手紙(脚本)
〇住宅街
華蓮「秋夜・・・今年こそ一緒にクリスマス過ごさない? お母さんたちも「秋夜君なら大歓迎よ」って言ってるんだ」
秋夜「・・・悪い。やっぱりクリスマスは苦手でさ・・・ごめん俺帰るよ」
華蓮「秋夜・・・」
〇おしゃれなリビングダイニング
俺はクリスマスが嫌いだ。
別にカップルを妬んでいるというわけでもなく、十年前のあの日から全てが変わった。
〇病室
秋夜「お母さん! 今日はクリスマスだね! 僕、病室にいっぱいジュースやお菓子持ってくるね!」
十年前のクリスマス。
俺は母さんの病室でクリスマスパーティーを計画していた。
母さんは昔から病弱であの頃はよく入退院を繰り返していた。
父さんは俺が生まれた後に浮気が発覚して、家を出ていった。
俺はそういったことを理解しておらず、母さんには苦しい質問ばかりしていたのをよく覚えている。
秋夜母「・・・秋夜。お母さんが居なくても頑張ってる?」
秋夜「大丈夫! 今朝だって卵焼きだって作れたもん! 一人でも大丈夫だよ!」
秋夜母「そ、そう・・・良かっ・・・た」
バタッ!
秋夜「お、お母さん! お母さん!」
その年の俺へのクリスマスプレゼントは母親の死だった。
〇おしゃれなリビングダイニング
もっと母さんに何かしてあげられたのではないかと今でも考えている。
親孝行も出来ないまま、母さんは微笑みながら亡くなった。
・・・母さんとの写真ってまだあったかな。
〇古い畳部屋
俺は和室の押し入れを探り、アルバム、写真立ての写真を確認していくとあるものを見つけた。
秋夜「これって・・・手紙?」
手紙は写真立ての裏に潜んでおり、俺は興味本位で手紙の封を破る。
秋夜へ
中庭にクリスマスプレゼントを置いています。
宝探しみたいで楽しいと思うから探してね。
秋夜「宝探しって・・・今更、昔のプレゼントなんて・・・」
しかし、母さんからの手紙を無下にも出来ず、俺は中庭へと足を運ぶ。
〇アパートの中庭
秋夜「えっと・・・これか」
十年前に流行っていたアニメの缶箱の中には一通の手紙が入っていた。
秋夜「また手紙? 何で手紙なんか・・・あ」
俺は病室での母さんとの会話を思い出した。
〇病室
秋夜母「秋夜、クリスマスプレゼントは何が欲しい?」
秋夜「えっと・・・お母さんとクリスマスパーティー出来たらそれでいい!」
秋夜母「クリスマスパーティーもするけど・・・ゲームやオモチャとか・・・そういうのは?」
秋夜「うーん・・・」
秋夜「そうだ!」
秋夜「お母さんからの手紙が欲しい!」
〇アパートの中庭
俺は母さんからのクリスマスプレゼントを開けることにした。
秋夜へ
これが最後のクリスマスプレゼントです。
これから先の未来・・・と言っても難しいかな?
秋夜が生まれた時、本当に嬉しかった。小さな手で私の指を掴んでくれた時は思わず泣いちゃったな。
でも、お父さんがいなかったり、私も入院ばかりで家にいないことが多かったから寂しい思いをさせちゃった。本当にごめんね。
これから私が居なくても元気に真っ直ぐな心を持って未来に進んでください。
頑張れ秋夜! ずっと見守っています。
母より
秋夜「ごめん、母さん。 俺、全然母さんの願った通りに出来なかったよ。 華蓮にも冷たくして・・・」
秋夜「ごめん・・・母さん」
〇墓石
2022年、12月25日。
華蓮「おばさん、きっと秋夜のこと見守ってくれてるよ。 今日は誘ってくれてありがとう!」
秋夜「あ、あのさ・・・これから二人で遊園地でも行かないか?」
華蓮「え!? どうしたの、秋夜!? 熱でもあるの!?」
秋夜「真面目に言ってるんだよ!」
秋夜「俺もそろそろ一歩、未来へと踏み出さなきゃなと思ってさ」
華蓮「秋夜・・・うん!」
華蓮「それじゃあ、とりあえずジェットコースターは十回乗るよ!」
秋夜「おい!? 俺が絶叫系苦手なこと知ってるだろ!?」
母さんへ
これからも多分紆余曲折な毎日の繰り返しだと思う。
でも、俺は前に進み続けます。
あなたからもらったクリスマスプレゼントを胸に。
お母さんからのクリスマスプレゼントで、前を向いて進めるようになったんですね。
母の愛は素晴らしいと思いました。
きっと病気がちで気になってたんでしょうね。
心がほんのり温かくなりました。
お母さんからの手紙に思わずほろっときました。
ラストも秋夜が前に進もうとしていて、希望が持てて良かったです。
心の琴線の触れるとても素敵なお話でした。私も幼い頃父を亡くしましたが、大人になるにつれ父がそばで見守ってくれている実感が強くなりました。手紙っていいですね。彼にとって一生分のクリスマスプレゼントですね。