サンタの息子はひきこもり

まあやん

エピソード1(脚本)

サンタの息子はひきこもり

まあやん

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〇炎
  この物語は
  
  聖なる夜に繰り広げられた
  
  男たちの記録であるー

〇星
三太郎「出発だ」
中井さん「はい」
  ギクッ!
  (ギックリ腰)
三太郎「うっ!」
中井さん「おやっさん!!」

〇レンガ造りの家
  三太郎の家

〇クリスマス仕様のリビング
三太郎「イタタ 悪いね、家まで送ってもらって」
中井さん「大丈夫すっか?」
三太郎「ああ 少し休んで、届けなければ 子供たちが待ってる」
中井さん「実は先程、世界サンタクロース協会にヘルプを頼みました」
中井さん「だから休んで下さい」
三太郎「むむ、やむを得ない」
三太郎「私は来年で80、少々長く働きすぎた もう潮時かもしれないな」
中井さん「確かに休息は必要です」
中井さん「でもおやっさん、引退なんて寂しい事」
三太郎「惜しまれるうちが華だ この家業は、私の代で終わられる」
中井さん「そんな」
三太郎「非常に残念だが」
中井さん「キヨシ君に跡を継いでもらう訳にはいかないんですか?」
三太郎「それは無理だ」
中井さん「俺がフォローします」
三太郎「そうじゃない、キヨシは・・・・・・ ずっと引きこもっているんだ」
中井さん「えっ!引きこもり?!」
中井さん「キヨシ君、お仕事は?」
三太郎「無職だよ」
中井さん「すみません何も知らずに」
三太郎「もう35年だ ノックしても、全く開けてくれない」
中井さん「信じられない 俺の記憶では人懐っこいキヨシ君のままなんで」
三太郎「話さなかったからね 心配させちゃ悪いから」
中井さん「水臭いじゃないですか」
三太郎「いや正直言うと、プライドが邪魔して隠してた」
三太郎「愚かな男だよ私は」
中井さん「そんな」
中井さん「今も部屋にいるんですね」
三太郎「ああ 開かずの部屋だがな」
中井さん「分かりました 俺、行ってきますよ!」
三太郎「中井さん!ちょっと!」

〇汚い一人部屋
  キヨシの部屋
  ドンドンドン!
  (ドアの叩く音)
  (外の中井さんの声)
  キヨシ!いるんだろ?
キヨシ「な、なんだ?」
  (外の中井さんの声)
  中井だよ!
  お前が子供の時よく遊んだろ!
  なあ、開けてくれよ!
キヨシ「は?開けるわけねえだろ シカトだよ、シカト」
  (外の中井さんの声)
  俺は鹿じゃない!トナカイだ!
  バンバンバーーーーン!
キヨシ「と、扉が、こ、壊れた!」
中井さん「イタっ!」
中井さん「くそっ!ツノが少し曲がったじゃねえか!」
キヨシ「何、突進して入ってんだよ!」
中井さん「キヨシ、ずいぶん老けたな この間まで、こんなちぃっちゃかったのに」
キヨシ「いつの話だよ!」
中井さん「高い高いしてやろうか?」
キヨシ「は?オレ50だぜ」
中井さん「じゃあ、お馬さんごっこしようか? あっトナカイさんごっこだな」
キヨシ「どうでもええわ!」
三太郎「キヨシ!」
キヨシ「アンタ、何でここにいるんだよ! とっとと世界中の子供たちんとこ行けよ!」
キヨシ「大事な子供たちんとこによ!」
中井さん「父親に向かってそんな言い方無いだろ!」
キヨシ「父親?はあ?」
キヨシ「父親らしい事したことあったっけ? 我が子より、 世界中の子供たちが一番大事な野郎が」
三太郎「いや、そんなつもりは 話を聞いてくれ」
三太郎「あれは遠い昔・・・・・・」

〇クリスマスツリーのある広場
  (三太郎の声)
  幼いキヨシはクリスマスが大好きだった
  (三太郎の声)
  サンタに扮した私を、本物だと信じ
  目をキラキラさせて喜ぶキヨシの姿が
  忘れられなかった
  (三太郎の声)
  それで私は、本物のサンタに就職したんだ
  キヨシが喜ぶと思って・・・・・・でも

