現象(脚本)
〇空き地
寺町奈緒「じゃあ、わたしこっちだから」
ああ、それじゃあ
・・・やっぱり誘ったほうがいいか
もうすぐ卒業だし
なあ、奈緒
日曜日に映画でも・・・
ってあれ、どこ行った?
「え? ここにいるけど」
電柱の陰にも曲がり角にもいない
でも声だけは聞こえる・・・
「ねえ、さっきからなにやってるの」
なんの冗談だよ?
はやく姿を見せろって
「だからここにいるってば!」
そのとき、目の前の空気がかすかに震えた気がした。
奈緒か・・・? 本当に?
「なんのこと? 見ればわかるでしょ」
見えないよ。おまえの姿がどこにも見えない
「え?」
スマホで自撮りしてみてくれ
手鏡でもいいけど
「あれ、え、これって・・・」
そうだ。『透明化現象』
「・・・あはは。そっかあ 本当に急だなあ」
この学校では2人目だな
その・・・なんて言えばいいか
「まだ治療法は確立してないもんね はじめての症例から20年も経ってるのに」
「研究者なにしてんだよって感じ・・・ あはは」
奈緒・・・
「町内でも数人はいたよね、確か ぶつかったことも何回かあるし」
ああ、おれも経験がある
もうめずらしくもないさ、だから・・・
「知ってる? 透明なまま死んだ人がどうなったか」
奈緒
「だれにも見つからずひっそりと死体になって、腐臭でようやく気づかれる」
「透明人間って字面はすごく魅力的なのに、実際はただ孤独なだけ」
「わたしが一方的に見ることはできても、もう目を合わせることはできない」
「でもね、でも・・・」
奈緒!
「泣いてる顔を見せずに済むから、それだけは、いいよね」
おれは奈緒を抱きしめようと、腕を翼のように広げた。だが、どこにも感触はなかった。
「きみのときも、きっと、同じ気持ちだったんだろうね」
!
「きみが透明になってからちょうど1年だよ なんだか運命的じゃない?」
・・・奈緒には、おれと同じ気持ちになってほしくなかった
「でも、これで理解も共感もできる わたしにとってはマイナスだけじゃないよ」
奈緒、どこにいる?
「ここにいるよ」
声を頼りにおれは歩み寄った。
やがて、透明な空気にぶつかった。
空気にしてはやわらかく、温かい。
おれはそれを誰よりも知っていた。
これ・・・手、だよな
幼稚園以来だな、手をつなぐなんて
「うん」
契約を結ばないか
「どんな」
ちゃんと生きているか、お互いに確認し合うんだ
見えなくてもふれあって、見つめ合うんだ
「いいけど、それって・・・」
なに?
「わたしたちが「不透明」に戻っても、継続される?」
奈緒が・・・そう望むなら
奈緒が笑っているのが、見えた。
透明化、確かに社会から「見えない」存在になるので、それを繋ぎ留め確認することが必要となりますね。その行為はまるで……ステキです!
ほぉ〜。「透明な女」だからタイトルも見えなかったんだ。今まで透明な人間同士のやりとりって見たり読んだりしたことがなかったから新鮮でした。恋人同士や親子など相手に愛情がある場合、互いの目を見れないのが辛いですね。
透明人間って、見えないからいろんなところを覗き見たり出来るっていう魅力的なイメージを昔から持っていたけど、辛い時にも気付いてもらえないんだなあと気付かされました。
この2人がいつか不透明になれば良いなと思いました☺️