サンタが夢にあらわれた!?

kumori

それは夢か、現実か。(脚本)

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〇古いアパート
「死ぬほど忙しい」
「もう死ぬ。今日死ぬ。誰か楽にして」

〇安アパートの台所
わたし「お正月休みなんていらないから、今すぐ年末進行なんてやめよう?」
わたし「嫌だ嫌だ。今日がクリスマスイブだなんて信じたくない! 明日は休日出勤だなんてもっと信じたくない!」
  日付が変わる30分前に帰宅した私は、玄関を開けて即倒れ込み、うずくまった。
わたし「無理・・・。一歩も動けない・・・」
  冷えた頬をもっと冷たい床に押し当て、ぐんぐん体温が奪われていく。
  それでも伏したままでいると──
少年「おかえり~! 待ってたよ!」
少年「そんなところで寝てないで、手を洗っておいで。パーティを始めるよ!」
わたし「え・・・? 誰?」
  かろうじて頭をもたげた状態で、ポカンと首をひねる。
  明るく笑う見知らぬ少年は部屋の奥から現れたけれど、さっき私は鍵を開けて中に入ったはずだ。
わたし「どこから入ったの? 何者? 泥棒?」
わたし「もしかして夢??」
  すごいリアルな夢だな・・・ぼんやりする頭でそう納得しかけた時、我が物顔で歩き回っていた彼が私の前へ戻って来た。
  おもむろに両手首を掴んだかと思うと、えいやっと引っ張り起こされる。
少年「ほら、早くして。せっかくのご馳走が冷めちゃうよ!」
  思いがけない腕力に面食らいつつ、少年の子供体温が胸に沁みる。
わたし「・・・ま、夢ならいっか」
  私は考えることを放棄して、流れに身を任せた。

〇女性の部屋
わたし「は~~。お腹いっぱい。誰かの手料理なんて何年ぶりだろう!」
少年「お粗末様でした」
  見知らぬ少年とお喋りしながら、彼のお手製らしきご馳走をいただいて、私はすっかり骨抜きにされてしまった。
わたし((なんて良い夢なんだろう。覚めたくないなぁ))
  どうすれば、このまま幸せに暮らせるのだろうか。
  満員電車に押し込まれることも、上司に怒られることも、両親に心配をかけることもない、優しさに溢れるこの世界で。
わたし「ま、人生そう上手くいくわけないか」
少年「・・・」
  独りごちる私に、少年は寂しそうな視線を向けた。
わたし((この子、私の脳が作った夢の中の住人・・・なんだよね?))
わたし((ってことは、きっとモチーフになったものがあるんだろうけど、誰なんだろう?))
  夢はまだ覚める気配がない。私は謎解きをする気分で彼に話しかけた。
わたし「ねえ、君は誰なの? 名前は?」
少年「サンタクロースだよ」
わたし「うん・・・?」
  サンタクロースと言えば、白いおひげで恰幅の良いおじいさんが定番だったはずだ。
わたし「私の脳、ずいぶん突飛なキャラデサしたな・・・」
少年「・・・ねえ、パーティは楽しかった?」
  問いかけられて、私は間髪入れずに頷いた。
わたし「とっても楽しかった! こんなクリスマスっぽいことしたの、大人になってから初めてだよ!」
わたし「ちゃんとしたご飯も美味しかった・・・」
わたし「身体がポカポカして、なんだか幸せな気分。食事って大切なんだね」
わたし「それに、お母さんの味にちょっと似てたな」
  私の答えを聞いたサンタくん(仮)は、満足げに顔をほころばせる。
  温かみのある笑顔に、私の胸もほっこりと膨らんだ。
少年「その気持ちが、クリスマスプレゼントだよ」
少年「せめて今だけでも幸せな夢を見てね」
わたし「え・・・?」
  少年の声が聞こえたと同時に、突然瞼が重くなった。
  頭がふわふわして、サンタくん(仮)の声がどこか遠くの方で響く。
「クリスマスは、明日が本番だよ。 メリークリスマス!」

〇女性の部屋
  ドサッ

〇女性の部屋
わたし「いっ・・・」
  ベッドから落ちる鈍い痛みで目が覚めた。
  キンと冷えた冬の空気に身震いする。カーテンの隙間から差し込む日差しで、いつも通りの朝が来たんだと悟った。
わたし「あー・・・幸せな夢だったのに」
  着たままのスーツがしわくちゃになっていて、早速げんなりする。
わたし「まあ、しょうがないか。 それよりもう起きなきゃ。今日は休日出勤・・・」
  気合を入れて身体を起こすと、スマホが点滅しているのが目に入った。上司からのメッセージだ。
  『おはようございます。今日は大雪のため、休日出勤は取りやめて自宅で待機してください』
わたし「雪!?」

〇古いアパート
  信じられない気持ちでカーテンを開くと、窓の外は白銀の世界に様変わりしていた。
  朝陽も相まって、目に映るすべてのものがキラキラ輝いている。
「ホワイトクリスマスだ・・・」

〇女性の部屋
  クリスマスは、明日が本番だよ。
  メリークリスマス!
  サンタくん・・・? もしかして君・・・
  私は思わず、昨夜少年が座っていたあたりに視線を向けた。
  当然、誰もいない。
  けれど、テーブルの上に見覚えのないキャンドルが置いてあった。
わたし「サンタクロース型のキャンドル? なんでここに・・・?」
  手に取ってみると、すべらかな手触りが指に馴染む。
  火が着いているわけでもないのに、ほのかなぬくもりを感じた。
わたし「・・・ありがとう」
  勝手に言葉がこぼれた。
  いつも通りの朝なのに、妙に晴れやかな気分だった。
わたし「よーし! せっかく出勤がなくなったんだし、今日は一日楽しんじゃおう!」

〇空
  勢いよく立ち上がった私は、大きく伸びをする。
  クリスマスの本番はこれから始まるのだ──

コメント

  • すごくいいお話ですね。
    読んでて心が温かくなりました。
    あの少年は本当にサンタクロースだったのでしょうか。
    彼女が生き返ったみたいでよかったです。

  • とてもほっこりとした温かい気持ちになりました。いくつになってもサンタさんは嬉しいし非日常を味わうことができる素敵な日ですね!

  • 毎日が忙しいと心の余裕がなく、大切な日も忘れてしがいまち、心を忘れてしまいがちですよね。自分に振り替えりながら読ませて頂きました。

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