読切(脚本)
〇クリスマスツリーのある広場
ドンッ!
山田まゆみ「痛ッ!」
凍結した道を歩いていた私は、派手に転んでしまった。
山田まゆみ(クリスマスなのについてないな)
女性「さっきすごい音しなかった?」
男性「うわっ! 氷にヒビ入ってんじゃん!」
地面に座り込む私を見て、通行人たちがクスッと笑う。
鋭い痛みが走る膝よりも、心の方が痛い。
私に手を差し伸べてくれる人はいない。
なぜなら──
私の方から手を離してしまったから・・・
〇エレベーターの前
──数週間前
山田まゆみ(お昼は何食べようかな)
〇エレベーターの中
「待ってくださーい!」
木村樹「ふぅ、ギリギリ間に合ったぁ」
山田まゆみ「体、扉に当たってなかった? 大丈夫?」
木村樹「ははっ! これくらい平気ですよ!」
山田まゆみ「もう・・・」
木村樹「仕方がないじゃないですか。 先輩と2人っきりになりたかったんだから」
木村樹「先輩、会社では俺のこと相手にしてくれないし」
木村樹「クリスマスで1年の記念日なのに」
山田まゆみ「ちょっと! 会社でそういう話はしない約束でしょ!」
実は、私と木村君は恋人同士。
いわゆる社内恋愛というやつなんだけれど・・・。
山田まゆみ(木村君、モテるから気をつけないと。 恋人ができたっていう噂で、女の子たちが発狂してたし)
木村樹「でもランチは2人で行ってもいいですよね?」
山田まゆみ「まぁ、それくらいなら」
〇高層ビルのエントランス
木村樹「あははっ!」
山田まゆみ「ふふっ」
天道麗子「あれは・・・」
〇オフィスのフロア
木村君とランチに行ってから、数日後。
山田まゆみ(な、何これ・・・)
山田まゆみ(『あなたは木村君にふさわしくない』?)
送られてきた大量のイタズラメールに、私は愕然とした。
山田まゆみ「誰かこんなことを・・・」
山田まゆみ(しかも、幾つものアドレスから送られてる。 1人だけからじゃないってことか・・・)
天道麗子「・・・」
〇高層ビルのエントランス
数時間後。
受付の天道さんに声をかけられた私は、クリスマスの飾り付けを手伝っていた。
天道麗子「そういえば、山田さんって木村君と仲が良かったんだ」
山田まゆみ「!?」
山田まゆみ(どうしてそんなことを・・・)
山田まゆみ(まさか付き合ってるのがバレ・・・)
天道麗子「知らなかったわー 2人とも話さないから、仲悪いと思ってた」
山田まゆみ(恋人なのが、バレたわけじゃないんだ)
山田まゆみ「そうなんです。友達で・・・」
天道麗子「へぇ、友達、ね・・・」
山田まゆみ(一瞬、天道さんの顔が・・・気のせいかな?)
天道麗子「あっ、ツリーに星をつけてもらってもいいかしら?」
天道麗子「私、高所恐怖症で」
山田まゆみ「いいですよ」
私は星の飾りを天道さんから受け取ると、脚立に乗った。
ツリーに向かって身を乗り出した瞬間──
山田まゆみ「キャッ!」
乗っていた脚立が、ガクンと揺れた。
山田まゆみ(こ、このままだと倒れる!)
