ハウツーラブ

ラム25

frontal lobe(脚本)

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〇明るいリビング
琥珀「ねえ、今日何の日か覚えてる?」
暦「君と初めて出会った日だ。 忘れるはずもない」
琥珀「流石ね、あなた! 夕飯は何がいい?」
暦「君が作る料理なら何でもいいよ」
琥珀「もう、何でもいいっていうのが1番困るのよ」
暦「はは、すまないな。 それじゃ行ってくる」
琥珀「えぇ。 ・・・ねぇ、あなた」
暦「どうした?」
琥珀「いえ、なんでもない。 行ってらっしゃい」
  そして暦は職場へ向かった。
  しかしその職場でのことだった。
  琥珀が飲酒運転により暴走した車に轢かれたとの報せが入ったのは。

〇病院の診察室
暦「琥珀は・・・妻は無事ですか!?」
医者「・・・誠に申し上げにくいのですが前頭葉に大きな損傷が見られました。 このままではおそらく・・・」
  医者が続けなくても暦にはその内容は想像がついた。
暦「そんな・・・ 俺はどうしたらいいんだ・・・」
医者「・・・1つだけ奥様を救えるかもしれない方法があります」
暦「本当ですか!?」
医者「はい、前頭葉・・・つまり脳の一部をAIに置き換えるのです。 そうすれば最悪の事態は免れられます」
暦「是非お願いします!」
医者「ただし脳とAIの結合、いや、脳をAIに置き換えるなど史上初のことです。 どんな問題が生じるか分かりません」
暦「それでも妻が救えるかもしれないなら・・・!」
医者「・・・分かりました」
  そして琥珀の前頭葉はAIに置き換えられた。

〇田舎の病院の病室
暦「琥珀、俺だ。分かるか?」
琥珀「・・・あなた?」
暦「ああ、俺だ。 君の声がまた聞けて嬉しい」
琥珀「? どうして嬉しいの?」
暦「え──」
琥珀「眠いから寝ていい?」
暦「ま、待ってくれ! 琥珀、君なんだよな?」
琥珀「えぇ、私は琥珀よ」
暦「君は事故から生還できたんだ。 何故喜ばないんだ!?」
琥珀「どうして喜ぶの?」
  会話が、思考が噛み合わない。
  蘇った琥珀はまるで別人だった。
  琥珀は数日して退院することになった。
  そして暦の苦悩が始まる。

〇明るいリビング
暦「琥珀、俺は会社に行ってくる。 俺が帰ってくるまではくれぐれも外出しないでくれ」
琥珀「いいけど、どうして?」
暦「君が心配だからに決まっているだろう」
琥珀「どうして心配なの?」
暦「・・・俺と君は一心同体なんだ。だから君を失うことは俺の中でも大きなものを失うことを意味するんだ」
琥珀「わかったわ」
  暦は多少は琥珀との会話のコツを覚えた。
  しかしこの通り琥珀は感情というものが欠損しているようだった。
暦「ところで琥珀、君はいつもパジャマを着ている。 日中は着替えたらどうだ?」
琥珀「わかったわ」
  すると琥珀は暦の目の前で着替えようとする。
暦「琥珀、着替えるときは人に見られないようにするんだ」
琥珀「どうして?」
暦「人に裸を見せるのは恥ずかしい、いや、道徳上よくないことだからだ」
琥珀「わかったわ」
  そして琥珀は部屋に入り、着替える。
琥珀「着替えたわ」
暦「あぁ、それでいい。 それじゃ、行ってくる」
琥珀「えぇ、行ってらっしゃい」

〇明るいリビング
暦「ただいま── あれ、なんで電気がついてないんだ?」
琥珀「どうして電気をつける必要があるの?」
暦「だって何をするにも暗かったら始まらないだろう!? たとえば本を読むにしろ・・・」
琥珀「何でそんなことする必要あるの?」
暦「それは心を満たすためだ。 君は今日1日何をしていた?」
琥珀「何もしていない」
暦「・・・そうか」
  人間性を失い、変わり果てた妻。
  暦はなんとかして受け入れようとするも限界があった。
  そしてある時暦は気付いてしまった。
  妻を愛せないことに。
  暦はすっかり精神がすり減り、ある決断をした。

〇明るいリビング
暦「・・・それじゃいってくる」
琥珀「行ってらっしゃい」

〇駅のホーム
暦「(この駅に飛び込んで終わりにしよう。琥珀を愛せない俺に生きる資格はない)」
  そしてアナウンスが流れた頃だった。
琥珀「・・・あなた」
暦「琥珀!? 馬鹿な、どうしてここに?」
琥珀「今日のあなたはいつもと様子が違った。 それで様子を見にきたの」
琥珀「もしかしてこれが〝心配〟ってこと?」
暦「あぁ、琥珀・・・俺はなんて馬鹿なことを考えたんだ・・・」
  妻を愛することから逃げ、自ら命を断とうとした暦。
  しかしこの出来事がきっかけで、琥珀にも感情らしい物が生まれた。

〇明るいリビング
暦「ただいま、琥珀」
琥珀「おかえりなさい、あなた」
暦「今日は君好みの服を買ってきたんだ。 良かったら着てみてくれ」
琥珀「わかったわ」
琥珀「着替えたわ」
暦「うん、やっぱり君によく似合うな」
琥珀「・・・嬉しい」
  琥珀はぎこちないながら笑みを浮かべ、さらに「嬉しい」と言った。
  確実に感情を学習しつつある。
暦「そういえば君はあの日── 君と出会った記念日、なんて言おうとしたんだ?」
琥珀「今までもこれからも、ずっと愛してる」
暦「え?」
琥珀「でも愛してるってどういう意味?」
暦「・・・それもきっと近いうちに分かるさ、きっと・・・」
  自分と琥珀はまた愛しあえる。
  暦はそう確信していた。

コメント

  • とても素敵な物語でした。それと、かなり手慣れた印象を受けました。
    琥珀の人格がリセットされてからの再スタート、希望の持てるラストでほっとしました😊

  • 自分のパートナー的な人がこうなったらどうするかな、と思いながら読みました。やっぱり見放すことはできないですが、入院させてしまい、そのうち疎遠になるではないかと考えてぞっとしました。相手の中身を好きになるのにその中身が変わっても好きで居続けるのは難しい…。けど倫理的には見放すことはできない。地獄でしょうね。

  • 切なくもあたたかいお話でした。
    タイトルを変えられたとのこと、私もこちらのタイトルの方が好きです。
    近い将来、こういうこともあり得るかもしれませんね。まさにタイトルどおり、これから2人のハウツーラブとなり、愛を育んでいってほしいです。素敵でした!

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