嘘は甘く苦く

真弥

エピソード1(脚本)

嘘は甘く苦く

真弥

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嘘は甘く苦く
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〇病院の待合室
藍子「〇〇様、中待合へどうぞ」
  今日も朝から、クリニックの待合いには診察を待つ患者さんが大勢いた。

〇病院の診察室
八嶋先生「今日も朝から多いなぁ。 昨日ちょっと飲みすぎたせいか頭が痛いんだけど・・・」
藍子「八嶋先生、また合コンですか? 医者の不養生になりかねませんよ。 お薬もらいます?」
  藍子は頭痛薬とペットボトルを八嶋に手渡して、次の診療の準備を始めた。
八嶋先生「薬ありがとう。 合コンは、学会で知り合った本宮先生に誘われて断れなかったんだよ」
藍子「可愛い子の○INEのIDゲットできたなら、よかったじゃないですか?」
八嶋先生「キミのはまだ教えてもらってないけどね。 いつになったら教えてくれるのかな?」
藍子(軽いなぁ・・・。 整った顔して、腕もいいのに。 私は絶対一途で私だけに優しい人がいいわ)
  藍子は八嶋の言葉を聞こえないふりをしつつ、患者さんを呼ぶために診察室の扉を開けた。

〇病院の廊下
藍子「お待たせしました。 ええと、神崎様・・・ですね。どうぞ・・・・・・えっ?」
桃華「八嶋先生って、ここにいるのよね? ちょっと、どいて」
藍子「あのっ、ちょっと勝手に・・・」
  桃華は藍子を押し退けて診察室へ勢いよく飛び込んでくる。
八嶋先生「なんだ、いきなり! あれ?君は昨日の・・・」
桃華「酷いじゃないですか。 ホテルに私を置いてけぼりにするなんて!」
八嶋先生「ちょっと、困るよ。こんなところまで来て、大声で何言ってるんだ」
藍子(うわー、引く。 八嶋先生って、噂だけじゃなくて本当に女性関係にだらしない人だったんだ)
  診察室の中で言い合いを始めた2人を横目に、藍子は2人のいる診察室から隣の診察室へと逃げた。

〇病院の診察室
梨穂「藍子さん、お隣なんだか修羅場みたいですけど・・・」
  隣の診察室には医師はおらず、看護師の梨穂が隣の診察室の様子に聞き耳を立てている。
藍子「盗み聞きなんて。 でも、正直、呆れるね。職場で揉め事なんて院長に知られたら減給ものよ」
梨穂「げ。減給とか最悪じゃないですか。今週末若手ナース集めて先生の奢りで飲みにいく約束してるのに」
藍子「その心配なの? まぁ、八嶋先生若い子には人気だもんね」
梨穂「藍子さんは違うんですか? そういえば、藍子さんのそう言う話って聞きませんけど」
藍子「私は、別に・・・。 あ、検査室の方に呼ばれていたんだった。じゃあ、またあとでね」
  藍子はこれ以上の梨穂からの追及から逃れるべく診察室を出た。

