5 戦う(脚本)
〇マンションの共用階段
〇城の回廊
キュラ・ラピス
大貴族ラピス家の息女
”身代わり人形”の姉アデラを持つ
キュラ「いた。ルーベル」
ルーベル
鮮やかな赤い髪の少年
キュラが乗る鉄道の駅員
ただいま暴漢(ぼうかん)に捕まっている
列車で一緒になった青年、ペイルトンが何やら説得を試みるが・・・
話が全く通じない
刃物まで持ち出して、周囲を威嚇(いかく)する犯人
キュラ「これほど騒ぎになっているのに 憲兵は何をしているの?」
キュラ「このままじゃ、ルーベルが」
キュラ「いつ刺されてもおかしくない」
キュラ「下手に刺激せず、速やかに敵を排除 するには・・・」
キュラは、モコの口を掴んだ
キュラ「出番よ」
モコから取り出したのは
『銃』
〇華やかな裏庭
それはとても珍しいものだ
紳士「よいですか、キュラ様」
紳士「これは特別なものです」
紳士「銃の所持は『大貴族の特権』であり」
紳士「権威の象徴です」
貴女はラピスの直系(ちょっけい)
この『銃』を持つにふさわしい方です
普段はモコの中へ隠しておくのですよ
紳士「キュラ様、貴女こそラピス家の 正統な後継者」
紳士「”身代わり人形”とは違うのです」
〇城の回廊
人「──!!──!!!!」
犯人はわめき散らし、周囲を威嚇し続けた。
人「──!?」
ペイルトン(何が・・・いや)
ペイルトン「ルーベル!こちらへ」
ルーベル「あ、ああ」
ルーベルを連れて、安全な場所まで移動したペイルトン。
〇城の回廊
キュラ「二人とも、無事?」
モコを抱えて、二人へ駆け寄るキュラ
ルーベル「はい」
ペイルトン「無事ですよ」
地面に倒れ、うめいている暴漢
キュラ「あの人は...何がしたかったのかしら」
ルーベル「「”身代わり人形”に仕事を取られた」 そうですよ」
ルーベル「わめいていた話を要約すると」
キュラ「えっ?」
ペイルトン「キュラさんはご存知ですか?」
ペイルトン「『働き者のハティリー』 というお話を」
〇古い本
あるところに、ハティリーというか少年がいました。
ハティリーは働き者でした。
ある日
ハティリーの勤め先に
”身代わり人形”があらわれました
”身代わり人形”が仕事につくと
ハティリーは仕事場から追い出されました
ハティリーは問いました
「どうして」
雇い主は言いました
「同じ金で雇えるなら、人形を選ぶに決まっている」
「おまえ達の何倍もよく働く」
「おまえ達は、”身代わり人形”より生産性を上げられるのか?」
こうして、ハティリーは仕事も住む場所も、人形にとって代わられました。
ハティリーは思いました
許せない
〇草原
アデラ・ラピス
キュラの姉である”身代わり人形”。
名門ラピス家の養子。
マリーベル
首都駅の駅員。
困っていたキュラを助けた。
マリーベル「なぜ、私まで馬車に?」
アデラ「おしゃべりしたかったの」
アデラ「貴女は、『働き者のハティリー』の お話を、どう思って?」
マリーベル「・・・」
マリーベルは、馬車の外へと視線を
走らせた。
アデラがマリーベルへと微笑みかけた
アデラ「”身代わり人形”の話題は嫌かしら」
マリーベル「嫌もなにも」
”身代わり人形”は謎多き存在だ
法と権力が”身代わり人形”を秘匿している。
下手なことを口にすれば・・・
どうなるか分からない
マリーベル「沈黙は金、ですよ」
アデラ「貴女の身の安全は私が保証します」
アデラ「だから答えて?」
マリーベル「・・・『働き者のハティリー』 民間で広がっている風刺(ふうし)ですね」
マリーベル「もし、その話のように」
マリーベル「人間と”身代わり人形”が、1つの席を取り合ったなら」
マリーベル「人間は競(せ)り負けるでしょうな」
馬車が止まり、マリーベルが外へ出た。
マリーベル「お約束通り」
マリーベル「替え馬の場所までご一緒しましたよ」
マリーベルは、ひらりと馬の背にまたがった
