出てきてますから⋯」
部下「私もお世話になってる部長の為にも、早急に売れる新商品を開発したいです!」
部長「君のその気持ちはとてもありがたいし、大変心強いよ」
部長「経営不振が囁かれてから、我が開発部は退職者が相次ぎ、残るは君と私だけになってはいるが⋯」
部長「昔から君のアイディアは光るものがあったからね、期待しているよ」
部下「はい部長、大船に乗ったつもりで任せて下さい!」
  ――間
部長「しかし⋯」
部長「事態は一刻を争う状況ではあるが⋯」
部長「本来、商品開発というのは、簡単に出来るものではない」
部長「ましてや会社を救うような、売れ筋商品の開発など、とくにな⋯」
部下「部長!新商品の試作品が出来ました!」
部下「ぜひ見て下さい!」
部長「な、なにぃ~!!」
部長「も、もう出来たのか?」
部長「どれどれ⋯」
部長「ん?」
部長「こ、これはなんだ?やけに赤い見た目だが⋯」
部下「はい、その名も「キャロライナチップス」です!」
部下「どうぞ部長、味見をぜひしてみて下さい」
部長「う、うむ」
部長「では一口、パクッ⋯」
部長「ブハァァッ!!」
部長「か、辛!!とんでもなく辛!ゴホッゴホッ!」
部長「き、君!これはいったいなんだね!?」
部下「はい!」
部下「これはギネスにも乗った世界一辛い唐辛子、キャロライナリーパーをふんだんに練りこみ、」
部下「さらに辛さをより引き出すように、あらゆる辛み成分を混ぜたチップスになってます!」
部長「なんてものを作ってるんだ!」
部長「辛さが危ないレベルだし、喉が焼けただれるように痛いぞ!」
部長「こんなものを世に出したら傷害罪で訴えられかねん、却下だ!」
部下「え~、そうですかー⋯」
部下「これはいけると思ったんですけど⋯」
部下「でも、次は任せて下さい!」
  ――間
部長「ゴホッゴホッ!」
部長「あー、酷い目にあった⋯」
部長「あの辛さはもはや、兵器になるんじゃないか?」
部下「部長!次なる新商品が完成しました!」
部下「自信作なのでぜひ味見をお願いします!」
部長「また、えらく早くできたな!?」
部長「さっきは少しビックリしたが⋯」
部長「今度は大丈夫だろう⋯」
部長「ん⋯?なんだこの真っ黒いのは?グミか?」
部下「はい、その名も「こりゃ梅~グミ」です!」
部下「こちらは梅を使ってますが、子供から大人までいけますよ」
部長「たしかに、梅は基本大人向けだが、グミにする事で子供向けにもなるな⋯」
部長「しかし、そのおやじギャグみたいなネーミング、なんとかならんかったのか?」
部長「よし、では一口、パクッ」
部長「ガハッ!!」
部長「酸っぱ!無茶苦茶、酸っぱ!」
部長「な、なんだこれは!?」
部下「はい!これは世界一酸っぱいと言われる梅肉エキスを独自に煮詰める事で、」
部下「最大まで酸っぱさを引き出し、あらゆる酸っぱい成分をプラスしたものをグミにしました!」
部長「なにしてるんだ!!」
部長「こんなに酸っぱくしたら唾が滝のように流れ出したあと、口の中の水分全部持っていかれるわ!却下だ!」
部下「えー、今度はいけると思ったんですけど⋯」
部下「わかりました、今度こそ起死回生の一発、おみまいしてやりますよ!」
  ――間
部長「何が一発おみまいだ⋯」
部長「あいつが言うと別の意味に聞こえてくるだよ」
部長「あーまだ口の中の唾が止まらないよ⋯」
部下「部長!ついに我々の救世主となり得る商品が完成しました!」
部下「間違いなく自信作です!」
部長「⋯」
部長「私は君が自信たっぷりであればあるほど不安が増してくのだが⋯」
部長「ん?今度はたしかにまともだな?」
部長「見た感じ、ドーナツに見えるがこれは?」
部下「はい、その名も「グラブジャムン・リングドーナツ」です!」
部下「これぞ全国民に愛されるお菓子、間違いなしです!ぜひぜひご賞味ください!」
部長「おー!君にしては中々まともなお菓子を開発したじゃないか!」
部長「こういうのだよ~、こういうの待ってたんだよ、やれば出来るじゃないか~」
部長「では一口、パクッ」
部長「ガハッ!!」
部長「あっま!甘すぎる~~!」
部長「な、なんだこれはーー!?」
部下「はい!これは世界一甘いインドのお菓子グラブジャムンを参考に、」
部下「甘さを忠実に再現し、さらに例のごとく甘さ成分を、増し増しにして作ったドーナツです!」
部長「ば、ばかもーん!!」
部長「どれだけ甘くしてるんだ!食べた瞬間脳天を貫く、痛みみたいな甘さが襲ってきたぞ!?」
部長「甘さが痛いって、私は初体験だったぞ!もちろん問答無用で却下だ!」
部下「えぇーー、これも駄目なんですか~?」
部下「もう、どんな物なら良いのか、全然分かりませんよ~」
部長「君のはどれも極端なんだよ⋯」
部長「なんでいちいち世界一のものを使おうとしてるんだ?」
部長「もうそれ発想がヤーチューバーなんだよ⋯」
部下「はぁ~⋯」
部下「じゃあこの最後のやつも、やっぱり駄目かなー⋯」
部長「ん?」
部長「まだ、何か作ってたのか?」
部長「それもどうせ、まともなやつじゃないだろ!」
部長「どれ、私が処分するから、こっちに寄越しなさい」
部下「あ、急に動かすと開いちゃう⋯」
部長「ん?」
部長「なにか箱から飛び出して⋯」
部長「ガハッ!!」
部長「くっさ!とてつもなく、くっさ~!!お、おい!!これなんだーー!?」
部下「え、え~と⋯」
部下「こ、これは世界一臭いと言われる、シュールストレミングチョコですね!」
部長「ば⋯」
部長「ばかも~~ん!!」
  おわり

コメント

  • どうして会社が傾いているのか、理由と原因がこれほどはっきり分かる会社も珍しいですね。辛味や酸味、甘味の極限の味について知らないものばかりで勉強になりました。部長の「兵器になる」も冗談で済まなさそうな味ばかりでしたね。

  • 2人で永遠に商品開発ごっこを楽しんでいるような、本当は切実な問題抱えてるのに、こちらまで楽しませてもらいました。でも、いつか爆発ヒット商品生まれそうです!

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