花。~オレにだけ見える花を咲かせている女の子がいました~

いとはと

[5-2](脚本)

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〇白

〇階段の踊り場

〇階段の踊り場
凛 (りん)「・・・喜多川くん!」
平良 (たいら)「───・・・」
???「あ、あたし、先生呼んでくる!」
凛 (りん)「喜多川くん、大丈夫!?」
平良 (たいら)「・・・里見さん・・・」
  段数がそう多くはない階段だったおかげか、平良のかばい方がうまかったのか、
  里見は平良の傍で座り込んではいたが、体に酷い痛みなどはなさそうだ。
平良 (たいら)(・・・良かった)
凛 (りん)「ごめんなさい、私、気分が悪くて・・・」
凛 (りん)「急に・・・目の前が真っ暗になっちゃって」
平良 (たいら)「・・・・・・」
  そう言う凛の顔色は今でもいいようには見えない。
  座り込んでいるのも、床に倒れた平良を心配しているからだけではないようだった。
  ふと、視界を舞う黒い花に焦点が合う。
  途端、まだどこかぼんやりとしていた平良の頭が一気に覚醒した。
  躊躇することなく、平良は傍にあった凛の手を掴む。
凛 (りん)「!」
  驚いたのか、掴んだ凛の手が強張った。
  だが平良はそれには構わず、凛を見上げながら口を開く。
平良 (たいら)「・・・行こう」
凛 (りん)「え?」
平良 (たいら)「保健室に、行こう」
凛 (りん)「あ、うん、そうだね」
凛 (りん)「ちょっと待っててね、今先生が・・・」
平良 (たいら)「・・・違うよ」
凛 (りん)「え?」
平良 (たいら)「里見さん」
凛 (りん)「喜多川くん?」
平良 (たいら)「オレはいいから、」
平良 (たいら)「早く、保健室に行って」
  平良は握った凛の手に、ほんの僅かに力をこめた。
  ─── 伝わってくる体温。
  ついさっき ─── 腕を掴み、体を抱え込んだ時にも思った。
平良 (たいら)「・・・熱があると思うんだけど」
凛 (りん)「───・・・」
平良 (たいら)「女の子の体温ってよく分からないけど、これは・・・熱いでしょ」
平良 (たいら)(・・・黒い花と香りは、このせいなのか?)
凛 (りん)「喜多川くん・・・」
平良 (たいら)「早く、保健室に行った方がいい」
平良 (たいら)「オレも後から行くから、先に行って」
  正直、体のあちこちが痛い。
  だがそれは当然の話だ。階段から落ちたら無傷では済まないだろう。
  でもこうして凛をかばえたのだから、今はそれで十分だ。
凛 (りん)「・・・一緒に行く」
平良 (たいら)「オレは大丈夫だよ」
凛 (りん)「なに言ってるの、置いていけないよ!」
凛 (りん)「・・・っ」
平良 (たいら)「───・・・」
  凛が泣いてしまうかもしれない。
  どうにかしなければ。
  そう思ったと同時に、平良の体は自然と動き出していた。
凛 (りん)「喜多川くん!?」
  凛の手を離し、あちこち痛む体を起こす。
平良 (たいら)「・・・オレと一緒に行くんだよね」
平良 (たいら)「行こう」
凛 (りん)「・・・喜多川くん・・・」
  そうして立ち上がりかけた、その時。
凛 (りん)「!!」
平良 (たいら)「あ」
凛 (りん)「き、喜多川くん、鼻血・・・大丈夫!?」
平良 (たいら)「あ、いや、これはこのせいだけではないというか・・・」
平良 (たいら)「うん、気にしないで」
凛 (りん)「こ、これ使って!」
平良 (たいら)「・・・・・・」
平良 (たいら)「ありがとう」
平良 (たいら)「でも、汚れるからいいよ」
凛 (りん)「そんなこといいから」
平良 (たいら)「でも」
凛 (りん)「いいの」
平良 (たいら)「・・・悪いから」
凛 (りん)「悪くないから」
平良 (たいら)「・・・・・・」
凛 (りん)「・・・・・・」
凛 (りん)「─── あ」
平良 (たいら)「?」
  凛が平良の背後に目を向けたので、平良もつられて顔を向けた。
  ─── と、ほぼ同時に顔に何かが押し当てられる。
平良 (たいら)「!」
  あ、と思った時にはもう遅い。白いハンカチには既に平良の血がついていた。
凛 (りん)「もう使わない意味がないよ」
平良 (たいら)「・・・・・・」
凛 (りん)「使ってね」
平良 (たいら)「・・・ありがとう」
  平良がおとなしく受け取ると、凛はイタズラが成功した子供のような顔で微笑む。
平良 (たいら)「・・・・・・」
  今もどこか具合が悪そうな凛が心配なのに、こうして話せている時間が終わることが寂しいと平良は思った。
平良 (たいら)(保健室、行かないと・・・)
  ゆっくりと立ち上がる。
  すると、ほぼ同時に凛もやはりどこか気怠そうな動きで立ち上がり、
  だというのに、平良を支えようとするような動きを見せた。
平良 (たいら)「ダメ」
  咄嗟に凛の顔の前に手を上げ、手のひらを見せたまま言葉でも制する。
凛 (りん)「でも・・・」
  凛も正しく平良の意図を解して動きをやめたものの、不安気な様子だ。
平良 (たいら)「汚れるし、元気じゃないんだからダメだよ」
平良 (たいら)「今度はひっかけもなしで」
平良 (たいら)「君をオレの鼻血なんかで汚すのはオレがムカつくから」
平良 (たいら)「ダメってことで」
  保健室で出たような間抜けな喋りはしたくなくて、平良はハンカチを顔に押し当てる力を弱める。
  するとまだ鼻血は止まっておらず、ハンカチに隠れて凛には見えないだろうが、血が流れ落ちてきて気持ちが悪かった。
  それでも、まだ言いたいことがある。
平良 (たいら)「里見さんは大丈夫?」
平良 (たいら)「ひとりで歩ける?」
平良 (たいら)「鼻血が出てなきゃオレが ──・・・」
  大丈夫か聞くだけのはずが、思わず言いかけて平良は口をつぐんだ。
  急に、先週、凛との間にあったことが思い出される。
  鼻血が出ていなければ、お姫様抱っこでもおんぶでも何でもして、凛を保健室に連れて行くことも可能ではあった。
  でもそれは、凛が許してくれるのであれば ─── という話であって。
平良 (たいら)「・・・今のは聞かなかったことにして」
平良 (たいら)「ごめん、この前のことをなかったみたいに話してるけど、ホント忘れたとかではなく」
平良 (たいら)「オレとしてはなかったことにしたいわけでもなくて ───」
凛 (りん)「喜多川くん、鼻血!」
平良 (たいら)「・・・あ」
  ちゃんと喋ることを優先し過ぎて鼻血が落ち、体操着に付着する。
凛 (りん)「─── ふふ」
平良 (たいら)「?」
  おもむろに、凛がくすくすと笑い出した。
  つられて平良の口元も緩む。
凛 (りん)「・・・ホントにもう、」
凛 (りん)「喜多川くんてば・・・」
凛 (りん)「ヘンなの」
平良 (たいら)「・・・───」
平良 (たいら)「・・・・・・」

〇黒

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