アデラ「ご一緒できて良かったわ」
アデラは、馬車の扉から半身を乗りだした
アデラ「・・・ねえ、マリー?」
アデラ「人間の・・・自分の席に”身代わり人形”が 座る時」
アデラ「人間はどんな気持ちなの?」
マリーベル「そうさね」
マリーベル「不安・・・だろうな」
マリーベル「『居場所を取られること』は 『存在を脅かされること』だ」
マリーベル「身代わりであれ、と望んだのは人間だが」
アデラ「そう。そうね」
〇城の回廊
キュラ「身代わり人形が、働きたがる?」
ペイルトン「何が不思議なのです?」
キュラ「”身代わり人形”は・・・人間が 『目的』をもって迎えるものだから」
キュラ「”身代わり人形”が自ら働き口を探す・・・ なんてこと、有るのかな、と」
ペイルトン「そういうものなのですか?」
ペイルトン「キュラさんは物知りですね」
ルーベル(また余計な横やりを・・・)
ルーベル「家に”身代わり人形”が居るんでしょ」
ルーベル「良いとこのお嬢さんだからね」
キュラは思わず反論した
キュラ「身分があっても、”身代わり人形”は迎えられないのよ?」
ルーベルが慌ててキュラをさえぎった。
ルーベル「もう、君、黙ってなよ せっかくフォローしたのに──」
突然のため口に驚くキュラ
ペイルトンへの口調のまま、キュラに喋りかけてしまったルーベル
二人はしばし沈黙した。
ルーベル「申し訳ありません。口が過ぎました」
ペイルトン「私に話す勢いで喋っちゃったのかい」
ルーベル「あんたは黙ってて」
笑うペイルトンと、睨むルーベル
キュラ「ルーベル」
キュラ「街の子みたいに話せるのね」
ルーベル「街の子というか、ため口というか」
キュラ「あのね、ルーベル」
ルーベル「はい」
キュラ「私にも砕けた言葉で話してちょうだい」
ルーベル「えっ、いえ、それはちょっと・・・」
キュラ「私も、仲良くなりたいの。あなたと」
ペイルトン「私も良いですか?キュラさん」
キュラ「仲良くして下さいな」
ルーベル「えーと、ちょっと失礼します...」
〇市場
ルーベル「もうっ」
ルーベル「変なヤツに捕まったうえに 言葉遣いを間違えて・・・」
ルーベル「アイツ(ペイルトン)に気を遣われる なんて」
ルーベル「これ以上失態をさらせるか!」
〇城の回廊
キュラ「仲良くなりたいの」
〇市場
ルーベル「仲良くなりたい・・・か」
ルーベル「そんなこと──」
ルーベル「ん?」
〇城の回廊
人気の無い路地
どうやら、騒ぎを起こした奴の仲間らしい
ルーベルを掴んで放さない
ルーベル(またかっ)
人「──聞いてんのか!」
人「オレは”身代わり人形”だぞ!?」
ルーベル「・・・なんだって?」
人「お前ら凡人が、”身代わり人形”に勝てると思ってんのか!」
ルーベル「おまえ、人形なの?」
ルーベル「っ──」
人「なめた口きくんじゃねえ!!」
人「──────」
暴漢の声はもうルーベルに届いていなかった
ルーベルはうつむき、ポツンと呟いた
ルーベル「じゃあ、いいよね」
人「ああ?」
ルーベル「・・・いいよね?」
〇黒背景
「痛てぇよぉ・・・痛てぇ・・・」
ルーベル「へぇ」
ルーベル「この程度の炎で?」
ルーベル「ふっ、ふふ」
ルーベル「知らないのか」
ルーベル「なら、教えてあげる」
ルーベル「”身代わり人形”はね」
〇草原
人間が足元に及ばないほど
頑丈で、強いんだよ
使用人「アデラ様」
アデラ「下がって」
アデラ「大丈夫よ」
アデラ「単なる強盗でしょう」
人「威勢が良いな」
人「やろうってのか──」
アデラ「・・・」
使用人「アデラ様っ ご無事ですか」
アデラ「ええ」
アデラ「行きましょう」
「早くキュラに追い付かなくては」
使用人「は、はい!」
アデラ「今は国中が騒がしい」
アデラ「キュラ、私は」
アデラ「あなたを危ない目にあわせたくない」
アデラ「例えあなたの意思に反してでも」
アデラ「連れて帰るわ」