その時──
「まゆみさんッ!」
気づくと私は、木村君に抱き留められていた。
木村樹「だ、大丈夫ですか!?」
山田まゆみ「私のことより、木村君、血が!!」
木村樹「あっ、ホントだ。おでこから血が出てる」
木村樹「たいした傷じゃないですよ」
山田まゆみ「でも・・・」
天道麗子「わ、私救急箱持ってくる!」
山田まゆみ(さっきは、明らかに脚立が揺れた。 きっと、天道さんが・・・)
山田まゆみ(木村君のことを尋ねてきたのも、探りを入れるためだったんだ)
山田まゆみ(私が彼女だってバレた気がする。 嫌がらせはきっとこれからも・・・)
木村樹「ボーッとして、大丈夫ですか? やっぱりぶつけたんじゃ・・・」
山田まゆみ「ううん・・・ 木村君が守ってくれたから、どこもぶつけてないよ」
山田まゆみ(私が嫌がらせを受ける度に、きっと木村君は私を守ろうとするんだろうな)
山田まゆみ(そうなったら、今日みたいに怪我を・・・)
山田まゆみ「・・・」
山田まゆみ「木村君、私たち別れよう」
〇空
あのあと、木村君はきちんと話し合おうと言ってくれたけど・・・
私は適当に話を誤魔化して彼を遠ざけた。
もちろん嫌がらせも続いたまま・・・。
〇クリスマスツリーのある広場
山田まゆみ(誰も助けに来ない。 1人で立ち上がらないと)
山田まゆみ「痛っ」
立ち上がろうとしても、再び転んでしまう。
山田まゆみ「痛い・・・」
急に心細くなって、ポロッと涙が落ちる。
「そこのお姉さん」
山田まゆみ「え・・・?」
山田まゆみ「き、木村君?! どうしたの、その格好!」
木村樹「俺はサンタですよ」
そうキッパリと言った木村君が、私を立たせてくれる。
木村樹「サンタなので、なんでも願いを叶えます」
木村樹「お姉さんの願いはなんですか?」
山田まゆみ「私の願い・・・」
山田まゆみ(それは・・・)
山田まゆみ「木村君が傷つかないこと」
木村樹「なるほど」
木村樹「実はその木村君から、願いごとを聞いてまして・・・」
木村樹「『俺の願いは、まゆみさんに頼られる男になること』」
山田まゆみ「えっ」
木村樹「俺、頼りなかったですよね・・・」
木村樹「天道さんが先輩にメールを送ろうとしてるところ、見ちゃったんです。 まゆみさん、嫌がらせ受けてたんですね」
木村樹「気づけなくて、ごめんなさい」
山田まゆみ「謝らないで。 木村君に悟られないよう、隠してたのは私だから」
山田まゆみ「私は木村君が傷つかないでいてくれたら、それで・・・」
木村樹「何言ってるんですか! 俺、今、めちゃくちゃ傷ついてますよ!」
木村樹「好きな人が傷ついてたことに気づいてなかった。 それを知って、俺の心はズタボロです!」
木村樹「情けないことしてるっていう自覚はあります。でも・・・」
木村樹「頼れる男になるので、俺にチャンスをください!」
山田まゆみ「木村君・・・」
山田まゆみ(木村君は私に思ってることを伝えてくれた。 私も彼の気持ちに応えたい)
山田まゆみ「とっくに木村君は、頼りがいのある人だよ。 だからこそ私を守ろうとして傷つくのはつらくて・・・」
木村樹「まゆみさん・・・」
〇クリスマスツリーのある広場
抱きしめられた瞬間、ツリーが光り出す。
山田まゆみ「ちょっと、ここ外だよ!」
木村樹「前からまゆみさんは俺のだって言いたかったし。問題ないです」
山田まゆみ「! よくそんな恥ずかしいセリフが言えるね」
木村樹「え! ダメでしたか?」
山田まゆみ「ふふっ」
チュッ・・・
山田まゆみ「ううん、ありがとう。サンタさん」
来年私がツリーの前でプローポーズされるのは、また別の話。
人の恋愛を妬み意地悪をする寂しい人もいるもんですね。でもこういう卑劣な行為が逆に二人の結束を強くしたんだと思います。こんな風に女性を想い支えられる男性って本当に素敵です。
ああいう嫌がらせをしても何もいいことはないのに、する人はいるんですよねぇ…でも嫉妬の感情は仕方がないとしても、行動に移すと自分が惨めになりますからねぇ
妬む人がいると大変ですね…。
でも、やっぱり自分の元へ来てくれて嬉しかったですよね。
社内恋愛だと隠さなくてはいけないことも多くて大変そうですが、この二人には幸せになってもらいたいです。