サンタクロースの心臓を君に(脚本)
〇街中の道路
12月25日
巧「!」
『続いては、連続殺人事件のニュースです』
『始まりは、7年前のクリスマスに、当時1才の女の子が殺害されたことでした』
『心臓を抜き取った遺体を両親に送りつけるという残忍な手口は、世間を大きく震撼させました』
『そして、翌年のクリスマスには2才の男の子が。さらに翌年には、3才の女の子が同じ手口で殺害されました』
『今年は8才の子どもが狙われる可能性があるとして、警察は警戒を強めています』
巧「・・・・・・」
奏多「パパ、どうしたの?」
巧「――何でもないよ、奏多(かなた)。 帰ったら、どんなごちそうを作ろうか?」
奏多「ぼく、ローストチキンがいい!」
奏多「──は、」
奏多「はくしょん!」
巧「まったく。手袋をなくすからだろう」
巧「ほら、パパのを使いなさい」
奏多「わぁ。パパの手袋、ぶかぶかだ」
巧「――いつか必ず、ぴったりになるさ」
奏多「ふふ、神の手袋だね」
巧「神の手袋?」
奏多「うん。だってパパは、神の手を持つお医者さんでしょ?」
巧「!」
巧「・・・今はただの町医者だよ」
奏多「あ、パトカーだ!」
奏多「かっこいい!」
タタタッ
巧「待ちなさい、奏多!」
巧「走ってはいけない!」
奏多「・・・はぁい」
〇おしゃれなリビングダイニング
巧「メリークリスマス! そして、」
巧「お誕生日おめでとう!」
奏多「ありがとう、パパ! 大好き!」
奏多「っ──」
巧「奏多、大丈夫か!?」
奏多「・・・大丈夫。 ちょっと、ふらっとしただけだよ」
巧「はしゃぎ過ぎたんだな。 ソファに座って、少し休むんだ」
奏多「・・・はぁ」
奏多「今年も、また寝込んじゃうのかな」
巧「それは──」
ピンポーン
巧「!」
巧「すまない、少し行ってくる」
〇シックな玄関
ガチャッ
巧「どちら様でしょう?」
笹原「夜分遅くに失礼します」
巧「診療所は昨日からお休みしておりますが、急病でしょうか?」
笹原「いいえ。私はこういう者です」
巧「――!」
巧「刑事さんですか」
巧「人は見かけによらないものですね。 どういったご用件でしょう?」
笹原「例の事件の聞き込みです」
巧「ああ。 おひとりですか?」
笹原「人手不足なものですから」
奏多「パパ・・・?」
巧「奏多。パパは大人の話があるから、リビングで待っていなさい」
奏多「・・・はい」
笹原「お子さんがおられると、この時期は心配でしょう」
巧「ええ。息子の身辺には注意しています」
笹原「実は、昨日も8才の女の子が行方不明になりました」
巧「それは、心配ですね」
巧「ですが、僕は不審者を見ていませんし、特にお話しできることもないかと・・・」
笹原「では、あなた自身は、昨日どこにいたのですか?」
巧「えっ」
巧「休診なので、医療機器のメンテナンスをしていましたが・・・」
巧「僕は、疑われているのですか?」
笹原「心臓を抜き取られたこれまでの遺体は、傷口を丁寧に縫合されていました」
笹原「つまり、医学の知識を持つ者の犯行だということです」
巧「なるほど。 医者を片端から調べているわけですね」
巧「でしたら、いくらでも質問にお答えします」
笹原「――いえ、その必要はありません」
巧「?」
笹原「調べたいのは、息子さんの体です」
巧「!!」
笹原「犯人はなぜ、心臓を抜き取るのか」
笹原「猟奇趣味や、黒魔術の儀式に使っているなど、様々な憶測が流れました」
笹原「ですが、私の立てた仮説は違います」
笹原「私は仮説に基づき、『毎年冬休み明けに幼稚園や学校を休む子ども』を探しました」
笹原「そして、見つけた。 神の手を持つ医者の息子を」
笹原「先生、あなたなら──」
巧「動くな」
笹原「っ――!」
巧「妙な真似をすれば、容赦なく気管を貫きます」
笹原「――無駄ですよ」
笹原「チャイムを鳴らす前に、ここの位置情報を送信しましたから」
巧「!?」
巧「くっ」
巧「これが、最後だったのに──」
笹原「やはり、あなただったのですね」
巧「ああ。刑事さんの予想通りだ」
巧「僕は殺して奪った子どもたちの心臓を」
巧「――息子に移植していた」
巧「息子は『再発性心筋症』という難病を抱えている」
巧「自己免疫異常によって心臓の筋肉が徐々に蝕まれていく、不治の病だ」
巧「本来なら、心臓は1年しか持たないはずだった」
巧「だが僕は、1年に1度心臓移植をするという禁断の治療法で、息子を生き長らえさせた」
笹原「他の子どもの命と引き換えに、ですね」
巧「当然、許されることではないとわかっている」
巧「事が終われば、自首するつもりだった」
巧「来年、息子は新薬の治験に参加できる」
巧「それで病気が治るはずだったんだ!」
巧「こんなことなら、遺体だけでも綺麗にして返そうなどと、考えなければよかった──」
笹原「さらった子どもはどこですか?」
巧「――言わない」
笹原「なっ」
笹原「この期に及んで! もう諦めてください!」
巧「まだだ」
巧「僕は地獄に落ちてもいいが、奏多だけは絶対に死なせない!」
巧「妻が命がけで産んでくれた、宝物なんだ!」
巧「7人も殺した僕は、きっと死刑になる。 だったら、僕の心臓を息子に移植してくれ」
巧「それが叶わないなら、さらった子どもの居場所は教えない!」
笹原「っ──」
巧「子どもは間もなく死に至るだろう」
笹原「・・・わかりました」
笹原「移植を約束します」
巧「――ああ」
巧「ありがとう」
奏多「・・・パパ?」
奏多「どうして泣いてるの?」
巧「奏多、ごめんな。 しばらく会えなくなるんだ」
奏多「えっ」
奏多「パパ、どこか行っちゃうの?」
巧「いいや、ずっと奏多と一緒だよ・・・」
奏多「?」
巧「刑事さん、息子と一緒に連れて行ってもらえますか」
笹原「わかりました」
〇高級一戸建て
〇タクシーの後部座席
奏多「わぁ! パトカーだ! すごい!」
奏多「ねぇ、パパ! これはサンタさんからのプレゼントなの?」
巧「・・・そうだったら、よかったのにな」
奏多「え?」
巧「奏多。おまえに罪はない」
巧「もしこれから先、自分のために失われた命があることを知っても」
巧「どうか絶望しないでくれ」
巧「全部、パパが悪いんだ」
巧「だから奏多は、自分の人生を」
巧「どうか、最後まで生きてくれ──」
サンタのプレゼントが切なく苦しい、そしてお父さんにとっては希望だったという、とても刺さる話でした。
坂井さんのお話が私は大好きなので、これからも作品を楽しみにしています(*^^*)🌟
この短さなのに、サスペンスドラマ1本分くらいの展開が起きててホントすごい。鮮やかです!
切なくていいお話でした。最初、容疑者を特定できるものなのか疑問を感じましたが、奏多くんに移植してきたなら血液型等で絞り込めそうですね。リアリティも担保できていることで展開に納得できました。
その点で言うと、制度上巧の心臓を奏多くんが生きているうちに移植することは叶わない気がして、より切なくなります。タイトルがすごく合ってますね……。先がどうなるか気になるところも余韻があっていいなあと思いました。