エピソード5(脚本)
〇学校の校舎
次の日。
登校した俺の前には、いつも通りの光景が広がっていた。
〇教室
太陽の光が差し込む教室、くだらない話で盛り上がるクラスメイト、どこをとっても見慣れた景色だ。
由比隼人「おっはよ〜、茶村」
茶村和成「あぁ・・・おはよ」
由比隼人「なんかぼーってしてね? 大丈夫か?」
席について授業の準備をしていると、由比(ゆい)が声をかけてくる。
いつもの調子の由比に、思わずほっと胸を撫で下ろした。
由比隼人「あ、スワだ。 おはよー」
諏訪原亨輔「おはよう、由比に茶村」
茶村和成「ん、おはよ」
こいつは諏訪原(すわはら)。
俺と由比は「スワ」って呼んでいる。
剣道部の主将を務めていて、真面目で頼れる良いやつだ。
諏訪原亨輔「今日の1限は・・・数学か」
由比隼人「おう!」
諏訪原亨輔「・・・たしか、今日って由比(おまえ)が当たるんじゃなかったか?」
諏訪原亨輔「ずいぶん余裕そうだな」
由比隼人「んふっふっふ・・・」
由比隼人「今回はこの茶村くんに教えていただいたのでね! 余裕も余裕よ!」
茶村和成「まあ、教えたっていうか答え写させただけだけどな・・・」
諏訪原亨輔「ったく・・・」
諏訪原亨輔「式さえ書けば間違ってても許してくれるだろう、あの先生」
由比隼人「数学苦手なんだから仕方ないだろ!」
呆れたようにため息を吐くスワと、負けじと言い返す由比。
ふたりは中学からの付き合いで、ずっとこんな感じらしい。
スワの説教はしばらく続き、由比は慣れたようにそれを流す。
そうしているうちに、教室にホームルームが始まるチャイムが鳴り出した。
由比隼人「あっ、ほら鳴ったし俺自分の席戻る〜」
諏訪原亨輔「おい・・・、・・・まったく」
不満そうな表情でスワはため息を吐く。
俺はいつもとなんら変わらないその風景に安堵し、両手をぎゅっと絡ませた。
やっぱり昨日のことは全部幻覚だろう。
きっと、疲れてたんだ。
そうに違いない。
ガラリと教室の扉が開いて、担任が入ってきた。
〇学校の校舎
授業終わりのベルが鳴る。
昼休みだ。
〇教室
昨日詰めたきんぴらごぼう(結局たまごは買えず、代わりに安かったごぼうを買った)が入った弁当を開く。
由比とスワと雑談しつつ弁当を食べていると、突然クラスの女子たちがざわついた。
由比隼人「なんだあ?」
茶村和成「さあ・・・」
すると、クラスメイトが俺を呼ぶ。
「茶村〜、先輩が呼んでるんだけど・・・」
諏訪原亨輔「・・・呼ばれているらしいぞ」
茶村和成「・・・だな」
なにやらそわそわした表情のクラスメイトに疑問を抱きながら、席を立った。
〇黒
・・・なんだか嫌な予感がする・・・。
怪訝(けげん)な表情で教室の出入り口に向かうと、そこには。
〇教室
薬師寺廉太郎「やっと見つけたよー、やっほ」
茶村和成「・・・・・・」
目の前でひらひらと手を振っているのは忘れもしない、昨日の狐面男——
〇学校の廊下
「教室ではできない話、したいな。ココはうるさいし人目もあるから・・・ね」
薬師寺がそう言って微笑むと、わっと周りの女子たちが色めきだつ。
顔を引きつらせながら頷いた俺は、屋上へと続く階段の踊り場に来ていた。
うちの高校は屋上への立ち入りが禁止されているので、昼休みといえど人通りはほとんどない。
ぼうっと屋上のドアの磨(す)りガラスから差し込む光を眺めていると、するりと太ももになにかが滑った。
薬師寺廉太郎「いやー、今日もいい脚で」
茶村和成「っ・・・、死ね!」
薬師寺廉太郎「ぐふっ!」
正拳突きをお見舞いして、呻(うめ)きながら俺の太ももを触っていた手を差し出している薬師寺を見下ろす。
こいつも懲りないな・・・。
薬師寺は「効いたよ・・・」と親指を立てながら膝をついた。正直気持ち悪い。
薬師寺廉太郎「それじゃ、気を取り直して・・・」
薬師寺廉太郎「今日茶村に来てもらったことなんだけど」
話し出す薬師寺に、俺は慌てて声をかける。
茶村和成「その前に、俺から聞きたいことがある」
茶村和成「昨日のこと、あれは現実だったのか?」
薬師寺廉太郎「間違いなく、本当にあったことだよ」
茶村和成「じゃあ、あの・・・テケテケを倒した力はなんなんだ?」
茶村和成「お前は一体、何者なんだ?」
溢れ出る疑問を薬師寺にぶつける。
薬師寺は少し困った風に頬をかいた。
薬師寺廉太郎「だから言ったじゃん、怪異探偵だよ」
薬師寺廉太郎「あの力については・・・うち、そういう家系でね」
茶村和成「家系? 家系って・・・」
濁すような口調の薬師寺の言葉を繰り返し、さらに説明を促したが、彼はズィ、と上半身を乗り出して俺を指した。
薬師寺廉太郎「今度は俺が質問する番だよ」
薬師寺廉太郎「こんな怪異に巻き込まれやすい体質で、なんで今まで無事だったの?」
薬師寺の言葉に、俺は検討もつかなかった。
今まで生きてきて、怪異に巻き込まれたことなんて一度もない。・・・昨日までは。
さっぱり理由が分からない様子の俺を見て、薬師寺は考えるように顎に手をあてる。
薬師寺廉太郎「・・・もしかして過去に誰か、近しい人が亡くなってたりする?」
茶村和成「・・・ああ、両親が死んでる」
薬師寺廉太郎「ふうん・・・。 なるほどね」
薬師寺は合点がいったように頷いた。
俺にはまったく分からないんだが。
勝手に納得しないでほしい。
薬師寺は口角を少し上げ、目を細める。
薬師寺廉太郎「たぶん、両親の守護霊が君のことを守ってくれてたんだと思うよ」
茶村和成「守護霊・・・って・・・」
薬師寺廉太郎「彼らがずっと、茶村の怪異を引き寄せる力を抑えてくれていたんだね」
薬師寺廉太郎「でも、怪異と縁(えにし)の深いものと接触したせいで、その力が抑えきれないくらいに高まってしまった、と」
うんうん、と頷く薬師寺。
茶村和成「怪異と縁の深いものって?」
薬師寺廉太郎「俺だね」
茶村和成「お前のせいかよ!」
薬師寺廉太郎「でも旧校舎に来たのは茶村じゃん。俺が呼んだんじゃないもん」
まるで小学生のようなことを言う薬師寺に、怒るのもバカらしくなって肩を落とした。
薬師寺は冗談めかした口調で、まあ大丈夫だよ、とケラケラ笑う。
薬師寺廉太郎「初めて俺を見たときの茶村の顔、結構面白かったけどね」
茶村和成「そりゃビビるに決まってるだろ・・・七不思議に遭遇したんだぞ」
薬師寺廉太郎「んん?」
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