〇ビルの裏通り
中年男「はあ、はあ・・・」
日下部みもみ「悪いあやかし！ 大人しくきょーちゃんのエサになりな！」
中年男「な、なんの話だよ!?」
日下部みもみ「問答無用ぉー!!」
中年男「うああー!!」
狂骨「待てみもみ！」
日下部みもみ「どしたの!?」
狂骨「こやつ、あやかし「毛羽毛現」かと思うたが・・・ただ毛深いだけの中年だ」
日下部みもみ「えー!? またぁ!?」
狂骨「うむ。まったく妖力を感じん」
狂骨「昔は、見た目がおかしな奴はだいたいあやかしだったものだが」
日下部みもみ「ふふん！ 今は多様化の時代だよきょーちゃん！」
狂骨「なんでお主が偉そうなのだ・・・？」
日下部みもみ「でもさ、隠してるだけで本当はあやかしなんじゃない？」
日下部みもみ「クンクン。変な匂いとかしないし、とりま食べてみたら？」
狂骨「腐りかけみたいなノリで言うのう・・・」
警察官「お前ら、何してる!?」
日下部みもみ「やば、逃げろー！」

〇港の倉庫
日下部みもみ「はあ、はあ・・・マジ焦ったぁー！」
日下部みもみ「きょーちゃんも少しは走ってよ！」
狂骨「無茶言うな！」
日下部みもみ「だってさ、きょーちゃんのためにあやかし探してあげてんだよー？」
日下部みもみ「奴らは夜、欲望渦巻く場所に現れる──」
日下部みもみ「とかカッコつけてさ、全然いないじゃん！」
狂骨「やめて、多分寝る前くらいに恥ずかしくなるやつだわ」
日下部みもみ「今まで会ったあやかしもいい子たちばっかだったし」
日下部みもみ「もう悪いあやかしなんていないんじゃないの？」
狂骨「・・・た、確かに変だとは思っていたのだ」
狂骨「昔はもっとあやかしと人が入り混じっておった気がしたが・・・」
日下部みもみ「確かさ、安倍野っちも言ってたよ！」
日下部みもみ「昔あやかしと人間で不可侵条約を結んで、それ以来住み分けてるって！」
狂骨「「住み分ける」か・・・そんなこと言っておったやつが確かにいたのう」

〇古民家の居間
　　数百年前
狂骨「我は明日、人間の街を征服しに出る」
狂骨「お主も来い、牛鬼！」
狂骨「新たなあやかしの世界を作ろうぞ！」
牛鬼「・・・俺は、行かぬ」
狂骨「臆病者の牛に何を言っても無駄、か」
牛鬼「何と言われようと、俺は出ぬ」
牛鬼「あやかしと人間は「住み分ける」べきなのだ」

〇港の倉庫
狂骨「奴は我に並ぶ力を持つ大あやかしだったというのに・・・」
狂骨「ま、現代のあやかしは、奴のような臆病者ばかりなのだろうな」
日下部みもみ「そ、そんな・・・」
日下部みもみ「きょーちゃんにダチがいたなんて！」
狂骨「驚くところそこ!?」
狂骨「ってかダチじゃねえわ！」
狂骨「しかし、奴が首を縦に振っておれば、陰陽師ごときに後れを取ることはなかっただろうに、口惜しいのう」
「貴様にそんなに評価されていたとはな」
狂骨「むぅ！ この禍々しい妖気は・・・！」
日下部みもみ「おじさん誰？」
狂骨「お主・・・！ 牛鬼か！」
日下部みもみ「えっ!? この人が!?」
牛鬼「久しいな、狂骨」
日下部みもみ「すげー、イケオジだー！」
日下部みもみ「それに比べてきょーちゃんは・・・」
狂骨「斧と比べるでない！」
狂骨「昔は我も街の娘たちをキャーキャー言わせとったんだぞ！」
日下部みもみ「ふ〜ん」
狂骨「ぜんぜん興味ないじゃん・・・」
狂骨「しかし懐かしいのう牛鬼、生きておったとは思わなんだ！」
牛鬼「ふ、死に損なったと言うのが正しいかもしれんな」
狂骨「して今日はどうした、ひさしぶりにお前の家の桜でも見ながら一杯・・・」
牛鬼「見たぞ狂骨」
狂骨「えっ？」
牛鬼「人間にいいように遊ばれているお前のアウスタを」
狂骨「いいように？ そんなことがあるはず・・・」
　　急急如律令！
　　ぎにゃあああああ！
狂骨「ありましたサーセン」
牛鬼「堕ちたものだな。これが三千世界に比類なしとまで謳われた大あやかし狂骨か」
狂骨「えっ？ てかお主もあうすたやってるの？」
牛鬼「嘆かわしい。人間ごときにこびへつらいしてまで生きるとは」
狂骨「マジであやかしもみんなあうすたやってるの？ 我ってホントに乗り遅れてるの？」
日下部みもみ「大丈夫だよきょーちゃん、あうすたやってなくてもあーしらはずっ友だよ」
狂骨「ええい、憐れんだ目で見るな！」
牛鬼「俺と共に来い、狂骨」
牛鬼「憎き人間どもを共に根絶やしにするのだ！」
狂骨「なんだと・・・？」
狂骨「何があった牛鬼？ 穏健派のお前が今になってなぜ・・・？」
牛鬼「なぜ理由などを問う、狂骨」
狂骨「!」
牛鬼「あやかしと人は相いれない存在で共存などできない」
牛鬼「お前の口癖だったはずだ」
牛鬼「それとも、そこの娘に情でも移ったか？」
狂骨「・・・・・・」
日下部みもみ「ちょっと牛鬼っち！ さっきから黙ってれば好き勝手言うけど！」
日下部みもみ「あーしときょーちゃんはうまくやってるよ！」
牛鬼「うまくやっている？」