ゾンビと神官見習いは再び出会う(脚本)
〇草原の道
ミア「また現れましたわね!さ迷う亡者、ゾンビ!!」
ミア「今日こそ、浄化してあげますわ!」
ゾンビ(カール)「いや、ちょっと待って!?」
ゾンビ(カール)「話を聞いてよ!!」
ミア「話ですって!?」
ゾンビ(カール)「たしかに、この間いきなり後ろから声かけたのは、不味かったと思うんだけど⋯」
ミア「そうです!」
ミア「急に声をかけてくるから、痴漢(ちかん)かと思って怖かったんですよ!」
ゾンビ(カール)「あはは⋯」
ミア「でも⋯振り向きざまに咄嗟に放った浄化魔法だったとはいえ⋯」
ミア「なぜまだピンピンしているんですか!!」
ゾンビ(カール)「いやー⋯。お姉さんはまだ、駆け出しの神官見習いだよね?」
ゾンビ(カール)「ちょっとは効いてるんだけど、その...言っちゃなんだけど⋯」
ゾンビ(カール)「浄化のレベルとか、足りてないのかなって⋯」
ミア「⋯」
ミア「はぁぁぁ~~~!?」
ゾンビ(カール)「わわっ!」
ミア「⋯」
ミア「⋯コホン」
ミア「あなたみたいな腐った魔物の存在に、私の涙ぐましい日々の努力が分かってたまりますか!」
ゾンビ(カール)「いやー、見ての通りゾンビだけど⋯」
ゾンビ(カール)「まったく心が無いみたいな言われ方は⋯ちょっと傷付くかな⋯」
ミア「アンデッドモンスターが何を白々しい!」
ミア「そういう風に、親しみやすさを出しながら、人間に近づくのが目的ですね!?」
ミア「私はこれでも神官のはしくれ、そんな魔物の戯言(ざれごと)に耳など貸しませんから!!」
ゾンビ(カール)「あ、あの、お姉さん!」
ゾンビ(カール)「たしかに見た目はこんな姿をしてるけど、僕はお姉さんに危害などいっさい加えるつもりなんてないから安心してよ!」
ミア「ええい問答無用、くらいなさい!」
ミア「永久を彷徨う哀しきものよ、聖なる光りの元であるべき場所に帰れ⋯」
ミア「「「ターンアンデッド!」」」
ゾンビ(カール)「う、うぁぁ~~!!」
ゾンビ(カール)「⋯ガクッ」
ミア「⋯」
ミア「⋯ふぅ」
ミア「次に生まれ変わったら、正しい心を持った、人間に生まれ変わるんですよ⋯」
――次の日
ゾンビ(カール)「えーと⋯」
ゾンビ(カール)「言いたい事はとっっても、よく分かるんだけど⋯」
ゾンビ(カール)「出会い頭(がしら)でいきなり浄化魔法ぶっぱなしてくるのは、神に仕えてる神官としてどうなのかと...」
ミア「もちろん邪悪な存在の魔物に対する先手必勝に決まっているでしょう!」
ミア「っていうか、なんであんたは平然と毎回復活してくるのよ!」
ゾンビ(カール)「いやー、昨日のはさすがにやばいかなーって、思ったんだけど⋯」
ゾンビ(カール)「なんとか持ち堪えれちゃった⋯」
ミア「なんでよ!?」
ゾンビ(カール)「あれ⋯?なんだか、口が悪くなってない?」
ミア「はぁ~?なんか文句あるの!?」
ミア「魔物のあんたなんかに、いちいち丁寧な言葉使うのが馬鹿馬鹿しくなっただけよ!」
ミア「あとこれは地だから!!」
ゾンビ(カール)「あはは⋯」
ミア「⋯そういえば」
ミア「昔も、あんたみたいな情けない奴を相手にしてた事があったわね⋯」
ゾンビ(カール)「あっ!」
ゾンビ(カール)「もしかしてお姉さん⋯思い出してくれたのかな?」
ゾンビ(カール)「そうだったら嬉しいな!」
ミア「いや、あんたみたいな腐った魔物なんか知り合いに居ないわ」
ミア「ホーリーライト」
ゾンビ(カール)「のぁぁぁ~~~~!!!」
――間
ミア「まったく⋯なんなのよ」