〇大きい施設の階段
狛戸先生「おっと、」
藍子「きゃっ!」
  検査室に向かう途中の階段で、よそ見をしていた藍子の前に人影が現れた。
藍子「狛戸先生? す、すみません。よそ見してて・・・」
狛戸先生「いや、大丈夫だ。 やけに急いでどうした?」
藍子(狛戸先生に会えちゃった。 ラッキー。 相変わらず、何考えてるのかわからない感じだけど、不意に見せる笑顔が可愛いんだよね)
藍子「検査室に行く途中で・・・」
  うちの病院のカウンセラーとして非常勤の狛戸は、愛想はあまりよくないが、患者さんに優しく密かに人気のある医師だ。
狛戸先生「そういえば、八嶋は具合大丈夫かな」
藍子「八嶋先生なら、二日酔いと女性に押しかけられて大変そうになってます」
狛戸先生「え? そうなのか? 朝まで一緒に介抱していた女性かな? 大丈夫そうなのか?」
藍子(え、一緒に? と言うことは、狛戸先生もその合コンに参加していたって事なの?)
狛戸先生「ん?どうかしたか?」
藍子「いえ。 あの・・・ 先生も、合コンに?」
狛戸先生「あぁ、先日の学会で知り合った先生に誘われてな。うちの病院からも何人か参加したと思うけど」
藍子(そ、そんな・・・。 じゃあ、狛戸先生もあの女性と何か関係が?他の女性とも親しくなってたり?)
藍子「先生はお酒強いんですか?八嶋先生は二日酔いになってましたけど」
藍子(先生と他の女性のことは気になるし聞いたくないけど、せっかく会えたこの時間を無駄にしたくもないし・・・)
狛戸先生「酒は強くないからな。大勢で飲む時は控えてるよ。酔っ払って迷惑かけるのも嫌だしな」
藍子「それなら、看護師が傍にいれば気にせず飲めるんじゃないですか?介抱してもらえますよ?」
狛戸先生「いや、看護師なら尚更嫌がるんじゃないか?勤務外でも介抱させるなんて」
藍子「・・・私は、別にそうは思いませんよ」
藍子(もちろん、狛戸先生専用でですけどね)
狛戸先生「あ、言ったな? それなら今度飲みに連れて行こうかな。ちゃんと介抱してくれよ? その辺に放り出して帰らないでな?」
藍子(笑顔、可愛い❤️)
藍子「はいっ、ぜひ。 絶対行きましょうね?」
  藍子は狛戸との約束を取り付け、喜びを隠しきれない様子で、2人は別れた。
八嶋先生(なんだよ、今の。 藍子ちゃんって、狛戸狙いだったのか?)

〇病院の入口
藍子「お疲れ様です。 今お帰りですか?」
狛戸先生「あぁ、今日は院長に呼ばれててね。いつもより遅くなってしまったよ」
藍子(私、明日休みなんだけどな・・・。 昼間のこと覚えてないかなぁ)
藍子「せ、先生。 これから・・・」
梨穂「あー、藍子さんっ、今帰りですか? じゃあ、ご飯食べに行きましょうよー」
藍子「梨穂ちゃん? あ、えっと・・・」
梨穂(あ・・・、もしかして。ふふっ。 藍子さんって狛戸先生狙いなんだ。 いいこと思いついた!)
梨穂「狛戸先生も、一緒にご飯に行きませんかっ?」
藍子(GJ! 梨穂ちゃん。 でも、まさか梨穂ちゃんも狛戸先生狙いってことはない、よね?)
狛戸先生「え?俺も? いや、でも」
梨穂「いいですよね? このメンバーでご飯なんて、楽しそうじゃないですかー」
  強引な梨穂ちゃんに狛戸先生も押されて、しかたなくと言った様子だったが、3人で食事に行くことになった。

