[6-2](脚本)
〇黒
〇保健室
保健医が電話をしている声だけが響く。
平良 (たいら)「・・・・・・」
凛はやはり体が辛そうに見えた。
保健医が言ったように、徐々に状態が悪化しているのかもしれない。
〇黒
〇保健室
香りのキツさは変わらず、花の黒さに変化もないようだった。
けれど、”だから安心だ”と思えるわけもなく ───。
保健医「ちょっと出てくるね」
電話を終えたらしい保健医がそう言ってドアへと向かうのを、平良は何気なく目で追った。
保健医が開けたドアの向こうに、階段に現れた教師の姿が見える。
だが教師はそのまま保健室には入って来ず、保健医と共に見えなくなった。
平良 (たいら)「・・・・・・」
凛 (りん)「・・・・・・」
凛 (りん)「・・・喜多川くん、本当にひとりで大丈夫?」
平良 (たいら)「────」
凛の方から話しかけられて、一瞬平良の反応が遅れてしまう。
平良 (たいら)「大丈夫だと思うよ」
平良 (たいら)「先生も、ホントにシャレにならない感じだったら許さないだろうし・・・」
凛 (りん)「・・・そっか。そうだよね」
凛 (りん)「良かった」
凛 (りん)「──── 喜多川くん」
凛 (りん)「ありがとう、助けてくれて」
凛 (りん)「でも・・・」
平良 (たいら)「お礼を言う必要なんてないよ」
平良 (たいら)「オレは・・・寧ろ、この状況に感謝したいくらいだから」
凛 (りん)「え?」
平良 (たいら)「君の体調不良に感謝するなんてろくでもないけど、」
平良 (たいら)「こうして話せる機会が出来たのは・・・良かったから」
凛 (りん)「・・・・・・」
凛 (りん)「・・・喜多川くんがあそこに来たのは、偶然なの?」
平良 (たいら)「───・・・」
平良 (たいら)「・・・この前君に言ったことが、全部ホントだから」
凛 (りん)「・・・・・・」
平良 (たいら)「今日は、いつもと違う香りがして」
平良 (たいら)「黒い花が、時々見えたんだ」
平良 (たいら)「気になって捜したら、黒い花が流れてきて」
平良 (たいら)「それを辿っていったら、君があそこにいた」
平良 (たいら)「黒い花が舞っていて、香りもやっぱりいつもと違っていて・・・」
平良 (たいら)「だから、何か起こっているのかもって思ったんだ」
凛 (りん)「・・・それで、自分のことは棚に上げて保健室に行けって言ったの?」
平良 (たいら)「・・・・・・」
今にして思えば、あの日の放課後に見た凛の花の色合いには違和感があった。
あれは、もしかすると体調の異変が始まっていたせいなのかもしれない。
平良 (たいら)「・・・ごめん」
平良 (たいら)「おかしなことばかり言って」
平良 (たいら)「この前も・・・変な誤解をさせたと思う」
結果的には凛のことが気になり始めているわけだが、あの時点では誤解だった。
平良 (たいら)「本当に、ごめん」
凛 (りん)「喜多川くん・・・」
平良 (たいら)「オレ、やっぱり色々と変なんだと思う」
平良 (たいら)「いつも ─── どこかズレてるんだ」
平良 (たいら)「余裕がなくなると、ひどくなるみたいだし」
平良 (たいら)「花の話も・・・オレにはホントなんだけど、でも、おかしいのは分かってる」
凛 (りん)「・・・・・・」
凛 (りん)「喜多川くん」
呼ばれて、無視は出来ずに平良の視線が凛へと動く。
同時にそこで、凛から目を逸らしていたことに気づいた。
ほんの少し気まずくて、平良は苦笑いを浮かべてしまう。
と、そんな平良に対して、凛はにっこりと笑んでみせた。
凛 (りん)「喜多川くんは、”そういう人”なんだね」
平良 (たいら)「!」
平良 (たいら)「里見さん・・・?」
凛の柔らかな態度に、平良の胸がそわそわとし始めてしまう。
最悪を覚悟する必要はないと、そう思ってしまった。
凛 (りん)「・・・私の方こそ、この前はごめんね」
平良 (たいら)「?」
凛 (りん)「その・・・あれには自分でもびっくりしちゃって・・・」
