想い(脚本)
〇講義室
孤塚 恵莉花
彼女とは大学のゼミでよく一緒になる。
しかし、彼女の顔が変わった事を見たことがない。
いつも無表情だった。
無口とか、コミュ障とか、ダウナーとか・・・
そういう雰囲気ではない。
孤塚 恵莉花「・・・へぇ。そうなんだ」
孤塚 恵莉花「・・・いいね。それ」
孤塚 恵莉花「・・・私は──だと思う」
受け答えはしっかりしている。
自分の意見をはっきり伝えている。
声のトーンはほぼ変わらないが、
微かに感情を感じる。
性格も暗いわけではない。
無表情だけど、無感情とは少し違う。
彼女の目はいつも真っ直ぐ前を向いていた。
本当に『然りげ無い』のだ。
勉学も、趣味も、人間関係も、
彼女の言動は全て何事もない様に、
当たり前の様に済ませている。
きっとそれが、彼女なのだろう。
彼女は彼女が然りげ無く済ませれる様に事を進めている。
そうすれば彼女には想定内の結果が得られる。
その代わり強く深い感動や衝動は得ることはない。
皆口 謙(それが孤塚さんにとって1番良い生き方なんだろう)
そう自己完結ていた。
この時までは・・・。
「・・・ねぇ」
講義の終わった講堂。
2人だけが教室に残り、帰りの支度をしている時だった。
隣にいる孤塚が声を掛けてきた。
皆口 謙「ん?」
いつもの様な他愛も無い話をするのかと思い、軽く返事をする。
しかし、彼女の口から出た言葉は、思いもしない言葉だった。
「──私、謙が好き」
思いもしなかった言葉に、
すぐさま隣を見る。
そこには、今までもせたこともない表情をした彼女がいた。
赤くした頬や耳、潤んだ瞳を窓から差す夕陽が鮮やかに照らす。
彼女の見たことない顔を見れたからか、それとも「好き」と言われたからか、あるいは両方か、鼓動が次第に早くなるのがわかる。
お互い、恥ずかしさと緊張が数秒の静けさを何倍も長く感じさせていた。
──その静けさを解く言葉は、
自分しか持っていなかった。
皆口 謙「──俺も、孤塚さんが好きです」
この日から、彼女は『然りげ無い女』ではなくなった。
然りげない女である孤塚さんと、その様子を然りげなく見ている主人公。然りげなく関係性を詰めていくのかと思いきや、孤塚さんド直球!この急展開にドキドキです!
彼が彼女を観察している記述から、すでに彼女の魅力の虜にでもなっているように感じました。人を不器用にさせる恋心って素敵ですね。
何事もさりげなくこなせる彼女が、唯一さりげなく対処できなかったことが恋愛だなんて素敵。「無表情だけど無感情ではない」ことを見抜くほどまでに観察していた謙もすでに恋に落ちていたんですね。