桜の木の下で(脚本)
〇桜並木
咲也「また⋯この季節が来たのか」
咲也「⋯」
咲也「あいつは、今頃どこかで⋯」
咲也「元気にやってるのかな⋯?」
桜「それって、誰の事かな?」
咲也「っ!」
咲也「⋯」
桜「どうなの⋯かな?」
咲也「だったら、どうするんだ?」
桜「そりゃ、ちょっと妬いちゃうかな」
咲也「へー、妬くんだ」
桜「それはどういう意味かなー?」
桜「あ、もしかして、その人の事、好きなの⋯?」
咲也「そうだな⋯」
咲也「一年も彼氏をほったらかしにする女よりは、いいかも知れないな」
桜「ええーー!そんなーー!」
桜「うう⋯」
咲也「⋯」
咲也「ふふ、冗談だよ」
桜「ええ!?」
桜「う⋯」
桜「イジワル⋯」
咲也「はは、ごめんごめん」
桜「む~」
咲也「桜⋯久しぶりだな」
桜「うん!」
桜「咲也、久しぶり!」
――間
咲也「んで、この一年、どうしてたんだ?」
桜「ん、どうって?」
咲也「一年前、待ち合わせに来なかったっきり、姿見せなくなってただろ」
桜「あー⋯その事かー」
桜「でも、ちゃんと手紙を書いてたんだけどなー」
咲也「ちゃんと、だって?」
咲也「あの「私の事は忘れて下さい」って、たったそれだけの短い手紙がか?」
桜「そ、そうだよ、ちゃんと私の気持ちを書いた文章だよ」
咲也「はあ⋯」
咲也「まあ、今更だな⋯」
咲也「でも振るなら振るで、ちゃんと面と向かって言って欲しかったな」
桜「それは⋯無理だよ⋯」
咲也「あー、そうか⋯」
咲也「そう言えば、お互い連絡先も交換してなかったよな」
桜「違う!」
咲也「え⋯?」
桜「⋯そうじゃない」
咲也「どういう事なんだ?」
桜「振りたかったんじゃないの⋯」
咲也「いや、嫌いになったから、あの手紙を書いたんじゃないのか?」
桜「嫌いなんかならないよ!」
桜「だって、私は今も咲也の事が⋯」
咲也「ちょっと待ってくれ、ならなんで、忘れてくれ、なんて書いたんだよ?」
桜「それは⋯」
咲也「俺はな⋯」
咲也「あの日、桜が来なくて、どんなに悲しかったか、分かるか⋯?」
桜「咲也⋯」
咲也「あんなに毎日、遅くまでいっぱい喋って、笑い合ってたのに」
咲也「あの時間が全部、まるで無かった事のようになったんだ、あの短い手紙で⋯」
桜「ごめん⋯」
咲也「違う!」
咲也「謝って欲しいんじゃない、理由を知りたかったんだ!」
咲也「この一年、ずっと考えてたんだ⋯」
咲也「俺が桜を怒らすような、嫌われるような事をしたんじゃないかって⋯」
桜「咲也は何も悪くないよ!」
桜「悪いのは⋯私だから⋯」
咲也「え⋯?」
桜「ねえ⋯私と初めて会った時の事覚えてる?」
咲也「それは⋯」
咲也「もちろん覚えてるよ。絶対忘れたくない、俺たちの大事な思い出だからな」
一年前──
桜「⋯はあ⋯」
桜「い~な~!」
桜「私もあんなカップルみたいに、素敵な恋、したいな~」
咲也「はー⋯」
桜「い~な~」
咲也「羨ましいですよねー⋯」
桜「え?」
咲也「へ?」
桜「うわー!びっくりしたー!」
咲也「うわー!ってこっちのセリフだよ!君、どこに居たの!?」
桜「どこって⋯」
桜「私は最初からずっとここに居ました!」
咲也「え⋯?」
咲也「ぷっ!」
咲也「た、確かに⋯」
桜「ん?」
桜「ちょっと、人の顔見て笑うとか失礼じゃないですかー?」
咲也「ぷっ、いや、だって君⋯」
咲也「全身、桜の花びらまみれになってるから」
桜「え⋯」
桜「あ!ほ、ほんとだ~!!」
