ラストクリスマスのプレゼント(脚本)
〇イルミネーションのある通り
メリークリスマス!
お前ら、ハッピーにやってるか?
今日は人生をハッピーにする方法を教えてやる。
女「待った?」
ツヨシ「いま来たとこ」
ツヨシ「これプレゼント、君につけて欲しい香水」
女「ありがとう! ぜったいつける!」
ツヨシ「じつは母親が倒れちゃって」
女「え!?」
ツヨシ「ごめん。デートはまた今度ね」
女「気にしないで。はい、これプレゼント」
女「ツヨシくんの欲しがってたライター」
ツヨシ「マジ? 高かったろ?」
女「ツヨシくんのためなら安いもんだよ」
ツヨシ「ありがとう。それじゃ、またな」
女「またねー!」
〇車内
で、恋人と別れた俺は、愛車に乗って病院に向かう――。
なんてことはない。
〇公園のベンチ
ツヨシ「お待たせ」
女「どうしたの? 顔色悪いよ?」
ツヨシ「じつは父親が倒れちゃって」
女「え? 大変!」
ツヨシ「とりあえずプレゼントだけ渡しておくね。君につけて欲しい香水」
女「ありがとう!」
ツヨシ「じゃあ、病院に行くから」
女「待って! 私からも!」
女「ツヨシ君の好きなブランドのシューズ!」
ツヨシ「ありがとう。また連絡するよ」
女「うん! 待ってる!」
〇車内
こうして、俺は車に乗ってやっと実家に向かう――。
なんてことはない。
これが人生をハッピーにする方法だ。
ツヨシ「そう、バカをだませ」
ツヨシ「ただし、金をもっているバカに限る」
ツヨシ「クリスマスはバカの財布も緩いから、今日は稼ぎ時だ」
〇広い改札
女「はい!」
女「ご指名のネックレス!」
ツヨシ「ありがとう」
〇新橋駅前
女「どうぞ」
女「欲しがってた腕時計」
ツヨシ「ありがとう!」
〇池袋西口公園
1本500円の香水10本が、すでに1500万円の稼ぎになっているが、本番はこれからだ。
最後の女は、何と車をプレゼントしたいという。
どんな女か? じつは顔も覚えてない。
久しぶりに連絡があって履歴をみれば、どうやら昔の女らしいが記憶にない。
なのに女はスーパーカーをプレゼントするという。
な? バカは金になるだろ?
サチ「お待たせいたしました」
ツヨシ「サチちゃん、久しぶり! 今日は久しぶりのデートだね」
サチ「ラストクリスマスです」
ツヨシ「は?」
サチ「ラストクリスマス、と言いました」
ツヨシ「・・・最後のクリスマスにしたいってこと?」
ツヨシ「クリスマスを最後にする気はないよ」
ツヨシ「俺は君と毎年クリスマスを楽しみたい」
サチ「おバカさんですね」
サチ「ラストウィークは先週、ラストイヤーは昨年」
サチ「つまり、ラストクリスマスは昨年のおクリスマスのことです」
ツヨシ「・・・昨年のおクリスマスがどうかした?」
サチ「サチさんとお会いしたラストクリスマスをお忘れに?」
ツヨシ「サチさんって君だろ?」
サチ「申し遅れました。私はこういう者です」
ツヨシ「曼殊沙華・・・霊媒師? 俺に何の用?」
曼殊沙華「ラストクリスマス、貴方とおデートしたサチさんの代理人です」
ツヨシ「ラストクリスマスに、デート?」
〇クリスマスツリーのある広場
ツヨシ「ふざけんじゃねーよ!」
サチ「ごめんなさい!」
サチ「この車しか買えなくて・・・ねえ、笑って受けとって」
サチ「これ五百万円するのよ? ねえ、笑ってよ!」
ツヨシ「約束したのは三千万の車だろ!」
ツヨシ「スーパーカーが用意できるまで俺の前に現れるな!」
〇池袋西口公園
ツヨシ「・・・思い出した」
ツヨシ「で、その代理人が何の用事だ?」