〇汚い一人部屋
三太郎「私は色々と間違えてしまった」
キヨシ「このサンタ馬鹿のせいで、オレらはずっとないがしろにされ」
キヨシ「母さんの葬式でさえ・・・・・・」
三太郎「すまない」
三太郎「今日でサンタを引退したんだ」
三太郎「もうただの老いぼれだ」
三太郎「今まで寂しい思いをさせて、すまない」
キヨシ「うるせー!」
キヨシ「ここはオレの城だ! 部屋から出てけよ!」
中井さん「キヨシ!」
三太郎「いや、いいんだ」
三太郎「これは私からのクリスマスプレゼントだ メリークリスマス」
中井さん「おやっさん!」
キヨシ「やっと出てった プレゼントってこれ」
中井さん「おやっさんが脱いだ帽子」
キヨシ「こんなもん、こんなもん!」
中井さん「おい、踏んづけるな」
キヨシ「燃やしてやる」
中井さん「馬鹿野郎!」
  パン!!
  (ビンタ)
キヨシ「イタっ!殴ったな!」
中井さん「おやっさんはな!」
中井さん「昔鼻をバカにされ 非行に走って荒れていた俺を 救ってくれた恩人なんだよ!」
中井さん「おやっさんの汗と涙が染みついた帽子」
キヨシ「知るかよ」
中井さん「おやっさんがほんとに救いたかったのは 俺じゃなくて本当はお前なんだよ」
中井さん「不器用な男なんだよ!」
中井さん「ううう・・・・・・ (嗚咽)」
キヨシ「泣きてぇのはこっちなんだよ」
中井さん「キヨシ、ずっとつらかったんだよな」
キヨシ「ううう・・・・・・ (嗚咽)」
中井さん「よしよし」
キヨシ「子供扱いすんな」
中井さん「俺にとってはガキだよ」
キヨシ「頭撫でるなよ うっとうしい」
中井さん「いいだろ」
  ポトッ
  (帽子の落ちる音)
中井さん「帽子の中から何か出てきたぞ」
キヨシ「通帳!オ、オレ名義だ」
キヨシ「手紙もある」
キヨシ「『私は家を出ていくよ。愛するキヨシに幸あれ!』」
キヨシ「はあ? 部屋を出てけとは言ったが、 家を出てけとは言ってないぞ!」
中井さん「毎月積み立ててる これはサンタ手当全額!」
中井さん「おやっさんは一文無しじゃねえか」
中井さん「ギックリ腰だってまだ治ってないのに」
キヨシ「なんだって?! ふざけた真似しやがって!」
キヨシ「追いかけるぞ! 親父はそんなに遠くに行ってないはずだ」
中井さん「何だかんだ言っても、おやっさんを 心配してるんだな」
キヨシ「か、勘違いすんなよ」
キヨシ「このふざけたプレゼント、叩き返すだけだ!」
中井さん「ソリに乗りな 速いから」
キヨシ「分かった」
中井さん「これもかぶるんだ」
キヨシ「はあ?」
中井さん「冬の夜空をなめちゃいけない 寒さから頭と耳を保護するんだ」
キヨシ「でも」
中井さん「つべこべ言わない」
キヨシ「分かったよ」

〇星
  (中井さんの声)
  帽子似合ってるよ
  (キヨシの声)
  からかうな
  (中井さんの声)
  この際サンタになるか?
  (キヨシの声)
  うるさい
  (中井さんの声)
  お前を殴ったヒヅメが痛むなあ~

〇山の展望台
  ふたりは
  ソリに乗って
  三太郎を探すのだった      
                  完

コメント

  • 現実と非現実をこんなに上手く掛け合わせた人情者ストーリー読んだの初めてです。後書きから、昭和のニュアンスを含んでいたところも、昭和生まれとして嬉しいかぎりです。きっとハッピーエンドなんだろうと希望をこめて!

  • ひょっとしてスクールウォーズですか?
    トナカイさんがいい味出してて、すごく楽しく読めました!
    たしかに親がサンタさんだと、クリスマスに家にいてもらえないですよね。寂しいのもわかります。

  • 登場人物の名前がまずおもしろい!キヨシさん、なんだかんだ言って結局サンタ帽かぶってトナカイにのってるって、さんたさんにハメらてたのかな(笑)このままサンタになって、ニート卒業できそうね♪くすっと笑えるストーリーでありながらも、人間の不器用さや、親子の愛情の描写がリアルであるあるな感じでした。

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