咲也「はは、どんだけそこに居たんだよ、さては君、暇人か?」
桜「むっ」
桜「そういう君も、こんなベンチに一人きりなんて、暇人なんじゃないかしら~?」
咲也「う、うるせー!」
桜「図星なんじゃ~ん」
咲也「ほっとけよ!」
咲也「まったくなんて性格悪い女だ⋯」
桜「あのさ、君、暇人でしょ?」
咲也「あ?まだ喧嘩売るってか?」
桜「違うよ」
桜「その⋯私も、まあ暇人なのよ」
咲也「だ、だからなんだよ?」
桜「えと、暇人同士、話相手仲間にならないかなー、って⋯」
咲也「っ!⋯」
桜「駄目⋯かな⋯?」
咲也「あ、ああ⋯まあ俺も、暇だしな⋯」
咲也「いいよ」
――間
桜「それからだったね⋯」
桜「私達、毎日会って、日が暮れるまでお話したよね⋯」
咲也「丁度、春休みだったし、暇を持て余してたからな」
桜「そう⋯いっぱい、いっぱいお話したよね⋯」
咲也「あー⋯」
咲也「俺の大学の事、家族の事、友達の事から昔の黒歴史まで」
咲也「桜にはいろいろ聞き出されたよ」
桜「おかげで咲也の事をたくさん知れたよ」
桜「それで⋯知れば知るほど、私は咲也の事が⋯好きになっていった」
咲也「俺だって!」
咲也「俺だって桜と話をして、色んな人を見てきた話とかすごく面白くて」
咲也「それで、楽しく話す桜の笑顔が⋯すっごい好きだった⋯」
桜「咲也⋯」
咲也「俺はもっと桜と話をしたかった!」
咲也「もっともっと桜の事を知って行きたかったんだ!」
桜「ごめん⋯」
咲也「だから、桜が悪いなんて思ってな⋯」
桜「だから違うの!」
桜「ほんとに、違うの⋯」
咲也「違うって、何がなんだ?」
桜「私⋯ほんとは最初から分かってたの⋯」
咲也「え⋯分かってた⋯?」
桜「そう⋯ほんとは⋯恋人になっちゃいけない事を⋯」
咲也「ど、どういう意味なんだ?」
桜「私ね⋯ほんとは⋯」
咲也「え?なんだって?風でよく聞こえなかったぞ!」
桜「⋯」
桜「ううん、なんでもないの、忘れて⋯」
咲也「そんな⋯なんでもない訳無いだろ!」
桜「どうして?ほんとに、ほんとになんでもないのよ⋯?」
咲也「なんでもない奴が!」
咲也「⋯そんな悲しそうな顔、してるわけないだろ⋯」
桜「っ!⋯」
咲也「⋯やっぱり、もう一緒には居られないのか?」
桜「うん⋯ごめん」
咲也「⋯」
咲也「分かった⋯」
咲也「短い間だったけど、楽しかったよ」
桜「っ!」
桜「⋯」
桜「うん、私もだよ⋯」
桜「ずっと、大好きだよ⋯咲也⋯」
咲也「うっ、また!」
咲也「っ!?」
咲也「え⋯」
咲也「桜!どこに行ったんだ!?」
咲也「⋯居ない⋯どういう事だ⋯?」
咲也「ん⋯?」
咲也「これは⋯」
咲也「桜の⋯花びら⋯?」
咲也「⋯」
咲也「桜⋯」
咲也「そうか、そうだったんだな⋯」
咲也「だから⋯あんな事を⋯」
咲也「⋯」
咲也「よし」
咲也「また来年、桜の木の下で⋯」
咲也「必ずお前を見つけてやるからな⋯」
おわり
不思議な、でもとても美しい、そして素敵なストーリーでした。はかなさと美しさが同居する桜にぴったりのお話ですね。美しすぎる表紙も素晴らしいです。
彼の持つ感性に感動しました。日本人にとって桜の花、その愛でることのできる期間は、特別な想いになれるものですよね。現実であって欲しい儚いストーリーですね。
桜はその名のとおり桜の精だったんですね。毎年桜の季節に再会するなんて織姫と彦星みたいだなー。桜が咲いている数日間と儚い恋の時間がリンクして、なんとも淡くて切ない雰囲気に満ちたストーリーでした。