隣の女(脚本)
〇公園のベンチ
佐藤正志「いつぶり? こっち」
工藤佳乃「さあ 久しぶりな気はするけど」
佐藤正志「そりゃ三年ぶりだし」
工藤佳乃「覚えてるじゃない」
佐藤正志「まあね」
佐藤正志「元気?」
工藤佳乃「とっても」
佐藤正志「そう」
佐藤正志「そっちは大変?」
工藤佳乃「別に 大丈夫」
佐藤正志「そう そりゃ、よかった」
佐藤正志「心配でさ 連絡も取れないし」
佐藤正志「佳乃は結構ドジだし!」
工藤佳乃「な! あんたほどじゃないわよ!」
工藤佳乃「あんたが前に1時間遅れたの忘れてないわよ?」
佐藤正志「ハハ・・・・・・ あれはほんとゴメン」
工藤佳乃「まったく」
工藤佳乃「今回早く来たから許してあげる」
佐藤正志「ありがと」
佐藤正志「佳乃は変わらないな・・・・・・」
工藤佳乃「・・・・・・」
工藤佳乃「正志」
工藤佳乃「別のこと、聞きたいんじゃないの?」
佐藤正志「・・・・・・」
工藤佳乃「あんたが、」
工藤佳乃「正志が私を誤魔化せると思ってるの?」
工藤佳乃「100年早いわ」
佳乃は正志の目を見た
疑念でも、怒りでもない
佳乃は正志を待った
瞳を通して自分の覚悟を伝えた
自分たちは今、同じ場所にいるのだと
私たちは「それ」を話さなければならない
佐藤正志「うん、そうだな」
佐藤正志「佳乃が言ったとおり 俺は佳乃に聞きたいことがある」
佐藤正志「俺たちは・・・・・・」
佐藤正志「つぎ、」
佐藤正志「いつ、会えるんだ?」
佐藤正志「つぎ、俺とお前の世界が重なるのは」
佐藤正志「一体何年後になる?」
佐藤正志「今回3年なのは奇跡だ」
佐藤正志「年々そのスパンは長くなってる」
佐藤正志「つぎは確実に5年以上 最悪数十年後になる」
佐藤正志「なぁ」
佐藤正志「俺たちはつぎ、いつ会える?」
私は冷たい彼の手を両手で包んだ
工藤佳乃「昔はさ、重なってる時間も長かったし、その間もたった数日で」
工藤佳乃「また明日って言って、ほんとにまた明日会って」
工藤佳乃「楽しかった」
工藤佳乃「・・・・・・」
工藤佳乃「つぎはね」
工藤佳乃「50年だって」
私の手の中で、正志の手が強張る
佐藤正志「50年・・・・・・」
佐藤正志「俺は、おじいちゃんだな」
正志は力なく笑った
工藤佳乃「・・・・・・ねぇ」
私は細く息を吸った
工藤佳乃「私、別に」
私は彼の手を放し、服の裾を握った
工藤佳乃「・・・・・・」
佐藤正志「佳乃は!」
佐藤正志「佳乃は」
佐藤正志「俺がおじいちゃんになっても愛してくれるか」
佐藤正志「俺は全然50年ぐらい余裕だけど!」
佐藤正志「だいたいさ! そっちは何年なんだよ」
工藤佳乃「こっちは5年かな・・・・・・」
佐藤正志「じゃあ72歳と24歳か」
佐藤正志「そんな歳の差、俺は大丈夫 むしろ成長した佳乃が楽しみなぐらいさ」
工藤佳乃「でも」
佐藤正志「佳乃 俺は、大丈夫だ」
正志はベンチから立ち上がる
いまだ呆けた佳乃の前に立ち、その両肩に手を置いた
正志は佳乃の目を見た
瞳を通して自分の覚悟を伝えた
自分たちは今、同じ場所にいるのだと伝えた
俺たちは「大丈夫」だ
工藤佳乃「・・・・・・」
工藤佳乃「はぁ」
工藤佳乃「分かった、分かったから 見つめないで」
工藤佳乃「伝わったから」
正志は思わず笑った
佐藤正志「照れるなよ」
工藤佳乃「照れてない!」
佳乃は正志の手を振り払った
工藤佳乃「ハァ」
工藤佳乃「いいのね?」
佐藤正志「ああ」
工藤佳乃「じゃあこの話はおしまい!」
工藤佳乃「時間が惜しいわ」
工藤佳乃「さっさと行きましょう?」
佐藤正志「佳乃」
佐藤正志「愛してる」
「私も愛してるわ。 おじいちゃんになったって、ね」
「知ってるさ」
この不思議な物語世界と、そんな中で愛を育む2人の強さに見入ってしまいました。5年ぶり、そして次は50年後……愛情は変わらないことを願いたいですね
世の中には人種や距離などいろんな障害を抱えた恋愛がありますが、正志と佳乃はそれぞれの世界で時間の流れ方が異なるのが最大の障害のように思えました。不定期な逢瀬の今この瞬間は隣にいるのに、限られた命の時間の中で次に会えるまでは一番遠くにいる人になってしまう。そんな苦悩と切なさを感じる不思議な物語でした。
二人の関係がよく分からずに終わってしまったけど、結ばれることのない切ない恋なのかなあと想像します。一緒にいなくても相手を想う気持ちで人は生きていけるものかもしれませんね。