[3-2](脚本)
〇黒
〇一人部屋
知史 (さとし)「・・・なるほど」
知史 (さとし)「要するに、全部ぶっちゃけてきたと」
平良 (たいら)「ああ」
知史 (さとし)「花が見えて、香りもしますと」
平良 (たいら)「ああ」
知史 (さとし)「・・・だからオレと付き合って下さいと」
平良 (たいら)「それは言ってない」
知史 (さとし)「は~・・・」
知史 (さとし)「マジで例の話だけしてきたのか」
平良 (たいら)「ああ」
知史 (さとし)「・・・・・・」
平良 (たいら)「・・・・・・」
平良 (たいら)「・・・どうして・・・」
知史 (さとし)「いやそりゃお前なぁ」
知史 (さとし)「あの話をド直球ですりゃ当然だろうよ」
知史 (さとし)「・・・まぁ手が出る子はそう多くない気もするけど」
平良 (たいら)「・・・・・・」
知史 (さとし)「からかわれたと思ったんだよ」
平良 (たいら)「─── お前も?」
知史 (さとし)「え?」
平良 (たいら)「知史もオレがからかってると思ってる?」
知史 (さとし)「・・・・・・」
平良 (たいら)「知史は ───」
平良 (たいら)「・・・っ」
知史 (さとし)「思ってるとしたら今こうしてると思うのか、アホ」
平良 (たいら)「・・・・・・」
平良 (たいら)「ありがとう」
知史 (さとし)「べ、別に信じてるわけでもないぞ!」
知史 (さとし)「オレは自分で確かめらんねえことは基本的には信じらんねーし」
平良 (たいら)「うん そうだな」
平良 (たいら)「でも、ありがとう」
知史 (さとし)「・・・・・・」
平良 (たいら)「・・・・・・」
平良 (たいら)「どうして、」
平良 (たいら)「信じてもらえなかったんだろう・・・」
知史 (さとし)「・・・・・・」
平良 (たいら)「精一杯、話したんだけど・・・」
平良 (たいら)「オレの言葉で、オレのホントを伝えたかっただけなのに ───」
知史 (さとし)「・・・・・・」
知史 (さとし)「・・・お前を知らないからだろ」
平良 (たいら)「え?」
知史 (さとし)「だから”お友達になって下さい”くらいにしとけば良かったんだよ」
知史 (さとし)「親しくなってから話した方がまだマシだったんじゃないか?」
平良 (たいら)「そっか・・・」
平良 (たいら)「そうだよな」
平良 (たいら)「知ってもらえば良かったのか」
知史 (さとし)「平良?」
平良 (たいら)「今からでも知ってもらえば・・・」
知史 (さとし)「え、まさかお前」
平良 (たいら)「まだ諦めるのは早いよな」
知史 (さとし)「・・・そうきたか」
平良 (たいら)「からかったと思われたなら、そうじゃないって伝えたいし、」
平良 (たいら)「そう誤解させたなら、悪いのはオレだから謝らないと」
知史 (さとし)「お前・・・」
平良 (たいら)「それに、オレがおかしいにしても里見さんだけが特別だってことは確かだしな」
知史 (さとし)「・・・お前って、前向きよな・・・」
知史 (さとし)「─── はあ」
知史 (さとし)「引く時は引けよな、平良」
知史 (さとし)「あと1回くらいにしとけ」
知史 (さとし)「それでダメなら受け入れろ」
平良 (たいら)「・・・分かった」
平良 (たいら)「・・・・・・」
〇学校の屋上
〇黒
〇黒
〇一戸建て
〇一人部屋
深夜1時 ───
夕飯をご馳走になり風呂も借りた平良は、知史の部屋着を着て床に敷かれた布団の中へと入った。
─── そうして、どのくらい時間が過ぎただろうか。
知史 (さとし)「・・・平良」
「起きているか」という問いかけは続かなかった。知史は平良が起きていると分かっているらしい。
平良 (たいら)「ん?」
もそりと布団の中で寝返りをうちながら、平良は小さく応えた。
知史 (さとし)「お前は違うって言うけどさ、」
平良 (たいら)「?」
知史 (さとし)「お前のそれ、”好き”の始まりだと思うんだよなぁ」
平良 (たいら)「・・・・・・」
知史 (さとし)「それを「好きな子が出来た」って言うやつの方が多いと思うぞ」
平良 (たいら)「・・・・・・」
布団に入ってから、何度も思い出していたことがある。
屋上で見た凛の表情だ。
平良の話がいわゆる告白ではないと気がついた時だろう。
凛の顔は一瞬微かに強張り、その後に顔がみるみる赤くなっていった。
夕焼け色の中でもハッキリと分かるくらいに耳まで赤くして ───
それから間もなく、話を続ける平良の頬を平手ではたき、走り去っていったのだ。
平良 (たいら)(・・・泣きそうな顔・・・していたような気がする)
しっかりと見えていたわけではないが、平良をはたいた直後の凛の顔に浮かんでいたのは、怒りや軽蔑ではない。
平良 (たいら)「・・・知史」
知史 (さとし)「・・・おう」
平良 (たいら)「・・・オレ、多分 ─── あの子を傷つけたんだと思う」
凛は勘違いした自分を恥じらって焦ってしまったのだろうと、今頃になって平良は思い至り ─── そして。
平良 (たいら)「・・・オレ、ダメだなぁ」
凛の気持ちを思うと、胸が苦しくなった。
あのまま別れたのは失敗だったと思う。
”君は全く悪くない”とだけでも、絶対に分かってもらわなければならなかった。
知史 (さとし)「・・・やっぱ始まってるわ、お前」
平良 (たいら)「・・・・・・」
目を閉じれば、鮮明に思い出せるあの時。
好きだとか恋だとか言うには、まだ何もかもが知らなさ過ぎると思った。
彼女の周りにだけ咲く花。その香り。
─── 気にならないわけがない。
〇黒
〇学校の廊下
〇学校の屋上
〇一人部屋
唐突に現れた自分に対する柔らかな対応。
─── いい子だと思うに決まってる。
間違いなく、嫌いじゃない。
寧ろ、当たり前のように好感を抱いた。
平良 (たいら)(好きに・・・なる?)
平良 (たいら)(─── なっても・・・いいのか?)
こんなおかしなことが始まりでも?
平良 (たいら)「・・・・・・」
自分でそう思い、平良は小さく苦笑した。
考えてみれば、恋愛の始まりがどうあるものかなど、平良に知る由もない。
─── 経験がないからだ。
平良 (たいら)(そっか・・・)
すとん、と平良の中に何かが落ちてくる。
平良 (たいら)(”これ”が”そう”かもしれないのか)
平良 (たいら)(オレにとっては ───)
「始まってるわ、お前」
ついさっき知史に言われた言葉だ。
それが途端に重みを増して、平良の脳内で再生される。
平良 (たいら)(・・・・・・)
けれど、急に力が抜けてきて ─── 強い眠気が平良を襲い始めた。
隣りのベッドからは、いつの間に眠ったのか知史の寝息も聞こえてくる。
平良 (たいら)(────)
寝入る寸前、
平良はまた今日知ったばかりの綺麗な青い花を思い出していた ───。
〇黒
ついつい夢中になって読み進めておりました😆
恋を自覚する瞬間って、どうしてこう見守っていたくなるような、母性的なドキドキな気持ちになるんでしょうか...💦