〇居酒屋の座敷席
  3人は病院近くの居酒屋にやってきた。
  梨穂ちゃんは狛戸先生の腕を掴んで、強引に隣を陣取ってしまう。
梨穂「さぁ、早速頼みましょー。 先生はビールでいいですか?藍子さんも? あ、私は大ジョッキで!」
  梨穂ちゃんの勢いに圧倒されて、藍子も狛戸先生も何も言えない。
藍子「とりあえず食べ物も頼みましょうか?お酒ばっかりだと酔いが早くまわっちゃいますし」
狛戸先生「そうだな。 何か適当に頼むとしよう」
梨穂「もうー、2人ともテンション低いー。 今日も忙しくてへとへとなんですよー。思いっきりリフレッシュしましょうよ」
  梨穂ちゃんはビールが来るなり、一気飲みしてしまった。意外にも酒豪なのかと驚いてしまう。
藍子「梨穂ちゃんってお酒強いのね。 知らなかったよ」
狛戸先生「でも、ちょっとペースが早すぎないか?」
藍子「・・・」
狛戸先生「・・・」
  藍子と狛戸先生の心配もよそに、梨穂ちゃんはどんどんアルコールを注文していく。
  その勢いに圧倒されるばかりだ。
梨穂「んーっ、美味しい! うわぁ、ふわふわするぅ・・・」
藍子「ちょっと、梨穂ちゃん大丈夫?」
狛戸先生「水飲ませたほうが良さそうだな」
  店に来て30分も経たないうちに梨穂ちゃんは酔っ払ってしまった。
  藍子も狛戸先生も呆れ顔で梨穂ちゃんの介抱をはじめる。
梨穂「なんか、酔っ払っちゃったかも・・・。 狛戸せんせぇ、ちょっと寄りかかってもいいですかぁ?」
藍子(えっ? ちょ、梨穂ちゃんてば、あんなに密着して)
狛戸先生「もう帰ったほうが良さそうだな。 俺、タクシー呼ぶよ」
  しがみつく梨穂ちゃんの腕から逃げて立ち上がりかけたが、彼女に思い切り引っ張られて、狛戸先生まで座敷に倒れ込んでしまった。
梨穂「きゃっ💕」
狛戸先生「うわっ、 ちょっ、」
藍子(あ! 嘘でしょう⁈)
  座敷に倒れ込んだ拍子に2人の唇がぶつかるようにしてキスする形になってしまった。
梨穂「んんーっ💕 狛戸せんせぇってばぁ・・・」
狛戸先生「んぅ・・・っ、 は、っ、 ちょっ、舌っ!!」
藍子「わ、私、お先に失礼しますっ!」
狛戸先生「あ、ちょっ!待って!」
梨穂「狛戸先生は帰っちゃダメでしょお?」
梨穂(ふふっ、藍子さんすごくショック受けたみたい。 普段何でもそつなくこなしてるのに、恋愛においては消極的なんだよね)
狛戸先生「おい。離れろって。 タクシー呼んでくるから、水でも飲んでろ」
梨穂「はーい」
  藍子の悲しそうな顔に満足した梨穂は、この日はこれ以上の狛戸先生へのちょっかいを出すことはやめたのだった。

〇女の子の一人部屋
  藍子は自宅に帰ってきた。頭の中は置いてきてしまった2人のことでいっぱいだ。
藍子「今頃あの2人どうしているんだろう。 まさか、そんなことありえないよね・・・?」
  ハプニングとはいえ2人のキスを間近で見てしまった藍子はショックで落ち込んでしまう。
  まさかと思いつつも2人の関係が深いものになっていたら。そう思うと気になって仕方ない。
母親「藍子、まだ起きてたの? 明日も早いんでしょう?」
藍子「お母さん。 ちょっと寝付けなくて・・・」
母親「何かあったの? ・・・もしかして、恋愛関係?」
藍子「な、なんで」
母親「何年女子やってると思ってるの? あなたのそんな顔見たら、もうそれしか考えられなかったわ・・・なんて」
藍子「お母さんは、好きな人に他に好きな人がいたら、諦める?」
母親「何もせずに諦めるなんてしないわね。 もし、私がそうしていたら、今頃あなたとはこうして話すことはできなかったはずだから」
藍子「それって、お父さんとお母さんのことよね?もしかして付き合うことになったのって、お母さんから告白したの?」
母親「そうよ。お父さん無口でヘタレだったからね。付き合うことになったのも、プロポーズも私からよ!」
藍子「す、すごい。 ・・・そっか。それなら、私だって頑張らないとダメだよね」
母親「そうね。 欲しいものがあるなら、自分から手を伸ばさなきゃ。 高い壁も分厚い壁も乗り越えられないし、壊せない」
藍子「壊すとか越えるとか、ポジティブすぎる。 お母さんの意外な面を知ってちょっと驚いてるわ」
母親「身近な人間の言葉なら、私も頑張ろうって思えない? 実はこれ、我が家の家訓だから」
藍子「あはは。 それは守らないとね。 うん。お母さん、私頑張ってみる」
母親「それなら、早く寝ることね。 寝不足だと肌のコンディションも悪くなるわよ」
  いつも明るいお母さんの言葉に励まされて、藍子はある一つの決意を固めた。

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