曼殊沙華「おプレゼントお渡しのお手伝いです」
曼殊沙華「サチさんからのおクリスマスプレゼントをお届けに参りました」
ツヨシ「マジかよ。スーパーカー?」
曼殊沙華「サチさんのおプレゼント、お受け取りしますか?」
ツヨシ「喜んで受け取るよ」
曼殊沙華「いいのですか?」
ツヨシ「もらえるものはもらう主義でね」
曼殊沙華「それでは・・・あのお車、見えますか?」
ツヨシ「・・・黒いベンツスターしか見えないけど?」
曼殊沙華「はい。そちらです」
ツヨシ「またかよ。あれはスーパーカーじゃないと言ったろ」
曼殊沙華「サチさんにはおスーパーカーでした」
曼殊沙華「ほうぼうに借金して手に入れたのです」
ツヨシ「だけどもう持ってるし・・・あれ? 俺のベンツスターじゃないか?」
曼殊沙華「いえ、サチさんがお買いになったお車です」
ツヨシ「でも今は俺のもの・・・おい、動いてるぞ」
ツヨシ「お前らグルで俺の車を盗むつもりか?」
曼殊沙華「盗むもなにも、お車のお名義はサチさんです」
ツヨシ「俺がもらったプレゼントだぞ! おい、車を止めろ!」
ツヨシ「サチはどこだ! どこかで見てるんだろ!」
曼殊沙華「お伝え忘れておりました」
曼殊沙華「サチさんはすでにお亡くなりです」
曼殊沙華「おサラ金に追われ、家族からも見捨てられ、お借金苦によるお自殺でした」
ツヨシ「え? し、死んだ・・・?」
曼殊沙華「腐乱死体になったせいか、ご本人のご才能か、サチさんは御怨霊と化しました」
曼殊沙華「そのままでは他の方々のご迷惑になるので、御供養すべくお連れしたのです」
ツヨシ「お連れしたって・・・どこに?」
曼殊沙華「お目を凝らしてご覧ください。サチさんはあちらのお車に」
〇車内
サチ「(ヒ・サ・シ・ブ・リ!)」
ツヨシ「な、なんだ、あれは!」
曼殊沙華「サチさんです」
ツヨシ「し、死んだのに・・・車の運転を?」
曼殊沙華「特級の御怨霊は人間界のモノに触れられます」
ツヨシ「く、車ならくれてやる! 付きあってられるか!」
〇池袋西口公園
ツヨシ「な、何だこれ、動けないぞ!」
曼殊沙華「お金縛りです。 サチさんのおプレゼントを受け取りになると言ったから、呪が効いているのです」
ツヨシ「こ、こんなプレゼントだとは聞いてないぞ!」
曼殊沙華「約束通り、サチさんのおプレゼントをお受け取りください」
〇車内
サチ「(ワラッテ、ウケトッテ)」
ツヨシ「こ、こっち来んな! 止めろ! 頼む!」
サチ「ワラエ!」
サチ「ワラエーッ!」
ツヨシ「わーーっグギャバギャゴキョグショッ!」
〇池袋西口公園
曼殊沙華「おハッピーメリークリスマス」
曼殊沙華「おバカさんが言う通りの意味で、ラストクリスマスになりましたね」
曼殊沙華「さて、みなさんはおハッピーですか?」
曼殊沙華「人生をおハッピーに生きる方法をお教えします」
曼殊沙華「高望みしないこと。それだけです」
曼殊沙華「御怨霊や御生霊で困ったことがあれば、曼殊沙華にご用命を」
曼殊沙華「それでは、ご連絡お待ちしております」
素直な感想ですが、当然の報いと思ってスカっとしてしまいました。華やかなファンタジーにどす黒いホラーの組み合わせ、不思議な感覚です!
そりゃ恨まれますよ。
サチさんはかわいそうなことになりましたが、最後はすっきりしました。
やっぱり報いは受けなくてはいけないと思います。
怖いけど、怖いけど何だかすっきりするお話しでした。人の気持ちをもてあそぶ人、遊ばれる人、色々な方がいますが人の子なんですよね。できれば人の気持ちを悲しませない人生を持ちたいですね。