ミア「こんなにしつこい魔物がいるなんて、最悪だわ⋯」
ミア「でも...なんか懐かしい感じなのよね...」
ミア「お姉さん...姉呼び...」
ミア「⋯」
ミア「まさか!」
〇黒
私が小さい時、家の隣りに男の子が住んでいた。私が歳上なのもあって、よくその子の面倒を見ていた
村一番のお転婆だった私は、その子を子分のように連れ回しては、遊んでいた
その時の僕は、身体が弱く、お姉ちゃんの後ろをついて行くのが精一杯で、よく転んでは泣いていた
そんな時、お姉ちゃんはいつも「男の子が簡単に泣いちゃダメよ」と言いながら、頭を撫でてくれた
ある日、二人で薬草摘みに行った時だった。
突然現れたスケルトンの魔物に襲われ、私は恐怖で身動きが取れず、殺られるのを覚悟したその時⋯
あの子は私を庇って、魔物から瀕死のダメージを負ってしまったのだ。
気がついた時には、魔物はいなくなっていて、近くで僕を抱きしめながらお姉ちゃんが泣いていた。
なんとか薬草を傷口に塗ろうとしてくれてたけど、出血は止まらなかった。
やがて僕の意識は⋯消えた。
それから私は、あの子を救えなかった己の無力さから、憎き仇のアンデッドを滅ぼす為に
神官になる決意をした。
――間
〇草原の道
ゾンビ(カール)「:あれ?お姉さん、今日はやけに静かだね?」
ミア「なんで⋯あの時、私を庇ったのよ?」
ミア「私なんか守る必要無かったのに!」
ゾンビ(カール)「あ⋯」
ゾンビ(カール)「良かった⋯思い出して、くれたんだね」
ゾンビ(カール)「なんでって、僕がそうしたかったからだよ」
ミア「っ!」
ミア「わ、私はあんたをずっと振り回して、危険な事に巻き込んだりして、最低なお姉ちゃんだったのに!!」
ゾンビ(カール)「違うよ⋯」
ゾンビ(カール)「お姉ちゃんは、身体が弱くて村でも皆からイジメられてた僕にかまってくれて⋯」
ゾンビ(カール)「いつも励ましてくれる、僕にとって、最高のお姉ちゃんだったんだよ」
ミア「なに⋯言ってるのよ⋯」
ミア「そんな、感謝される事なんか⋯なにも⋯」
ミア「それにあんたを死なせたうえに、こんな、アンデッドにさせちゃったのよ!」
ゾンビ(カール)「それは⋯」
ゾンビ(カール)「もう一度、お姉ちゃんに会いたかったからなんだ」
ゾンビ(カール)「会って、お姉ちゃんにどうしても伝えたい事があったから、この身体を借りてるんだ」
ミア「え⋯どういう事⋯?」
ゾンビ(カール)「お姉ちゃん」
ゾンビ(カール)「ずっと好きでした」
ゾンビ(カール)「そして、短い間だったけど⋯とっても幸せでした」
ゾンビ(カール)「僕の事は忘れて、元気でね」
ゾンビ(カール)「それじゃ⋯さよなら!ミアお姉ちゃん!」
ミア「ま、待って、カール!!」
ミア「嘘⋯」
ミア「⋯」
ミア「なによ⋯あいつ⋯」
ミア「言いたい事だけ言って、消えてさ⋯」
ミア「絶対⋯」
ミア「絶対、忘れてなんかやるもんか⋯」
ミア「私、なるから⋯」
ミア「今度は、誰一人、死なせないような」
ミア「立派な神官に、なるんだから!」
おわり
カールにとってミアの存在が救いだったのですね。自分が死ぬことになった(死にきれてないけど)原因でもある相手に感謝を伝えるためにずっと残ってたなんて。。ミアにとってもカールとの出来事が人生での大きな出来事だったのだと思いました。
ミアに思い出してもらうまで自分からは名乗り出ずに何度も現れるカールが不憫で健気でした。体が腐っても好きだったことを伝えたいなんて・・・。最後、一人前の神官になることこそが最高の供養だと分かっているミアもよかったです。