ハードボイルドガール

月暈シボ

エピソード12(脚本)

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〇警察署の食堂
長野トキオ「お前、麻峰と良い感じなんだってな?」
  白味魚のムニエルと豚汁にサラダ、更にデザートのヨーグルトといった、
  成長期の青少年に相応しい栄養バランスの取れた夕食が一段落したところで、
  長野はからかうようなニュアンスを込めながら俺に問いかけた。
  時刻は午後の七時に迫る頃合いで寮の食堂は満席に近い状況だ。
  そこかしこで会話の花が咲き乱れており、今なら浮いた話も目立つことはないだろう。
「昨日・・・たまたま、話をする機会があって、レ、麻峰と意気投合したんだ。・・・しかし、情報が早くないか?」
  遂に来たという思いで、俺は予め準備していた内容を答える。
  今日はかなりの時間帯でレイと付きっきりだったのは事実だ。
  当然、何人かのクラスメイトには一緒に行動しているところを見られているだろう。
  下手な否定は余計に勘繰られるだけだ。俺は素直に認めながらも、更に突っ込まれることを回避するために自分から話題を振るう。
長野トキオ「女子の一人が教えてくれたんだ。お前達がカフェでイチャついていたって!」
「・・・さすがにイチャついていたってのはオーバーだな。推理・・・小説の話で少し盛り上がっただけだし」
長野トキオ「それでも、あの麻峰と二人でお茶したんだろう! 羨ましいぞ!! あんな美人と間近で!!」
  俺の誘導に従い長野は情報源を漏らすが、それまでの芝居掛かった態度を捨てると俺に喰って掛かる。
  どうやら嫉妬心を隠しきれなくなったようだ。
  レイと行動していること自体は隠しようがなかったため仕方がないことだが、
  他人のプライベートを自分の自尊心を満たすために広める厄介者には困ったものだ。
「そうだな・・・同じ空間の空気を吸ったし、チョコレートも貰ったな!」
  長野の関心をレイと話し合った内容から遠ざけるため、俺は悪乗りする。
長野トキオ「ん?! 同じ空気! しかもチョコレート! チョコレートってあれだろ? 黒くて甘くてちょっぴり苦いヤツ?!」
「ああ、そう! その、黒くて甘いチョコレートだ」
「・・・もしかしたら麻峰の指紋もついていたかもな。ビター味で美味かった!」
長野トキオ「ぐおー!! う・ら・や・ま・し・いぃぃ!! 本当に羨ましいぃぃ!!」
「おい! 声がでかい! 悪かったよ! 冗談だって!」
「それに羨ましいと言われても、別に正式に付き合っているわけじゃないし」
「な、何なら、麻峰に長野も話に交じりたいって紹介しようか?」
  自分で煽った俺だが、長野の声が混雑する寮の食堂の中でも目立ち始めたことでブレーキを掛ける。
  これ以上は友情に破綻が生じると判断したのである。
長野トキオ「いや・・・それは・・・」
  お詫びも兼ねて俺はレイへの紹介を提案したが、長野はとたんに冷静になる。
長野トキオ「・・・良く考えたら、俺が麻峰みたいな美少女人と二人きりでカフェなんて行っても緊張で何も話せないし、」
長野トキオ「下手をすれば過呼吸で倒れてしまう」
長野トキオ「し、死ぬほど羨ましいが・・・俺は・・・お前と麻峰のことを認めるよ」
長野トキオ「これからは邪魔にならないように応援する・・・がんばれ!」
  長野は血走った目で俺を見つめると決意を表明するように告げる。
  これまでの感触からしてレイは自身が美少女である余裕からか、異性の外見をそれほど重視していない。
  なので、こんなリアクションをする長野なら彼女の好奇心を刺激してワンチャンスもあると思えるのだが、
  本人にはその覚悟がないようである。
「あ、ありがとう・・・」
  多少の誤解もあったが、レイと親しくなることを断念し自分を応援してくれる長野に俺はお礼で答える。
  いずれにしても、これで長野にレイとの関係を隠す必要がなくなったのはありがたかった。
長野トキオ「・・・ああ、でも他の女子に浮気したら許さないからな!」
  まだまだ未練を残した長野だったが、そのタイミングを申し合わせたかのようの、食堂にいた女子生徒達の多くが立ち上がる。
長野トキオ「うお!!」
  驚きの声を上げる長野だが、そんな彼を見向きもせずに女子達は食堂を去って行く。
  実は火曜日の午後七時は人気男性アイドルグループが出演するテレビ番組が放送される時間なのだ。
  彼女達はそれを観るために、大型ディスプレイが置かれている部屋に向って移動を開始しているのである。
  既にこの時代、あらゆる映像放送がデジタル化されているので過去の放送作品ならば、
  自分のパソコンやタブレット端末でいつでも閲覧することが可能だったが、
  やはりファンならばリアルタイムで見たいのだろう。
「・・・ああ、もうすぐ七時だな。じゃ、俺達も移動しようか?」
  話題を変える機会と見た俺は長野に提案する。
  食堂が閉鎖される八時にはまだ余裕はあるが、配膳は本校舎の大食堂と同じくセルフサービスである。
  調理スタッフのことを配慮すると早目に片付けるのがマナーだし、
  会話を楽しむにしても歓談室の方がより快適な椅子が用意されていた。
長野トキオ「そうだな。行こう!」
  もっともな提案なので長野も承諾する。
長野トキオ「ご馳走様でした!」
「ご馳走様でした!」
  俺達は揃って返却口に食器を片付けると、厨房の奥に見える調理スタッフ達にお礼を告げた。

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