少女Mの事件~少女Mに対する考察~ ある記者と女性囚人の対話(脚本)
〇黒背景
〇刑務所の面会室
ある記者と女性囚人の対話
〇無機質な扉
「やぁ」
「今日は有り難う」
少女M「ええ」
「もう会ってはくれないかと思ったよ」
少女M「なぜ?」
「あまりにしつこく付け回したし、今は通い過ぎてる」
少女M「自分がおわかりなのね」
少女M「でも大丈夫」
「? なぜだい?」
少女M「私は全人類が嫌いだから」
少女M「今更あなた一人にどうこう考えたりしないわ」
「・・・・・・ふむ」
「成程ね」
少女M「ねぇ、」
「何かな」
少女M「今、」
少女M「外はどうなっているの?」
少女M「変わったことは在る?」
「表層の変化なら山と在るが・・・・・・」
「そうだね。深層は相変わらずさ」
少女M「と、言うと?」
「ははは」
「これじゃどちらが取材されているかわからないよ」
少女M「ああ、ごめんなさい」
少女M「けれど気になってしまって」
「そう・・・・・・だろうね」
「うん、まぁ、」
「結局皆同じと言うことだよ」
「不景気だ格差だ政権交代だと並んでも、」
「人は死んで生まれている」
「事情が違うだけでね」
少女M「そう」
少女M「・・・・・・死んで、」
少女M「生まれて・・・・・・」
少女M「殖えているのね」
「ああ」
少女M「・・・・・・」
「ところで、」
少女M「?」
「きみは今塀の中だ」
「きみはその、」
「僕から見てひどく華奢な手で」
「実に三十人程殺した」
「津山三十人殺し再来」
「と書くメディアも在ったけど、」
少女M「そうらしいわね」
「なぜ、殺したんだい?」
少女M「陳腐な質問ね」
「いや、まぁ、」
「・・・・・・一番の謎だからさ」
「きみは所謂お嬢様、」
「良い家の娘だった」
「お父さんは市議会議員で」
少女M「訂正させてもらうなら、父は義父よ」
「・・・・・・ああ、うん」
「で、お母さんは茶道の家元の娘」
「お嬢様のお嬢様だ」
「箱入りとも言える」
「幼等部から大学までのエスカレータ式にそれこそ三才から通っている」
「洗い浚いしてもきみと被害者たちとの接点は無い」
少女M「・・・・・・在ったわ」
「え?」
少女M「あなたたちよ」
「僕、」
「ら?」
少女M「そう」
少女M「『マスメディアコミュニケーション』」
「・・・・・・」
少女M「あとはネットね」
「きみは・・・・・・」
「『正義の味方』になりたかったのかい?」
少女M「私が罪人ばかりを────」
少女M「出所したあるいは時効で逃げ切った、」
少女M「どうしようもない人間を皆殺ししたから?」
「・・・・・・いや」
「違うよな」
「だからわからないんだ、」
「どうして、きみは」
少女M「・・・・・・」
少女M「────敢えて言うなら私、」
少女M「さっき言ったのが理由よ」
「さっき?」
少女M「全人類が嫌いって」
少女M「言ったでしょう?」
少女M「アレよ」
「アレが・・・・・・」
「動機?」
少女M「そうよ」
「それは、どう言う・・・・・・」
少女M「私の家は無駄に人が出入りしてた」
少女M「気持ち悪かった」
「気持ち悪い?」
少女M「そうよ」
少女M「夏も冬も秋も春も、」
少女M「お義父さんの知り合いって大人が家を無駄に出入りしていたの」
少女M「片や三才から子供の群れに」
少女M「限定付きで放牧された」
少女M「気持ち悪かった」
少女M「酸素の減りが早いのか息は苦しいし暑いし・・・・・・」
少女M「気持ち悪かった」
少女M「私ね、嫌いなの」
少女M「体温とか匂いとか」
少女M「そう言う人間臭さ」
少女M「ほら、」
少女M「猫は子供に人間の臭いが付くと殺しちゃうでしょう?」
少女M「そんな感じ」
「だから、殺したの?」
「三十人も」
「・・・・・・じゃあ罪人ばかりだったのは・・・・・・」
少女M「だって、みんな納得するでしょう?」
少女M「“あー、あの人はああ言う罪を犯したから殺されたのか”」
少女M「って」
少女M「少なくとも一般人を殺害するよりは」
「きみは・・・・・・」
少女M「私はね、」
少女M「みんな嫌いなの」
少女M「だから殺したの」
「そう・・・・・・」
少女M「その内・・・・・・」
「ん?」
少女M「ここも静かになるわよ」
〇黒背景
〇研究施設の守衛室前
『少女Mに対する考察』
・彼女は極度の人嫌いだった。
子供のころから大勢の人間に囲まれ育った。
小さいころから人前で強要される品行方正のプレッシャーが
彼女を歪めたのだろうか。
まだまだ彼女には取材をするべき要素が在る。
取材記者「・・・・・・と」
取材記者「まぁこんなもんか」
取材記者「・・・・・・そう言えば」
取材記者「今日はやけにこの医療刑務所は」
取材記者「静かだな」
〇黒背景
〇研究施設の守衛室前
【 了 】