凛 (りん)「あんなことするつもり、なかったのに」
凛 (りん)「喜多川くんが言ったことに戸惑ったのもホントだけど、それ以上に多分・・・」
凛 (りん)「─── は、恥ずかしかったんだと思う」
平良 (たいら)「・・・・・・」
凛 (りん)「・・・喜多川くんに声をかけられた時、その、どきどきしてたから」
凛 (りん)「正直に言うと、告白とかされちゃうのかなって思ってて」
凛 (りん)「どうしようって考えてたの」
凛 (りん)「だから、喜多川くんの話が違ってて・・・そうしたら、そんな自分が恥ずかしくて」
凛 (りん)「考えてみたらまだここにきて1週間も経ってないのに、告白だなんておかしいよね」
平良 (たいら)「里見さん」
平良 (たいら)「あれは、オレが悪いんだよ」
平良 (たいら)「あれじゃ、そう思って当然だと思う」
平良 (たいら)「・・・オレも、」
平良 (たいら)「途中で、誤解されているかもしれないって思ったんだ」
凛 (りん)「・・・・・・」
平良 (たいら)「その時にもっと、オレが言えば・・・」
凛 (りん)「これは告白じゃなくて、不思議な花の話がしたいんですって?」
凛 (りん)「ふふ、あの時もしそう言われてたら、私どうしてたろうね?」
平良 (たいら)「・・・・・・」
凛 (りん)「でも叩いたのは私のやり過ぎだし・・・」
凛 (りん)「今更だけど、ホントは謝りに行った方がいいかもしれないって思ってたの」
凛 (りん)「・・・ごめんね、喜多川くん」
平良 (たいら)「・・・こちらこそ、ごめん」
凛 (りん)「・・・・・・」
平良 (たいら)「・・・・・・」
凛 (りん)「・・・私、謝りに行かなきゃって思う度に、喜多川くんが言ったことを考えてた」
凛 (りん)「花と、その香りの話」
凛 (りん)「嘘か本当か、からかわれているのか、色々考えたんだけど・・・」
凛 (りん)「─── でも、」
平良 (たいら)「・・・・・・」
平良 (たいら)「─── 信じて、くれるんだ?」
凛 (りん)「・・・・・・」
凛 (りん)「正直、その・・・よくは、分からないけど」
凛 (りん)「喜多川くんは私をそんな風にからかうような人じゃないってことは、分かったよ」
凛の周りに舞う花はまだ黒い。
これが本来の色であれば、今目の前にある光景はどれほどより綺麗に見えただろうかと平良は思った。
平良 (たいら)「ありがとう」
平良 (たいら)「すごく・・・嬉しい」
平良 (たいら)「─── 里見さん」
凛 (りん)「はい?」
平良 (たいら)「あの時は、本当に花の話をしたかっただけなんだけど・・・」
凛 (りん)「?」
平良 (たいら)「・・・オレ、君のことが好きかもしれないです」
凛 (りん)「え・・・」
平良 (たいら)「というか、好きになり始めているのかも」
平良 (たいら)「・・・初めてのことで、自分でもよく分からないんだけど」
平良 (たいら)「君のことが気になるし、君のことをもっと知りたいと思っています」
平良 (たいら)「オレと、友達になってくれませんか」
凛 (りん)「喜多川くん・・・」
平良 (たいら)「それで、君が好きだと確信したら、改めて告白させて下さい」
凛 (りん)「─── ふふ」
凛 (りん)「やっぱり好きじゃないって思ったら、どうするの?」
凛 (りん)「私、意識しちゃうよ?」
平良 (たいら)「あ、そうか」
平良 (たいら)「また君に迷惑が・・・」
凛 (りん)「でも、お互い様でいいんじゃない?」
平良 (たいら)「え?」
凛 (りん)「私も喜多川くんのこと気になるけど、そういう感情なのかは分からないし・・・」
平良 (たいら)「え」
凛 (りん)「お互い、知る時間を作って、その後のことはその後に考えればいいよ」
平良 (たいら)「・・・いいんだ?」
凛 (りん)「うん」
平良 (たいら)「・・・・・・」
平良 (たいら)「・・・ありがとう」
平良 (たいら)「よろしくお願いします」
凛 (りん)「こちらこそ、よろしくね」
〇黒